伸びるチーズ

この世界にも、少しずつ気づいてしまった人が増えてきた頃ではないでしょうか。「“チーズの伸び”は“美味しさ”に比例しない」ということに。

チーズは伸びれば伸びるほど美味しいという訳ではない。よく考えてみればそうでしょう。チーズがビヨーンと伸びている時間、それは私たちの口にチーズが存在していない時間でもあります。私たちの口に当の本人が入ってくる頃には、伸ばされすぎて、冷たく、か細い姿に変わり果ててしまっている、そんなチーズを美味しい美味しいと咀嚼する私たちは何と幸せなのでしょうか。何の面白みもないことを言えば、チーズがどのくらい伸びるかは、そのチーズのポテンシャルと、そのチーズがどれだけ熱されているか、どのくらい伸びてほしいと人から願われているかによるのです。いつから、人はチーズに「伸びてほしい」と願うようになったのでしょうか。「インスタ映え」とかいう華やかで空虚なものを人が喉から手が出るほど求め始めた頃か、それともそれ以前の、高貴な方々が伸びるチーズを賞賛し始めた頃か。知らない。

伸びるチーズ自体、無価値という訳ではないと思います。チーズフォンデュの場合、ブロッコリーやソーセージなどの固形物をとろりと包み込んでくれます。硬めのチーズでは成し得ない技です。
チーズがたっぷり載せられて焼かれたピザはどうでしょうか。ピザはみんなで分け合って食べるものですから、ビヨーンと伸びるピザにその場が盛り上がることでしょう。

今日、私は大学の食堂(略して学食)に1人で行きました。なんとなく美味しそうだったのでチーズリゾットを食べることにしました。熱々のリゾットの上に振りかけられたとろけるチーズは、案の定すっごく伸びました。恥ずかしい。恥ずかしい。1人でびよーーんとチーズを伸ばすことがこんなにも恥ずかしいものかと頭を抱えました。誰に自慢するでもなくただ細長く伸び続けるチーズは1人ぼっちの私の敵でしかありません。縮め。縮め。伸びるな。伸びるな。そう願うほど伸び続けるチーズです。リゾットは、美味しかったです。

この世界から伸びるチーズが無くなることはないでしょう。伸びるチーズが好きな人がたくさん存在しているからです。ただ、忘れないでほしいことは、伸びるチーズに伸びないでと願う人も存在しているということです。人もチーズもそれぞれです。共存していきましょうよ。

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