〈自然〉と〈文字〉の関係を捉え直す 500m美術館 鈴木ヒラクの壁画を観て
札幌、500m美術館。札幌は地下道が発達している。理由はもちろん冬の厳しさを凌ぐためで、全体では6Kmにもなる地下空間が広がる。
そんな地下道に、アーティストの鈴木ヒラクさんのドローイングが延々と続く空間がある。
ドローイングの起点となっていたのは、余市にある『プゴッペ洞窟』の線刻だ。北方に起源があるといわれるその文様のパターンひたすらに反復しているようにみえながら、しかし、そこから次第に、別の何かへとトランスフォームしていく、そのプロセスを歩きながら追体験する感覚があった。
ドローイングの途中に、北海道にある縄文時代のストーンサークルの写真が差し込まれており、その写真の上にシルバーの線が風景の輪郭を模っていた。
それはマーク・チャンギージーの一般文字理論を彷彿とさせる。
チャンギージーは、世界中にある様々な種類の文字の構成パターン(I、L、Y、Xなど)を抽出し、どんな文字も極めて近い構造をしていることを実証した。その結果から「私たち人類は同じ文字を使っている」と喝破するのだ。
さらに、自然界にある物や風景(建物など人工物も含む)の輪郭を19パターンに分類し、それを「下位構成物」と名付け、それが人類が生み出した文字のパターンと同じ頻度で出現することを、ビックデータからはじき出す。
つまり、人類が、この地球に生き、今の様な目の構造を持つ限り、同じ文字(一般文字)を必然的に生み出してしまうのだ、と。
ヒラクさんは、自然(唯物論的な意味で)と文字の関係をもう一度捉え直すように、執拗にスタディを繰り返す。どこからが自然でどこからが文字なのか、そしてまた別の何かへと指向していく。それは、文化の発生、世界と人間との関係を問うことと等価だ。
ドローイングを目で追いながら、それらを越境する瞬間に立ち会う興奮に包まれる。
これが、札幌の地下空間で繰り広げられているのも示唆的だ。ラスコー洞窟をあげるまでもなく、太古より、人類にとって洞窟はイマジネーションの源泉であり続けた。しかし、それは現代の都市空間であっても可能なことを、ヒラクさんは証明しているかのようだった。
しかし、さらに驚くべきは、これがたった1日で描(書)かれたということだ、、。その身体感覚と動体視力が、アーティストたり得る職能のひとつなのかも知れない。