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Monthly Letter Dec-2024 from otsuchi town c.r.c.s
12 月は空が忙しくなる
冬の空は
機嫌を測りかねる愛する人のようだ
Bosnia Herzegovina
1111-Pahm Chrishenz
一時は凍てついた雹が大地を叩いたかと思えば、すぐに雪が景色を白く包み込む。束の間の晴れ間には光が水面を煌めかせる。
その忙しさに比例するように職場にも足跡が増え、変わりゆく季節の気配を肌で感じながら、今日も今日とて命を育む。
1.一魚一会の定期勉学会
出社後には必ず、プレゼンを兼ねた学ぶ会が開催される。早朝7時からの学ぶ会というと堅そうなイメージだが、幸いにもそのイメージ通りの時間だ。
質問や疑問を各々が持ち寄り、ゲノム編集技術の活用と可能性やらをDNAレベルまで掘りつつ国内外の養殖業における技術レベル、価値観の違いを学ぶ。競合他社のウィットを把握しつつ、今日の業界全体の景色を掴む貴重な機会だと感じる。
有り難いことに聞き役はゼロで、聴くか訊くの熱量しかなく、且つ、御喋りが得意よりの好きな人しか居ないので俗に言う生産性の高い建設的な議論になる時間のようだ。かくいう私は、煽られながらも必死についていくことで自身を褒めているのは言うまでもない。
過去のキャリアや知見経験、年齢も様々だが、各々の目線から投げる仮説や疑問は意外にも記憶の部屋へ重要書類として溜まっていく。私にとってはいくつかあるうちのお気に入りの時間だ。
ある日の議論でサケとマスの生態について情報が飛びかう中、頭に芳醇なワインと爽やかなスパークリングの絵が浮かんだ。決して不純な発想をしていた訳ではなく、自分なりに知識を仕舞おうとした結果、そういう話に置き換えないと綺麗に畳む事ができない性分らしい。
自然の物語にたとえるなら、サケは川と海を巡る壮大な旅人。対して、マスは淡水に腰を据えた静けさの中で佇む哲学者だ。それぞれの個性は、一口で鮮明に感じとれる。サケは脂の甘みと濃厚さが、熱を加えることで深みを増す。一方、マスはその繊細で上品な味わいが、生のままの姿で最も輝く。共通概念としてそれぞれに合う"おのみもの"は既に決まっているようだが、個人的には芳醇なワインと合いつつもスパークリングの爽やかさを引き立てる様なメニューを考えたい。自己満でしかないが、キッチンと向かい合う意義が日に日に増えていく。
2.FEED感×SPEED感
稚魚としての姿から漂う幼く儚げな雰囲気に将来的な不安を感じる、なんていうのは我々人間から見たエゴなのだろう。まだ見ぬ景色を求め優雅に彷徨う彼ら全ての存在が私の心を彩る希望のかけらでもある。
日々訪れる餌を与える瞬間は、まさに成長の礎を築く時間。稚魚の動きを注意深く観察しながら、その成長段階に適した餌を選び、量や頻度の微調整を繰り返す。
小さな命が力をつけていく様子が日々の苦労に笑みを足してくれる。成長の手助けをしているのではなく、共に成長しているのだと思わされる瞬間が、そこにはある。
3.数多の水槽と草剤
稚魚たちが暮らす水槽の掃除は欠かせない。澄んだ水を保つために、一つひとつの水槽を丹念に磨き上げる。常の掃除でも時間をかけてすべてを清めてはいるが、そんなことは遥か昔のようだと苔が語る。水槽に新しい水を張るたび、どこまでも重なる透明感に目を奪われ、達成感が湧いてくる。
意外かもしれないが、
敷地上全体の除草作業も欠かせない。重要なのは"危険因子を全て"取り除くこと。自然と共に進めるこの営みでは、どんな些細なことも命に影響を与える可能性がある。草剤を使えば楽ではあるが、その成分が一滴でも跳ねて水に溶け込み、害を及ぼす危険性を考えると安易に選択できない。
"未来"の一人一人の食卓を想い、"過去"の一本一本を根元から取り除く。単調でありながらもこの一魚一会を守る"今"の延長が、命が育つ場を整えることにつながる。それは、時代が移ろうとも技術や効率だけでは語れない、自然と向き合う者としての責任だと思う。
4.演題:饗宴(仮)
寒風の夜、ささやかながらも華やかな宴を開いた。招いたのは、日頃お世話になっている方々。借りもののホットプレートの上にちゃんちゃん焼きを拵えた。慣れ親しんでいない味付けをするのは心が落ち着かなかったが、各々の箸が勧むのを見て、その落ち着きのなさも萎んでいった。
刺身にすれば脂のりに唸る。
半生の燻製にすればその鮮度に驚く。
どの料理に変えても、奥深さと喜びを添えてくれる桃鮭。
料理を楽しむ合間には、育つ過程について話をした。目の前の一皿が出来上がるまでにどれだけの人・時間・タイミングが関わってくれているのかを知ってもらうことで、単なる食材ではなく、その背景にある物語を届けていく。伝えるのではなく、"伝わる"時間を共有しつつ、町の未来に価値を残していきたいと切に願う。
Epilogue
皆様、ごきげんよう。
12月もあっという間に過ぎていきます。山でも町にも雪が淡々と降る様な日々が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか。
月を通して天候が模様を変え続けましたね。天候も変化を続けていると言うと響きは良いですが、職業柄、通年春と秋の様な過ごしやすい気候であってほしいと思う私です。
とはいえ、その変化に合わせて生きている私たちもまた、日々新たな課題と向き合い、乗り越え、それぞれの環境で戦っているのですから、美しいとしましょう。
世界には言葉では表し尽くせない喜怒哀楽が次々と生まれますが、目の前の出来ることを通して、次に迎える空が"ささやか"でも明るい表情を見せてくれるように毎日を過ごしていきたいものですね。
最後までスクロールして頂き、ありがとうございました。
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