本を作れてよかった
振り返る前にお伝えしたいこと
重版をお待ちいただいていた皆様にご報告いたします。
この本は、刷れば刷るほど赤字になる計算で作ってしまったため、すぐに「重版します!」とお答えすることができませんでした。
詳細は未定ですが、次回の企画に合わせて予算の見直しを行い、既刊としての販売(そして委託販売)に出せるよう準備を進めてまいります。
関心を寄せてくださったにもかかわらず、本誌をご用意できず申し訳ございませんでした。
次回のお知らせにて、また思い出していただければ幸いです。
2週間経って、ようやくアイマスEXPOから感情が帰ってきたのでこのnoteを書くことができました。いろいろなことがありすぎて、すべてのことを書けるわけではありませんが、個人的にキーポイントだったなと思ったところを振り返っていきたいと思います。(このnoteに書かれていること以外で、誰かに助けられたシーンがたくさんありすぎて書ききれないためです。全関係者に感謝を。)
決断
2024年7月。早いもので、shinylaboというシャニマス創作・研究サーバーを立ち上げてから1年が過ぎていました。
この1年間で、サーバーメンバーからポツポツと出ていた話が「shinylaboで同人イベント出ちゃえばいいんじゃないの」というものでした。
当時は、shinylaboとしての出展スペースだけを確保しておき、各人の創作物をそのスペースの中で展示・頒布するという構想がメインで、
それはそれでおもしろそうだなと思いつつ、実現までのリサーチをする熱量までは至らなかったのを覚えています。
そんな折、アイドルマスター公式からの特大イベント「アイマスエキスポ」の開催が発表されます。
この発表を受け、サーバー内でのアイマスエキスポに参加する機運が高まる一方、私はサーバーの管理人としてイマイチ踏み切れていませんでした。「みんなこんなこと言っているけど参加してくれるだろうか……焚きつけるだけでやらないとかがどれくらいあるだろうか……」など、大型企画を立ち上げたあとの敗戦処理に脳がフル回転する、極めて保守的な下振れ思考が発動していました。
それでも、本を出してみたいという気持ちには変わりがなかったのと、自分ひとりで書き進められるであろう企画が何本かあったこと、いうてこの人は参加するやろという目星のついたメンバーが何人かはいたことから、shinylaboとしての企画参加を決定しました。
このときの着地見込みは、
・自分が2企画20pくらい書く。
・他の数名で20pくらい書く。
・40p 500円くらいで配れたらいいな~
でした。実物をお持ちの方は鼻で笑うでしょう。当時の私は本気でそう思っていました。正直なところ、メンバーの創作意欲をナメてしまっていたのかもしれず申し訳ないなという気持ちが湧いています。いやでも4倍て。
もう一つの解決すべき下振れが出費面でした。同人イベント参加は赤字前提という話を周りから聞いていたのと、合同誌をやる上で、他の方の原稿で俺が潤ってはまずいだろという感覚から、「いくらまでなら赤字を許容するか?」という問いに答える必要があったのです。
これに関しては、世界情勢の悪化に伴って自分が保有していた金(ゴールド)の資産価値が上がっていたため、運用益でカバーできるか!という低レベルノーベル財団のような意思決定で事なきを得ました。
また、「海外旅行に一回行く」か「本を一回出す」だとどちらが人生の実績が解除されるだろうという思考もめぐり、余裕で「本を出す」に軍配があがりました。この決断は今振り返っても非常に良かったと思っています。
それでも、私の下振れ思考は予想以上の参加者数のおかげで瓦解し、もう一つの不足要素を私に突きつけることになりました。それは主催としての役割の増加であり、「なぜやるか?」の思想の部分でした。
思想から事物まで
参加者が20人近くになったことを受けて、主催としての詰みパターンがよぎりました。それは、人数に対して指数的に増えていくであろう何かしらのトラブルや決断事項に対し、個別に事情を聞いて都度判断を繰り返していく姿勢を取ってしまうことで、主催機能がパンクし、企画自体が空中分解するのではないかという危惧です。
これに対する対応策は、事前に明確な判断基準を持っておき、企画全体を通して堅持することだと思いました。今までシャニマスで育ってきたんだから、思想の言語化ぐらいできらぁ!と思い、サークル参加の当落発表までの1ヶ月間、企画がまだ本格的に動き出していない今のうちに考えておくことにしました。
(考えることにしたもう一つの理由は、サークルプロデュース権応募にあたって、任意でアピールポイントを書く欄があったからです。内心、当選した理由の1割くらいはこれじゃないか?とも思っています。)
まず出発点として、アイドルマスターとして行う、「アイマスEXPO」というイベントの中で、ブランドの中でもシャニマスの、合同誌をshinylaboとして作成・頒布するという状況を捉え直したいと思いました。これを実現するために、改めてそれぞれの要素についての意義を考えていくならば、
アイドルマスターとしての意義……アイドルマスター自体が、公式と個人との距離感が近く、創作の生態系としても非常に民主的な、ユーザージェネレーテッドコンテンツの力で発展してきた先駆けとなるコンテンツであり、そうあり続けていること。
アイマスEXPOの意義……アイドルマスターという生態系に向けられた様々な熱量(アイ)を、実際のイベント会場でもって現実世界に具現化するという極めて挑戦的な試みであること。
シャニマスを選んだ意義……作品として伝えたい思想から事物まで神経が行き届いている美しさ。正しい意味での確信犯として、これを伝えたいんだという思想から出発し、ユニットごとのコンセプトやシナリオごとのメッセージ性に降ろされ、それらを実現する描写のひとつひとつが、現実世界に存在する細かな着眼点にまでつながっている美麗さ。この、思想を頂点として現実世界を裾野とする、演繹のピラミッドが非常に高いところ。
また、思想の内容としても、人間1人分くらいにできることの限界を認めながら、あらゆることを受容し(ときには受容しないことすら受容し)、多種多様な視点を許容することの幅広さがあるところ。ときには、作品として描くのに向いていない”醜い”感情にも接近し、メッセージを届けようとする営み。
そしてこれらの意義から、シャニマス合同誌を主催するにあたっては下記を貫徹しようと決めました。
・挑戦的な試みであるから、コケても大丈夫なように準備し、正々堂々と困難に挑むこと
・シャニマスに対する思想から表現の最後までが一貫していること
・現実世界と接続する場合は、その根拠を明示すること
・内容はもちろん、一目見るだけで「多様だ」と思えるものに仕上げること
そして、これらをshinylaboとして実施する場合に以下の事を考えました。
・挑戦するための準備として、スケジュールに相当な余白を持つ
・サーバー内では、視点が様々な人が普段から好き勝手やっている→多様さの確保のために、主催として自由度を確保に注力する
・shinylaboとしてのコンセプトは研究なので、学究的なコンセプトを持つ誌面にする
・研究者あさひをアイコンとしているので、(主催の独断が多分に入っているが)vol.1のイメージカラーは赤色とする
・多様な企画をより際立たせるために、企画を横断した統一的なレイアウトをなるべく使わず、企画個別のレイアウトを設定する
このあたりまで決まった段階で、表紙のデザインを魅夜(@M_ya0909 )さんにお願いしました。shinylabo1周年記念でいただいたイラストが気に入りすぎてスマホの壁紙にしていたためです。
依頼内容としては「めっちゃ赤で、研究者あさひで、文字の奥にイラストがある表紙がいいです」とだけお伝えしました。ほかは指針通り自由でお願いをしたら、
これが来ました。想像の上を撃ち抜かれたね。もともとの実力を信用していたのと、こだわりたい点がオールクリアだったのでノリノリで一発OK。
自分の中で思想がしっかり定まっていると、こんなにも迷わないし依頼先への意味不明なリテイクも出さずにすむんだなと学びました。
思想から事物までの成功例を一つ目撃できたことで、あとは企画全体にその成功がいきわたるよう頑張ろうと気を引き締めました。なぜなら、「企画ごとにレイアウトを変えると決意した以上、文字組みなどに使用するDTPソフトウェアを使いこなさなければいけないが、自分は一回も使ったことがなかった」からでした。やべえ
vs InDesign
アイマスEXPOも、283プロも、やったことのない初めてに体当たりでぶつかり、なんとかしようと挑戦をしています。
では、そのときの私は何にぶつかっていたのでしょうか?
そう。Adobe InDesignです。
企画の多様性を主催自らの手で増幅させると決めてしまった以上、各企画それぞれ違うレイアウトを作らねばならず、そのためには版組ソフトを手足のように使いこなせなければなりません。
しかし残念なことに、無からスキルが生えてくるわけがなく、Adobe サポートサイトとにらめっこしながら挙動を確認していきました。
フルマラソンを走らなきゃいけないのに赤ちゃんのハイハイから始めているような状態です。学習時にも焦りが伴い続けます。
一人では到底走りきれないと思ったため、伴走者を確保しようとつねさんに助けを求め、VC上でIndesignの勉強会を始めました。
自分の原稿を校閲している間につねさんに学習用テンプレートを作成してもらい、設定を弄りながらIndesignの挙動を理解することで、なんとか狙ったところに文字を置くことに成功しました。
ここまでくればあとはデザインセンスの問題です。
ああ。デザインセンスも無いです。これも解決しないといけませんでした。
まるで知識がないので、楽天マガジンを契約して雑誌を見漁って分野ごとのレイアウトあるあるを探しに行くことにしました。
文字内容は一切気にせず、全体のレイアウトや色使い、フォントだけを流し見する体験があまりに新鮮で、途中から「俺は何を見ているんだ?」という気持ちになりながらジャンルごとの特徴をまとめていきました。例えば、
経済誌……モノクロ+1色(だいたいは記事ごとのブランドカラー)でスッキリまとめている印象。4~5段組みが多く、明朝体・ゴシック体の併用。図表が意外と適当。
文芸誌……モノクロが多い。一文一文を読ませるために1段あたりの文字数が多く、2~3段組み。明朝体が多いが、誌面自体の年齢層が低い場合はゴシック体になることも。
情報通信・ガジェット誌……誌面を4~6分割したようなぱきっとしたレイアウトが多い。(この点、オシャレさには欠けることが多い。ファッション誌などはもっとジグソーパズルのように分割していく。)ゴシック体が一番多く、色合いもフルカラーめでブランドカラーも2色ほどある。
こんな感じでまとめたあと、提出されてきた原稿を熟読します。正直、出てくる原稿が既に個性的だったため、デザインで主役となるコンセプトがすぐに浮かび上がってきて苦労しませんでした。例えば、トニーさんから上がってきた樋口円香のコミュの……と――に注目する記事では、そのコンセプトをそのままデザインに落とし込めましたし、
ふかぐんさんのボドゲ記事では背景もボドゲにしちゃえ!ということでシャニマスルドーを作りました。(誌面だとボドゲの画像で隠れていて気づきづらいので、この記事で供養します)
ということで、終わってみれば9企画分のデザインを完遂しました。やってみれば意外とできるものですね。副作用としては、シャニマスのスタイルブックをみて「作れるな……」と思うようになりました。病ですね
望むべきトラブル
主催として企画をやってよかったなと思った瞬間に、「対処しがいのあるトラブルが発生した」というものがあります。なんというか、変なアドレナリンが出てきて元気が出てくるんですよね。会社と違ってすべてが自分ごとなので主体的に取り組んでも後悔しないし。
例えば、致命的にデータが破損したり、
(こういうのって3つ言うべきなんでしょうけど2つしか思いつきませんでした。順調だったんだな。)
何より「原稿に使っているスクショが実はNGかもしれない」というのが大打撃でした。
当初は、”正式なゲーム内情報の引用”を目的としてシャニマスやシャニソンのスクショを掲載する予定でした。
というのも、著作権侵害を明確に禁止している条項が「弊社(バンダイナムコ)が著作権を管理または保有するアイマスシリーズ以外」とあり、アイマスシリーズを除外していること、そして、アイマスEXPOシールという頒布価額の10分の1を運営に納める(印紙税的な)納入制度があったことから、ある程度のグレーゾーンはエキスポ当日に限り許されるものと考えていたのです。
しかし、アイドルマスターの範囲内であっても著作権侵害として引っかかる可能性があるという情報が、少なくとも1つのサークルには伝えられた。そして、その情報がインターネットに公開されてしまった。
この状況が運営の意図するところかはさておき、インターネットに公開されたことで他サークルもおそらく対処をしてくるので、相対的に自サークルの頒布停止確率が高まる。
上記の状況から、企画進行にあたって許容とするグレーゾーンは相当狭いものだと考え、差し替えの対処をしなければならなくなりました。記事内の挿絵やアイドルの立ち絵、フォトモードに至るまで、シャニマス&シャニソンのスクショはすべて。
ときわさんや私の記事の場合はスクリーンショットを遠征先で撮った聖地巡礼画像に差し替えるなどの対応で済みましたが、紫乃原さんのコーデ記事に使われている全アイドルの立ち絵、もりもりさんのキャリアプラン考察記事に使われている全アイドルのスマホ使用スクショは対象となる画像の物量が多く、主催としてはレイアウトの変更や企画校正の変更として対応する構えでした。
アイドル全員を爆速で描いてくれました(紫乃原さんが)
携帯のほとんどを描いてくれました(雨崎さんが)
学びでした。ときには参加者の狂気的な進捗が打開してくれる時があるって。本当に?今回だけでは?士気と能力が高すぎるね?
ということで、主催としてトラブル対処したというよりかは、参加者全員を励ましてなんとかしてもらったという側面がつよいです。あとは印刷会社にお願いして〆切を2日伸ばしてもらったりくらいでしょうか。周りにお願いをする、という最低限の仕事はできたのかなと振り返りつつ、基本的には周りで助けてくれた方々のおかげで成立したものとなります。
楽しかったな。
あとはウイニングラン
ドキドキしながら設営をしました。見本誌を提出したとき、「頼む!!!流し読みしてくれ!!!!」と念じながらお渡ししました。
そわそわしながら優先入場の9:30を迎え、爆速で手に取ってくれるプロデューサーさんに一部ずつ手渡しながら「これで多少逃げ切れる……頼む……頒布停止にならないでくれ……」と思っていました。
10:00の一般入場を迎えた頃、手持ちの部数を数えたら残り50部、半分は消えていました。
「やばい!頒布停止のことを考えていたら取り置き分を取り置いてない!」
売れ行きが良すぎて売り越しの可能性が出ていたのです。
それ以降はペースを抑えながら、並んでくださったプロデューサーさんと話をしながらお渡ししていきました。
164pすべて校閲したので、見本のどこをめくっているのかが側面からでも分かります。このネタを見て笑ったなとかを身体レベルで感じ取れるテーブルの前が、非常に幸せな位置であったと振り返っても思います。
そして。10:30、一般分完売。14:30、全部完売。
早すぎ。誰も予想していませんでした。100部刷ったのになあ。
おわりに
やっていてずーっと楽しかった。
次は青色のshinylabo JOURNAL vol.2でお会いしましょう。
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