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映画評 ボブ・マーリー ONE LOVE🇺🇸
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ジャマイカが生んだ伝説のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの波乱万丈な人生を『ドリームプラン』のレイナルド・マーカス・グリーン監督で実写映画化。
1976年、ジャマイカは対立する二大政党によって分断状態にあった。国民的アーティストのボブ・マーリーは、政治闘争に巻き込まれ、銃で撃たれてしまう。だがわずか2日後にはマーリーは、8万人の聴衆の前でのライブを敢行。その後身の危険を感じたマーリーはロンドンに移り、アルバム「エクソダス」の制作に勤しむ。世界的スターの階段を駆け上がるマーリーだったが、母国ジャマイカには内戦の危機が迫っていた。
伝説のレゲェミュージシャンであるボブ・マーリーが残した伝説の一つに、ジャマイカで激しく対立していた二大政党の党首を音楽の力で団結させたことだ。世界中では分断による危機が煽られ叫ばれている中で、”愛は一つ”というべきか、死後40年以上経った今であるからこそ、平和の象徴として現代に描かれる意義があるのだろう。
制作の意図は重々理解できるのだが、お話として雑さに目をつぶれるかは別の話。単にボブ・マーリーの伝説を知りたいのであればドキュメンタリーを見たり伝記本を読めば良い。伝記映画として描くのであれば、描かれる半生の中で、葛藤や命の危機などサディスティックな試練を与え、乗り越えていくカタルシスをドラマチックに描かなければならない。
ボブ・マーリーは”世界を平和に”を源に、襲撃されてもライブに出演し、アルバム『エクソダス』を制作するのだが、次第に妻リタとの夫婦喧嘩からの仲直りに矮小化される。世界平和や故郷を想うが故の重圧や納得いく音楽が作れない葛藤、冒頭のような命の危機であれば見応えはあるのだが、売れて気が大きくなたことで夫婦喧嘩する話に興味など湧かない。また、ロンドン在住時には全くといっていいほどジャマイカを気にかけるシーンが少ないため、再びジャマイカに戻って平和を謳うライブを開催するカタルシスに欠けてしまった。
ミュージシャンを題材にする映画で手を抜いてはいけないのはライブシーン。『ボヘミアン・ラプソディ』のライヴエイドは観客の感情を最高潮にぶち上げたり、『エルヴィス』のラスベガスの豪華ホテルで連日開かれたライブショーは、業界における搾取と破滅というテーマを象徴し悲壮感に暮れる。見応えがありつつも目的がハッキリする描かれ方をしなければならない。
本作の場合は一曲ちょろっと歌って終わったり、ダイジェストでまとめられたりと見応え・目的の両面で消化不良感が否めない。特にラストの「ワン・ラヴ・ピース・コンサート」は一曲も歌わずに物語の幕を閉じるため雑さが際立つ。直後に対立していた二大政党の党首がボブによって握手する実際の映像が流れるのだが、音楽には世界を平和にする力があると証明であるだけに、おまけ程度の効果しかないのは非常に勿体無い。