Part2:Fintechは、いまどこにいるのか
日本一便利な法人向けオンラインバンクを目指すFinswer Bank(フィンサーバンク)を作っている、株式会社Finswer COOの田口です。
前回は、Fintechが人類の歴史の中でどのように発展してきたのかをみてきました。
金融と技術の融合という観点では、その歴史は紀元前にまで遡りますし、近現代においてもこの150年ほど、デジタル化の発展とFIntechの進化は密接な関係にありました。
今回は一気に、ここ20年ほどの動きにフォーカスしてみようと思います。すなわち、Fintechという言葉が一般に使われ始め、さまざまなFintechスタートアップ企業が勃興してきた時代です。
結論からすると、現代のFintechは、
① 銀行などの伝統的な金融機関が全ての金融サービスをまとめて提供してきた時代から(バンドリング)、
② ベンチャー企業などが一部の金融機能を切り出して、便利な形に直して提供してきた時代になり(アンバンドリング)、
③ 周り回って、それぞれの機能をもう一度束ねたり、あるいは別の産業に金融機能を埋め込むなどして提供する時代(広義のリバンドリング)
という発展をしてきています。
ざっくりいうと、ごちゃ混ぜだったのをバラバラにして、再度一緒くたにしている、ということです。
それではなぜ、このような動きをしながらFintechは発展しているのでしょうか?ここではその背景を見ていきます。
バンドリング
バンドル(Bundle)とは束という意味です。まさに伝統的な金融機関が、金融サービスをまとめて一つの束のように提供している状態です。
銀行を例に言えば、口座を開きたい、送金をしたい、ローンを借りたいといったニーズがあれば、銀行に行くよね、という状態です。さらには、保険や投資商品の購入も銀行で行うことができるため、その意味でも幅広い金融商品をバンドリングしていると言えます。
さらにマニアックなところでは、個人財務管理サービス(PFM: マネーフォワードのような家計簿サービス)の原型は、米国のシティバンクやバンク・オブ・アメリカなどの伝統的な銀行が2000年代の初めに提供し始めていました。
アンバンドリング
ところが、伝統的な金融機関が提供するサービスは、ユーザーにとって必ずしも満足がいくものではなかったり、あるいはユーザーが真に必要とするサービスを金融機関が提供できていない状況でした。
実際、銀行のサービスというと、どこか使いにくいといった印象をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?
そこで、様々な金融サービスを個別に切り出して、利便性が高い形にした上で提供する動きが広まります。これがアンバンドリングです。
例えばアメリカでいえば、
P2Pレンディング・プラットフォームのLendingclub(2006年〜)
家計簿アプリのMint(2006年〜)
個人間送金のVenmo(2009年〜)
教育ローンのSoFi(2011年〜)
国内で言えば、
家計簿アプリのMoneyforward(2012年〜)
個人間送金・決済のLINE PAY(2014年〜)
個人資産運用のWealthNavi(2015年〜)
といった具合です。事例自体は上げればきりがありません。
アンバンドリングが進んだ理由
しかしなぜ、一部の機能だけを切り出してスタートアップが提供する、と言ったことが生じるのでしょうか?銀行がやっていることをまるっと置き換えてしまった方が良いのではないか、とも考えられます。
しかし、ここにはいくつかの理由が考えられます。
①提供主体のリソースの問題
これは元も子もないですが、アンバンドリングした新しいサービスを提供する主体がスタートアップ企業であり、金銭的にも、人的にも十分なリソースがないから、という理由があります。
多少使いにくいとはいえ、既存の金融機関が長年コストをかけて構築してきたインフラを丸っとリプレイスするには多くのリソースが必要。それならば、コストが比較的低い部分や、ユーザーのペインが特に大きなところから参入しよう、というインセンティブが働きます。
②規制の問題
加えてユーザーから預金を預かる業務や保険業務など、金融事業の中には社会的に失敗が特に許容されにくい領域があります。こうした業には当局の厳しい規制が敷かれているため、そもそもスタートアップが参入しにくい(しにくかった)という背景もあります(もちろん、例えばライフネット生命が2008年に保険業界に参入するなどの事例もあり、不可能ということではありませんが)
また、そもそも規制の整備が追いついていなかった、という側面もあります。例えばLINE PAYなどに始まる小口の資金決済・送金を可能とする資金移動業は2010年にできた枠組みです。
③限界費用の低下
さらに、オンラインでの提供を前提とするサービスはその特徴として限界費用(1サービスを提供・生産するための費用)が低下するため、アンバンドリングして提供することが可能だった、という側面もあります。つまり、伝統的な金融機関のように店舗を構えてサービスを提供する場合には、その店舗自体の維持管理費も必要になります。そのため投資回収をするためには、必然的にさまざまな商材を用意する必要がありました。
一方でオンラインで提供するサービスは、サービスを提供するためのコストが相対的に低いため、単一のプロダクトで提供することができた、というわけです(あくまで相対的に、という問題ではありますが)。
リバンドリング
アンバンドリングによって個別の金融サービスの利便性が上がってくると、今度は再度「束」にする、リバンドリングという動きが見られます。
個人的には、リバンドリングには大きく2つの動きがあると捉えています。
Fintechスタートアップを含む金融事業者が、さまざまな金融・非金融サービスを束にすること
非金融事業者が、自社サービス内に金融機能を組み込むこと(Fintechの業界では、この動きを埋込金融:Embedded Financeと呼びます)
いずれにしてもポイントは、金融サービスも含めて、ユーザー目線で便利な機能をまとめて提供するサービスが増えているということです。
これも例を上げればキリがありません。
海外で言えば、
アンバンドリングの事例として前述した学生ローン発のSoFiが、今や個人向けのローンや投資、保険などなど、さまざまな金融サービスを提供していたり
イギリスのMonzo(2015年創業)は、もともと個人向けのプリペイドカードを提供していましたが、その後銀行免許を獲得。現在は口座開設だけでなく、支出管理や福利厚生、さらには旅行保険などのサービスを提供しています。
国内でも、
クラウド会計ソフトから始まったfreeeの機能群は、今や以下の通りとなっていますし、
あるいはメルカリさんが、その経済圏をメルカリ内で回すためにメルペイを作ったり、あるいはタイミーさんが給与の即日受取を可能にするなどしました。
なぜリバンドリングされるのか
ここで重要なことは、なぜ、リバンドリングが起きるのかということです。
これにもいろいろな理由が考えられます。
①ユーザーのニーズ
シンプルな理由です。そもそもサービスがバラバラのまま(アンバンドリングされた状態)だと、ユーザーからすると使いにくいわけです。そのため複数機能を一緒にする動きが広まります。
②ユニットエコノミクスの改善
また、限界費用が下がっているとはいえ、単一サービスではなかなか儲かりにくい(特にto Cサービスの場合)。そのため、獲得したユーザーに対して別の機能を提供する(クロスセル)などして、企業の成長を図ろうとする動きが広まります。
ユニットエコノミクスとは、1顧客あたりの採算性を示しますが、複数サービスを同一のお客様に提供することで、採算性を上げていこうという動きです。
③金融機関によるAPI開放
また、(国内ではまだまだまだ不十分ですが)金融機関がオープンAPIを進めたことで、外部事業者が金融機能を自社サービスに組み込むことが容易になってきた、という背景もあります。
何をリバンドルするか
このように、Fintechの世界ではユーザーに対して多角的なサービスをリバンドルして届けるかが重要になっている、と捉えることができます。
もっとも、スタートアップ業界全体でもコンパウンドスタートアップ(複数のプロダクトを組み合わせたスタートアップ)の重要性が認識されており、それらと同様の動きと言えるかもしれません。
いずれにせよポイントは、何をリバンドルするか、という点です。
ユーザーの視点に立った時に、どのような機能の組み合わせであれば、利便性が高いのか、ということです。この点はもちろん、事業のセグメント(to Bかto Cかなど)や組み合わせる金融機能(融資、送金、カード、ファクタリングなど)によっても異なります。
Finswer Bankの場合は、
法人の預金と振込という金融機能と
請求書やレシートのOCR処理、請求書発行や入金消込、承認フロー、電帳法などの経理業務効率化機能
をリバンドルしたサービスになります。
さて、次回はFinswer Bankの事業領域でもある、B2Bフィンテック領域について見ていきます。手前味噌ながらこの分野は、フィンテックの世界でも激アツなジャンルなのです。
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