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Part6:金融サービス仲介業登録の流れ

日本一便利な法人向けオンラインバンクを目指すFinswer Bank(フィンサー
バンク)を作っている、株式会社Finswer COOの田口です。

前回はFintech事業を営む上では切っても切れない関係にある、「銀行」の概要をまとめました。
今回は、Finswer Bankがオンラインバンク事業を営む上で登録をした「金融サービス仲介業」という制度について見ていきます。

本Partのターゲット層

シリーズ「Fintechの現在地」はFinswerにジョインされる方や、B2B Fintech事業に興味を持たれた方を念頭に書いてきました。
ただしこのPartについては、金融サービス仲介業の登録を検討されている企業の担当者の方が主なターゲットになります。
すでに金融サービス仲介業の概要をまとめた書籍やHPはありますが、登録までの流れをまとめた情報はほとんどありません。登録済の事業者の数が、2024年10月1日時点で15と、数が少ないこともその要因の一つでしょう。
金融サービス仲介業の登録検討にあたって、ぜひ本記事の内容を参考にしてもらえれば嬉しいです(私にfacebookXなどで直接ご連絡いただいても相談に乗ります!)。

金融サービス仲介業の概要

金融サービス仲介業は、銀行、証券、保険といった金融サービスを、ワンストップで提供することを可能にするライセンスです。2021年11月に施行された法律に基づく、比較的新しい制度です。

金融サービス仲介業を用いれば、
・複数の銀行のうち、金利が一番高い口座の開設をできるサービス
・複数の保険商品のうち、自分に最適なものを選択できるサービス
・複数の融資商品のうち、最も金利が低いサービスを利用できるサービス
などが提供できます。
ポイントは、「複数の」銀行や保険会社、証券会社の提供するサービスを、ワンストップで提供できる点になります。

概要はすでに様々なHPなどでまとまっているので、適宜参照ください。

https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins2_pdf/211029.pdf

ネオバンクと金融サービス仲介業

ここで、なぜFinswer Bankで金融サービス仲介業の登録が必要だったかについて触れておきます。
Finswer Bankは、銀行業のライセンスを持たずに銀行サービスを顧客に提供する「ネオバンク」という形態です。
ユーザーはFinswer Bank上で、
①北國銀行フィンサー支店の法人口座を開設した上で、
②開設した北國銀行フィンサー支店の口座から振込を行なったり、入出金明細などを確認することができます。

Finswer Bankの場合、許認可上は、①を電子金融サービス仲介業として、②を電子決済等代行業として登録の上、行うこととなります。

電子金融サービス仲介業と電子決済等代行業

急に「電子」金融サービス仲介業という単語を出してしまいました。電子金融サービス仲介業とは、その名の通り、オンラインで金融サービス仲介業を営む形態のことを言います。典型的には金融機関とAPI接続することで、顧客の注文内容を伝達する方式が想定されます。
細かいですが、Finswer Bankの場合は、オンラインで口座開設などもできるため、許認可上は電子金融サービス仲介業の括りになるわけです。

同時に、電子金融サービス仲介業として登録した上で届出を行えば、電子決済等代行業も営むことができます。電子決済等代行業とは、顧客からの委託を受けて、口座の残高などの情報を取得してサービス上に表示したり、振込指示を飛ばすために必要な許認可です。

なぜ電子金融サービス仲介業を登録すれば、届出だけで電子決済等代行業を営めるかというと、そもそも電子金融サービス仲介業の登録のためには、電子決済等代行業で求められている法令上の要求事項を満たす必要があるためです。

ネオバンク事業のための許認可

ネオバンク事業を営むためには、弊社が採用したような「電子金融サービス仲介業+電子決済等代行業」のスキームのほか、銀行代理業の登録をする方法があります。
銀行代理業はその名の通り、銀行のために、預金の受け入れや為替業務などを行うためのライセンスです。

細かい違いはいくつかありますが(代理契約と媒介契約の違い、預金等担保貸付の取扱い可否、財務要件などなど)、ネオバンク事業として実現できることの大枠には違いはありません。

実際これまでの多くのネオバンクは、銀行代理スキームを採用しています。例えば、

  • JRE Bankは楽天銀行の銀行代理

  • SansanのBilloneは住信SBIネット銀行の銀行代理

などです。

このように2つの選択肢があるわけですが、Finswer bankでは、将来的な取扱商品の拡充可能性を念頭に、金融サービス仲介業を選択しました。

電子金融サービス仲介業登録までの流れ

前置きが長くなりましたが、実際に電子金融サービス仲介業に登録されるまでの流れをまとめます。
なお注意点として、

  • あくまで弊社の場合のスケジュールです。事業の開始予定時期の1年半ほど前に動き出したこともあり、弊社側も時間的なゆとりがある中での対応でした。

  • また、あくまで「電子」金融サービス仲介業のケースです。オンライン手続を想定しない金融サービス仲介業の場合、審査内容は比較的簡便になります。

流れとスケジュール

①該当性に関する事前相談<2ヶ月>
そもそもFinswer Bankの機能のうち、口座開設機能に特定の許認可が必要であるかを財務局に確認いただきました。
(長くなるので立ち入りませんが、金融サービス仲介業や銀行代理業は「銀行のために」行う業とされています。この「銀行のために」に、Finswer Bankの機能が該当するかどうかの確認をしていました)
その上で、金融庁でFinswer Bankの機能が電子金融サービス仲介業に該当するかを確認いただきました。

②概要書素案作成<1ヶ月>
弊社の概要や、電子金融サービス仲介業の具体的な内容やその方法、顧客層や収益見込み、内部管理体制や社内規程の整備状況などをまとめた概要書を作成しました。弊社の場合はワード15枚弱です。

③概要書修正・質問対応・ヒアリング<1ヶ月>
その後、初回に提出した概要書への指摘をいただいて修正をしたり、個別の質問を指摘いただき回答するやりとりがありました。また、弊社役員へのヒアリング(オンライン)もこの時期に実施いただきました。

④質問票作成・社内規程作成<3ヶ月>
③のプロセスと並行して、金融サービス仲介業の監督指針に対応する質問票(弊社の場合は約160項目)と、+電子金融サービス仲介業特有のシステムリスク質問票(弊社の場合は約45項目)への回答を作成していました。
並行して、社内規程の整備を進めていました。弊社の場合は約20の社内規程を作成しました(後述します)。
特に、このプロセスは並行してISMSの取得等にも動いており、そこで関連する社内規程の策定もあったために時間がかかりました。実働的にはもっと短くすることもできるかと思います。

⑤質問票・社内規程などの修正<1.5ヶ月>
提出した質問票や社内規程類について金融庁に確認いただき、その修正をしました。

⑥登録申請書のドラフト作成<0.5ヶ月>
ここまでくるとあと一息です。実際に登録申請時に提出することになる登録申請書のドラフトを提出し、下審査いただきます。

⑦登録申請書ドラフトの確認<1ヶ月>
提出した登録申請書のドラフトについて金融庁に確認いただき、その修正をしました。

⑧登録申請書の提出・審査<2ヶ月>
実際に財務局に登録申請書を提出し、審査いただきます。

総じて、金融庁・財務局の方々にはとても丁寧に相談に乗っていただき、本当にありがたい限りでした。

大変だったこと

登録申請プロセス自体は上記の通りですが、特に大変だったのは社内規程の整備です。
Finswer Bankの提供主体である株式会社f9k(株式会社Finswerの完全子会社)は、当時役員3名であり、社内規程などほぼ存在しない状況でした。
その中で、監督指針や金融庁の質問票に対応するための、20個ほどの社内規程をイチから作成していきました。
例えば、

  • 監査方針に関する規程

  • 苦情処理に関する規程

  • 契約勧誘行為に関する規程

  • 社内研修の実施に関する規程

  • 事務リスク規程

  • 危機管理規定

  • 反社規程

  • 情報セキュリティに関する規程

などなどです。
ある程度まとめることも考えられましたが、実運用に落とし込むことを念頭に、切り分けておいた方が良いと考えた結果でした。
こうした規程類は雛形が世の中に落ちているわけではなく、手探りで作成していったため、一番労力がかかったポイントです。

ISMS(ISO27001)のススメ

ちなみに電子金融サービス仲介業や電子決済等代行業の登録を目指すのであれば、ISMS(ISO27001)認証の取得をとてもお勧めします。
ISMSの要求事項と、電子金融サービス仲介業・電子決済等代行業の要件で重複部分も多く、かつISMSの取得は形式化されているため比較的進めやすいからです(弊社はLRMさんのコンサルティングをお願いしました)。

まとめ

今回はマニアックな内容ですが、Finswer Bankが金融サービス仲介業の登録をした理由や、実際の登録の流れをまとめました。
まだまだ登録企業数が少ないライセンスですが、使い方次第では色々な事業との掛け合わせも可能です。
現在の登録事業者一覧を見ると、スタートアップに限らず大企業も含めて登録しており、各社各様の活用方法を模索していることがわかります。

もし、登録申請を検討されている方でお困りのことがあれば、いつでもお気軽にご連絡ください!

さて、今回見てきたように、Finswer Bankは電子金融サービス仲介業と電子決済等代行業という2つの許認可を利用して、北國銀行さんと接続してサービス提供をしています。
このようにネオバンク事業を営む上では、銀行が提供するAPIを活用する必要があります。
そこで次回は、オープンバンキングの現在地について解説していきます。




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