グッバイお寿司先生

5年前の昨日1月8日は大雪でしたね。

初めて貴方に出会った日です。

その日の歌舞伎町は大雪で、貴方は次週の土曜日も、同じ場所で会いたいと、この小娘に言いました。

1月15日土曜日5年前、この日の新宿も大雪で、待ち合わせ場所のラブホテル、電車の遅延で遅れた私を2時間、息を潜めて同じ部屋、じっと待っていたのですね。

それから貴方は私を見つめ、触って、着せ替えごっこ。貴方は私を抱けやしないから、黙って嗜好品になる私。

月に一度の野郎寿司。

封筒の中身は10万円。

貴方は私よりもずっとずっと、この世に生まれるのが早く、いえ、私が遅かったのかも。

50年の時を超えた再会のように、貴方は私を待っていたの。

セックス抜きの恋愛ごっこ。貴方は私に教養を。オーケストラのコンサート、オペラ鑑賞、お食事会、ただただ枚数が欲しいだけ。

貴方の理解には時間がかかり、反抗期のソレに似ている感情すらも、貴方に覚えて酷くイラつく3年生。

マイフェアレディが欲しい貴方。
アイデンティティが迷子の私。

月に一度の秘密の恋人遊戯も、歳月の流れとともに慣れてきて、貴方の欲しいお洒落な会話も、ロマンチックな間の置き方も、だんだん覚えてきたのよ私。先生もそう、思いませんか。

大学生から社会人へ、貴方の理想の少女は一人の立派な女性へと。対男性の性的サービス、一等地で磨いた会話、ファッション的なグレーゾーンも伝統のあるトコロでも夜のお仕事は一通り。

貴方と私を繋ぐ一つの封筒。特別な崇高な関係だなんて、無いのよここには悲しいけれど。

マイフェアレディは生意気で。
ジョン・F・ケネディになりたい貴方。

貴方は私を好いてても、私は紙切れを愛してる。電話番号だけでの連絡。子供のように無邪気な貴方が私に言うの。君はそのまま変わらないで、と。この私のどこ見てそう思ったの。

貴方は偉いお医者様。大きなお家にお孫さんも、きっと愛された人生を送ってきたのね。いつも同じ話をするから。

月に一度のデートの約束、約束の日が来なかったのは半年前ね。その日の夕方電話が一本。

今日は具合が悪くて行けなさそうです。

それから二度と来ない約束。理由はなんとなくわかっていたわ。だって私5年間でも、貴方のマイフェアレディだったのだもの。

貴方は私よりもずっとずっと、この世に生まれるのが早く、いえ、私が遅かったのかも。

5年と言う歳月は、0歳の赤子は5歳の子供へ、そして70歳は75歳へ。体内の病気は進行し、足腰は弱々しくよりか細く、同じ会話も何回めかしら。

貴方と私を繋ぐ一つの封筒。

中身はもう無いけれど、執念深い女かしら。季節ごとに変わる絵柄の綺麗な封筒を今でも全部、持ってるわ。

月に一度の野郎寿司。
JRまでの帰り道、ゴールデン街で君と飲みたいねなんて笑う貴方をもう時間ですよと見送る私。

そして改札前でこう言うの。

『また、歌舞伎町で会いましょう』


5年前の昨日1月8日は大雪でしたね。

初めて貴方にあった日です。

グッバイ、私のお寿司先生。


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