赤ちゃんの終わり
『ねぇねぇ なんで 4人も産んだの?』
子供の頃 母に よくしていた質問です。
今思えば、なんてストレートな 疑問でしょうか。
私は、4人姉妹の次女で、上に姉、下には 2人の妹が居て、となんとも 窮屈な、気持ちで 幼少時代を 過ごしていました。
服は お下がりばかりだし、部屋も1人部屋じゃないし、テレビのチャンネルは取り合いだし、授業参観の時 お母さんは行ったり来たりだし…
それに、4人というのは、当時の田舎でも 多い方で とても “一人っ子” に 憧れたものでした。
『4人も居て 何も 良いことなんてない!』
なんて、気持ちが 高ぶると この 質問をしていました。
すると母は、
『なんでって 言われてもねぇ……赤ちゃんが 好きなの かわいいのよね 大きくなると、また欲しくなっちゃうのよねぇ』
と、そんな風に答えていました。
でも、当時の私には いまいち 理解出来ず、納得しない気持ちで 聞いていました。
そして 時は過ぎ 自分が産み・育てる立場になりました。
毎日が 新しい出来事で、七転八倒です。そんな日々を過ごしていると、自分の子供の頃の記憶が、ふとした瞬間に溢れてきます。
長男2歳で、次男 1歳 、慌ただしく 休む間もなかった頃、2人が同時に『抱っこしてぇ~』と、 泣く日が 続く時がありました。
片方を抱けば、もう片方は、さらに泣き、
両方を 抱けば それじゃ嫌なんだと、お互いを 押し合いながら 泣きじゃくります。
重いし、何気に力は強いし…
困り果て、私も泣きたいくらいでした。
『あぁ この時間を 早送りにしてしまいたい…頼むから 早く 大きくなってくれ…』 と思っていたものです。
その時に、ふと 思い出した 母のこのセリフ。
『大きくなると また欲しくなっちゃうのよねぇ』
しかし、 思い出した瞬間、
『いやぁ嘘だ ありえない 早送り早送り 何を 言ってんだか…こんな毎日 早く終わりにしたい』
と やっぱり 全く、理解が出来ませんでした。
それから、更に 1年後 次男も、しっかり動けるようになり、片言の言葉なら、話すくらい成長し すっかり立派な幼児です。息子1と、一緒に 公園を駆け回る姿を、見ていると
『しっかり してきたな あぁ、もう 赤ちゃん期も 終わりだな…淋しいなぁ … 赤ちゃん… 』
と、しんみり思い “はっ!!!これは!”
三十年前に、母の言った言葉の意味を 今 やっと 、感じるのでした。
『また赤ちゃんが欲しいか?』 と聞かれたら即答できないのだけど、 毎日 成長して 過ぎてゆく この 身体。
この面影。この柔らかさ。匂い 。動き。声。全てが 尊く、二度と戻らない 二度と会えないと思えば思うほど、切なくなるのでした。
突然きた、この気持ち。
なんだか よくわかる あの時の母の言葉。
その山に 登らないと 見えない景色というものが、人生の中にもあるんですね。
険しければ、険しいほど、深く感じる景色が。
やっと わかった… でも、養命酒のんで 寝よ。