イマのワタシ
これが、終わったら 次こそ
少し休もう…。
あっ あれが 終わっていなかった。
やらなきゃ。
あぁ、もう 幼稚園のお迎えの時間だ
いそがなくちゃ…。
一休み する事なく、過ぎてゆく時間。
1日 終えれば ぐったり疲れているのに、何をしていたのか、思い出せない……
くらい地味な、家事と育児の毎日。
いつもと同じ ある日。
子供と 一緒に 行ったスーパーで、
硝子に 写る 知った顔の、おばさんを見ました。
“あれ……誰だっけ?”。
その おばさんは、 自分でした。
蛍光灯の下、目が窪んで影になり、くっきり クマも出来ています。
ノーメイクのパサついた肌。
血色の悪い唇。
癖っ毛の髪は ゴムで、1本に束ね、ところどころに 切れ毛が、飛んでいます。
1年も、美容院へ行っていません。
何よりも、 姿勢の悪い 立ち姿。
“これが、私?”
毎日 鏡を見ているつもりだったけれど、全く気付いていませんでした。
私は、こんな “顔と姿で” 毎日を過ごしていたのか!?。
その 隣で 兄弟喧嘩をし始める子供達…。
沢山の現実が、突きつけられて、目眩がしました。
若い頃は、後ろで 軽く束ねた 髪型は、ナチュラルな 無造作ヘアで、
そこから 溢れた髪は、後れ毛でした。
今は、違います。 疲れた おばさんの、ただの 無気力ヘアでした。
ここ数年で、何が 変わってしまったのか…。
『こうやって 人は歳をとっていくの…?!』
でも、こんな 毎日の中で、どうしたら良いのかさえ、思いつきません。
ただただ 泣きたい 気持ちでした。
暫くして、出産したばかりの、友人に会う機会がありました。
久しぶりに会う 彼女は、紅い口紅を 塗り キラキラ、艶々しています。
私とは、全く違います。なぜこんなにも、違うのだろう。
なんだか 衝撃的でした。
そうだ、口紅を塗ってみても良いんじゃないか。
ここ数年の生活のなかで、排除されていたものが、沢山ありました。
お化粧に、ヒールの靴に、美容院、
映画館に、アクセサリーに、
ネイルに、買い物、、、休むこと。
そして、自分の事を考えること…。
真似を してみよう。
緊張を しながら、デパートの化粧品売り場へ行きました。
(いつから 私は デパートへ行くのにも、緊張してしまうようになったのだろう)
真っ赤な口紅を 買うのは、人生で初めてでした。
夜、家族が寝静まった頃、洗面台で
こっそり 口紅を塗ってみます。
パッと、華やかな雰囲気が出ました。
肌の色が明るくみえ、血がかよってきました。
濡れた髪を、手で束ねてみます。
そこには、赤い唇の 大人の私がいました。
ドキドキしました。
翌日から 昼間は軽く 口紅を塗るようにし、
そして、自分の事も 少し意識するようになりました。
ふと、鏡を見ている時に思いました。
『髪の毛 を切っても良いんじゃないか 昔の様にショートカットに』
勇気を出して、 あえて 行った事のない 美容室へ 予約をしました。
自信がなくて、少しずつ切り、
数ヶ月かけて、10年振りにショートカットにしました。
そして、真っ赤な口紅を、紅筆を使って
丁寧に、塗ってみます。
くぼんだ 目元は、愁いをおび
10年も縛り付けていた、
癖っ毛の髪は 自由を取り戻し、軽やかに 額にかかります。
ふんわりとした、華やかな雰囲気と、落ち着いた空気を、醸し出していました。
目の窪みも、浮き出た鎖骨も、
ごつごつした手も、なんだか 素敵に見えてきます。
10年前のショートヘアの私
とは、違う イマのワタシ。
一心不乱に過ごしていた あの時間は、老化したのでは、なく
大人の私に なる為の、大事な 熟成期間だったのかもしれない。
若い時とは、違う。
でも、もう 戻らなくてよい。
一生懸命 生きた 人には、
その時々の 新しい 良い顔があるんだ。
紅い口紅は
表面だけの美しさではなく、
人生を、重ねた 美しさも、あるんだよと 私に教えてくれました。
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