平泳ぎ

目を閉じて深呼吸をする。

野次にも似た歓声が背中を突く。

目を開けると街頭が対峙する相手を照らしている。

心音は徐々に大きくなり、握った拳は震えた。

唇の渇いた感覚だけがはっきりと分かった。

寄せた眉間の深さで相手との距離を測る。

踏ん張った足から全身を通して発せられた音は声帯に届く頃には叫びに変わっていた。

2本の指を鋭く敵眼前に突き刺した。

相手の深く刻まれた手の模様と爪痕には彼の人生を想像させた。

滝の様な歓声に耳は決壊し、私を飲み込んだ。

私は濁点の混じった悲鳴を吐き出すしか無かった。

溺れる瞳に平泳ぎを命じ、息を整える。

さっきより渇いた唇を強く噛んだ。その隙間から、か細く呟く。

『このロレックスください』


シュウマイガール

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