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書籍で「5分で効果が出る」は通じるか?

私が編集している本はビジネス実用書が圧倒的に多く、ここ5年くらいはさらに増え、7〜8割はビジネス関連の書籍を作っています。
次に多いのは健康書で年間1冊くらいで、その次に多いのは英語の本です。
以前はもう少しビジネス実用書の割合が少なく、多くの健康・ダイエット本、語学書を作っていました。
ビジネス実用書の編集が多い私ですが、健康本、ダイエット本、英語本に関わることも少なくなかったのです。

今回は、このような私が考えた

 「5分で効果が出る」というテーマの本は読者に届くか?

です。

「5分で効果が出る」という本はむずかしくなった


「5分で効果が出る」とは、たとえば「健康体操を5分間、行うだけで腰痛が治る」「ある運動を5分するだけで痩せる」「ある1つの食材を食べるだけで痩せる」「ある勉強を5分間するだけで英語力が身につく」といったようなことを指します。

このようなテーマの書籍を、現在でも読者は受け入れられるか、ということでが、個人的な結論は「むずかしくなった」「通じなくなった」です。

実用書は、人の困り事を解決したり、興味のある事柄を解説したりします。

ですから、「腰痛をとりたい」「痩せたい」「英語を話したい」などは、テーマとして“大あり”です。
普遍的なテーマですから、これらの実用書は何十年も前から存在していますし、今後も刊行されていくでしょう。

一方で、人は面倒なことはしたくありません。ツライ努力もイヤです。

わかりやすいのはダイエット。
食べる量を減らし、毎日1時間の運動を実践すればダイエットは成功するでしょう。
でも、ほとんどの人は、そのようなことはしたくありません。

できれば「面倒なことは何もしないで痩せたい」と考えています。

肩こりや腰痛、英会話も同じです。
面倒なことをしないで効果を得たいというのは、人間として自然なことでしょう。

そのため、「5分」や「○○だけ」のような少ない努力で効果を得られる効率的な方法を求めます

出版業界でも「5分間、□□をするだけで肩こりが治る」「△△を食べるだけで痩せる」「5分間、◇◇するだけで英語が話せる」といった本は、ベストセラーのテーマで、これまで何十冊もの本がベストセラーになっています。

しかし、これが大きく変わってきました。


ネットの普及で無料コンテンツがあふれている

現在「5分間、○○するだけで効果が出る」という書籍が売れるのは、とてもむずかしくなってきました。

理由は「ネットの普及」。その中でも以下の2つが大きいと思います。

 ①無料で情報を得られる
 ②効果を得られない体験が何度もあった


①無料で情報を得られる

これはわかりやすいですね。
YouTubeやWEBサイトには「5分間、○○するだけで効果が出る」といったようなコンテンツがあふれています。
最近では、本の著者になっているような専門家の先生まで、YouTubeなどでこのようなコンテンツを提供しています。

そして、これらは「無料」です。
1000円以上のお金をかけてまで、本を購読される読者は少なくなるのは当然の流れでしょう。


②効果を得られない体験が何度もあった

私が考える「②効果を得られない体験が何度もあった」は、①の延長です。

「5分間、○○するだけで効果が出る」というコンテンツに何度も触れ、実際に体験しているということです。

ネットが普及する前は、そういったコンテンツは、無料で見られるテレビか、少額で得られる雑誌・書籍がほとんどでした。

しかし、ネットの普及により、そういったコンテンツに触れる機会が一気に増えました。実際、YouTubeやWEBサイトの記事などにて、このようなコンテンツは多数存在しています。
それらを見て実際に行ってきた人の中には、「5分では効果が少なかった」「一時だけだった」と感じている人が多くなってきているのです。

これが②です。

このような経験を何度も繰り返しているため、「5分間、○○するだけで効果が出る」ということに対して、疑問を感じている人が増えてきているのです。

その結果、本を買ってまで「5分で○○の症状を治す」という体験を試そうとする人が減りました。
書籍で、そういうコンテンツを求める読者が大幅に減ったのです。

もちろん、著者にたくさんのファンがついている本は別です。インフルエンサーが本を出せばたくさん売れる可能性が高まります。
でも、これは例外です。
著者のことを知らない人に購読していただくのは、とてもむずかしくなったのです。

「5分間、○○するだけで効果が出る」というテーマに関しては、有料である書籍は、無料コンテンツには勝てなくなったのです。

「5分間、○○するだけで効果が出る」に対抗する

1000円以上のお金を出して購入いただく書籍では、「5分間、○○するだけで効果が出る」ではなく、別の切り口が必要になっています。

ここで考えるのが、先ほどの「②効果を得られない体験が何度もあった」という読者です。

「効果を得るには、長い時間をかけたり、大きい負荷をかけたりすることが必要である」と感じている方々です。

私は、ここにチャンスがあると考えています。

以前からこのような考えを持っていたのですが、その考えが間違っていなかったと実感したのが、昨年刊行した『100歳でも痛くない 痛みが消える 自力整体』という本です。

この本の著者である矢上裕先生には多くのファンがついていらっしゃいますが、ファンの数以上に購読されています。

ファン以外の購入者は、「効果を得るには、ある程度、長い時間をかけることが必要である」と気づいた方々であると実感したのです。

『痛みが消える 自力整体』では、痛みを根本から取り除くことを目指しています。

そのためには、長時間の自力整体の実技が必要になるのです。著者のオススメは90分。毎週90分の実技を行うことで痛みは消え、痛みがなくなった後も再発させないように考えられているのが自力整体です。

それを実現するために、痛みが生じている部位をほぐすだけでなく、痛みの原因である部位もほぐす必要があり、それには90分が必要という考えから考案されたのが自力整体であり、『痛みが消える 自力整体』でも、90分間を通しで行う実技動画を提供しています。

さらに、この本では、それぞれの部位に効く実技の動画も収録し、合計で150分間の自力整体の実技を購読者に提供しています。

「長い時間の実技を行うならば効果があるだろう」と感じられた読者が購読しているのだと思います。

その結果、発売半年で2万5000部まで部数が伸びています。それだけの読者に、自力整体を試してみたいと思っていただいたのです。

もちろん、倉庫の在庫や書店の店頭在庫を含めての2万5000部ですから、実際に試された方はそこまでいらっしゃいませんが、それでも自力整体の教室に通っているような矢上先生のファンの数より、とても多い数の読者が購読しています。

この本が売れたことにより、以前から「②効果を得られない体験が何度もあった」読者は、しっかり行わないと効果が出ないと感じているという仮説が、正しかったと実感しました。

こういった困りごとについて、あなたはどのように思われますか?
「効果を得るには、長い時間をかけたり、大きい負荷をかけたりすることが必要である」と感じていませんでしょうか?


※以下は、今回の記事に出てきた『100歳でも痛くない 痛みが消える 自力整体』です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4405082332/



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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