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新人ライターや編集者に教えている「短文のススメ」

 今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

 ところで、私が所属する編集プロダクションには、毎年ライターや編集者を志望する新人さんが何人か入社してきます。

 そのほとんどは未経験者。出版社の場合、そもそも募集枠が少なく、中途採用者には即戦力を求める傾向が強いので、未経験者は業界への足掛かりとして編プロを選択する方が多いように思います。

 さて、右も左もわからない「真っ白なキャンバス」状態で入社した新人編集者さん。初期段階で身につけるべきスキルとは、一体?

原稿が書けなければ編集もできない!

 これは私の持論なのですが、編集者が最初に身につけるべきスキルは、やはりライティングです。原稿を適切に組み立てられなければ、当然「誌面を編集する」なんてことはできないと思っています。

200字程度の箱書きレビュー。

これです! これが最初にクリアすべき課題。

   箱書きというのは、よく雑誌などで新作映画の紹介とか、ボックスの枠がいっぱい並んでいるページがあると思いますが、その中身の原稿のことです。テーマはなんでもいいのですが、これを2〜3本課題として書いてもらいます。

カンタンじゃん!

  と、思われるかもしれませんが、舐めてはいけません。このわずか200字程度の原稿で、その人のライティング技術のレベルがモロに出ます。そう、実はこれ、難しいんです。

 新人編集者の中には、「ブログやってました」「新聞記者でした」というライティング経験がある方もいます。そういう方々でも、ほとんどは、水準に達するほどうまく書けません。

 逆に、この箱書きをうまく書けるようになれば、たとえ10万字の書籍一冊分を書いたとしてもそれなりにうまく書けるはずです。

素人とプロのライターの違いとは?

 それは、「書き分け」ができること。

 ブロガーや新聞記者などの出身者がうまく書けない理由がこれです。同一のターゲットに向けた文章だけを書いてきたために、異なるターゲットに合わせて書き分けできない傾向が見られます。

 あらゆる媒体・コンテンツには、ターゲットが想定されています。性別、年齢、職業、知識レベル、ライフスタイル……etc. 読者の想定ターゲット(ペルソナ)はさまざまです。これらの異なるターゲットに合わせ、文章自体を変幻自在に書き分けるスキルが求められます。

 ここで「箱書きレビュー」の話に戻りますが、課題を与えるときに、この想定ターゲットも指定しています。具体的な雑誌やMOOKを挙げて書いてもらうことも多いです。

初期段階でのライティングのポイント

 さて、上がってきた「箱書きレビュー」をチェックするわけですが、うまく書き分けするポイントをいくつか紹介します。

◎要点を適切にピックアップしているか?

 文字数に限りがあるので、どのような情報を取り上げるか、要点の抽出がもっとも重要になります。200字なので紹介できる要素はせいぜい2〜3個。何を取り上げるかでターゲットに響くか、響かないかが変わってきます。

 たとえば、ある映画を紹介する場合、「イケメン俳優が主演!」という情報を取り上げたとして、女性には関心があるかもしれませんが、60代の男性にはまったく響きません。

 同じ映画でも俳優、スタッフ、ストーリー、撮影方法、原作、ジャンル、映画賞、観客動員数などターゲットによって、売りになる情報が異なります。お題となる素材のポイントを適切に抽出できるかも書き分けには重要な要素です。

◎文章のトンマナを自在に操れ!

 書き分けというと、トンマナ(トーン&マナーのこと)に注目する方は多いかもしれませんね。トンマナをカンタンに言うなら「ノリ」のこと。文章自体の演出にも直接的に影響してきます。  

 個人的にですが、これをもう少しカンタンに実践できる方法があります。

 「語り手の設定」です。
 読者にターゲットがあるなら、それに親和性の高い「発信する側のキャラも設定」してしまえ、という……。
 NHKアナウンサー風とか、映画の予告編のあおり系ナレーター風とか、情報番組のMC風、世界の名勝をめぐる大女優風などなど、語り手のキャラを設定して、その語り口を利用してしまいます。

 「熟語の頻度」もトンマナに影響します。
 よく新卒者の場合など、文章が論文のように固いと指摘されることが多く見られます。これ、カンタンに言うと熟語の数です。

 「歩いているときに道に落ちていたサイフを拾ってお巡りさんに届けた」
 「歩行中に路上で財布を発見し交番に届けた」
 
 ちょっとベタな例ですが、後者のほうがシンプルである一方、固い印象に見えると思います。読んでも固いですが、実は視覚的に固く見えることが1番の問題。箱書きなので熟語びっしりで書いてしまうと、誌面はスミの密度が高まって真っ黒に見えます(パッと見)。

 ターゲットによって、熟語の頻度を意識して、言葉を置き換えることも大切だと思います。

◎リズムの調整は「音読せよ」

 文章にはリズムが大事とよく言われますが、確かにそうです。リズムが突っかかると本当に読みづらい……。
 読書は基本的に「黙読」するものですが、これをあえて声を上げて「音読」してみてください。

・呼吸がつらくなるほど一文が長い。
・ぶつ切りっぽく流れが途絶える。
・音声だけで内容が頭に入ってこない。

 上記のような感覚があるようなら、リズムの悪い文章になっている可能性が高いです。

◎定型フレーズをパクれ!

 新人編集者に多く見られるのが、フレーズの不足。出だしや結び、つなぎのフレーズのパターン(引き出し)が少なすぎて、安直な表現に逃げたり、こねくり回して無駄に文字数を消費したり、「苦しそう」という印象の文章になってしまいがち。

 こういう場合は、単純に雑誌や書籍、web記事をたくさん読んで、定型フレーズをできるだけ多くストックするようにアドバイスしています。

 定型フレーズなどは、パクってOK。語彙が少ないなら増やせばいいだけ。オリジナルフレーズを考えるのは慣れてきてからでも十分です。

あくまでも初期段階です……。

 ライティングの世界は、本当に奥深いものです。上記に挙げたことは、あくまでも私の持論ですし、初期段階のポイントに過ぎません。それでも、イチからライティングを始めるという方には役立つのではなかろうかと(一人前に見える)……。

 短い文章をうまく書き分けできるようになれば、長い文章でも同じようにうまく書けるようになるはずです。

文/編プロのケーハク

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