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先輩編集者が教えてくださったこと
先日、シュッパン前夜のメンバーYouTubeの撮影にて、編集者の岐路・転機の話が出ました。
そのとき私は、先輩のことを思い出しました。
私を育ててくださった先輩たちのことです。
今回は、その先輩から学んだことのうち、「勉強の大切さ」と、「『読者のため』と『読者の立場』の違い」について見直してみました。
読者に対して真摯に取り組むKさん
私が編集者として出版社で働く前は、編集プロダクションの編集者として、15年以上、本づくりに参加していました。
その間、多くの版元の編集者と仕事をしています。
本作り、特に実用書の編集は時間がかかる仕事です。
編プロは、図版をたくさん活用した実用書づくりの実務を行っているため、ほとんどの編集者は年間10冊を作ることができません。
私の場合、編プロに入社した当時は年間数冊。仕事に慣れた後でも10冊はできませんでした。
ある程度、本づくりに慣れてきてからは、年間6〜8冊くらいが多かったと思います。
それらのすべての本は、版元の編集者と一緒に本作りを進めます。
また、私は同じ編集者と作ることが多かったため、年間、3、4人くらいの版元編集者と仕事をしていました。
何年も同じ方との仕事が多かったため、それほど多くの編集者とは仕事をしていないほうだと思います。
そんな中で、私に大きな影響を与えてくださった先輩が数名いらっしゃいます。
まずパソコン書を作っていたときに出会ったKさんという出版社の編集者。
彼からは、「勉強する大切さ」を学びましだ。
あるテーマの本を企画したとき、企画を通すとき、構成案を考えるとき、実際に本作りを進めているときに、どのくらい勉強する必要があるかを学んだのです。
当時の私の場合、企画時は、類書を読んで数冊。ゼロというときもありました。
もちろん、雑誌を筆頭に他の情報は得ていましたたが、その程度です。
企画が通った後に、構成案を作るときは、類書を2、3冊。
本作りを進めているときでさえ、その間に出版された本をあと1冊、読むかどうか。
もちろん、雑誌は毎月、購読していたため、情報のアップデートはしていました。
しかし、Kさんはすごかった。
企画検討時の段階で、少なくとも4、5冊は読まれていました。
それも、ほとんどは熟読です。
構成案を作るときは、熟読した類書をベースに、新しい情報を組み込んでいきます。
雑誌や業界ニュース、ネット情報などです。
ちなみに、当時はインターネットが始まったばかりで、電話回線でつないでいた時代。つまり、ネットにつないでいる時間、通話料などがかかるため、ネットサーフィンでいろいろな情報を探すということがむずかしい状況でした。
そのような中、新しい情報を次々と入手していたのがKさんです。
本づくりが進行している間も、打ち合わせをする度に、新しい情報を入手されていました。
それをできるだけ取り入れようとしていらっしゃいました。
「『読者のため』になることは、する!」という姿勢です。
繰り返しになりますが、私の場合、企画時に2、3冊。それも熟読には届かないレベル。
さすがに、構成案を考える前には熟読していましたが、2、3冊のまま。
それ以外の情報は、雑誌が中心で、あとはネットを少しだけ……。
私は、Kさんと一緒に仕事をし、
こんなに勉強するんだ!
ここまでしなければいけないんだ!
と、彼から学んだのです。
「読者のため」の本を作るには、自身の知識量を増やし、そこから取捨選択することで、
・抜け漏れのない、必要な情報
・読者が理解できる程度の、細かすぎない情報
を提供できるのだと理解したのです。
実務が増えたが……
じつは、当時、実作業をする私としては、本づくりをしている途中に、新しい情報を入れることに対して抵抗を感じることもありました。
「今からだと厳しい、大変だ!」と感じていたものです。
ただでさえ、時間を必要とする編集の仕事に、一部のやり直しが入るわけですから。本づくりの途中で、新しい情報を組み入れるとなると、それまで進めていた部分に大幅な修正が求められるケースが出てきますので。
そのため、「今からだと厳しい、大変だ!」と思っていたのです。
しかし、Kさんはあきらめません。
「読者のためになることは、する!」という姿勢が一貫されていたのです。
このときKさんのすごいところは、まず
・丁寧な理由の説明
が一緒にあったことです。
打ち合わせでは、新しい情報を加える理由を、丁寧に具体的に説明されました。
「読者のため」ということを、私が理解・納得するまで丁寧に説明いただきました。
他の版元編集者でも、ここまではしてくださる方は多かったです。
ところが、Kさんは、
・手間の少ない直し方の提案
まで、してくださったのです。
編プロサイドが行う現場での作業まで考え、それを解決する具体的な提案 = 手間の少ない修正方法までお話しくださったのです。
ここで私は、「読者のため」と「読者の立場」の違いも学びました。
「読者のため」の作業には、たとえば、プラス1時間で終わるかんたんな「読者のため」の作業も、プラス50時間かかる大変な「読者のため」の作業もあります。
このときの基準が「読者の立場」です。
たとえば、「『索引』をつくるかどうか?」
索引を作成するのは時間のかかる仕事です。
用語をピックアップしてテキスト原稿にし、そこにページを入れて、あいうえお順に並べ替える。それをデザイナーに依頼して作成する。そして、組み上がってきたものを、間違っていないかページに当たる(「逆引き」といいます)という一連の作業を行わなければなりません。
索引を作るのは、他のページの数倍の時間がかかるということです。
作業時間を短くすることだけ見れば、索引をつけないほうがベターです。
ここで、「読者の立場」が出てきます。
「読者のため」でしたら、索引はあったほうが便利ですから、「作成する」となるでしょう。
しかし、「読者の立場」で考えたときに、索引が必要かどうかを考えることになります。
「索引を必要とする読者はどれくらいいるだろうか?」
「目次に似た言葉が多いので、目次で十分なのでは?」
「索引があると、かえって“むずかしい”という印象を与えてしまうのでは?」
などを考え、索引を作るかどうかを決定するのです。
これが「読者の立場」から考えることです。
そして、「必要」という結論が出たのならば、他のページの何倍の時間がかかろうと作成します。
一方で、「それほど重要ではない」という結論が出たならば、索引を作りません。
「読者の立場」と「読者のため」の違いは、わかりにくいので、他の例をあげましょう。
「価格」です。
値段は安いほうが「読者のため」です。
しかし、それでは仕事になりません。会社に利益が残らず潰れてしまいます。
そうならないため、「読者の立場」を考え、適正な価格を設定することになります。
いくらまでなら「価値がある!」と感じていただけるかについて考え、それに基づいた価格にするのが「読者の立場」の視点だと思います。
このようなことが「読者の立場」と「読者のため」の違いです。
Kさんは、新しい情報を追加するかどうかを「読者の立場」から考え、それを私に丁寧に説明してくださったのです。
それも、効率的な修正方法を加えてです。
このようなKさんは、私がとても尊敬している編集者の一人です。
Kさんのおかげで、すごく成長できました!
本当にありがとうございます!
文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。
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