フードエッセイ「アイスクリームが溶けぬ前に」 #25 珈琲 波无(沼津)
友人や家族から薦められて、でもずっと食べたことがなかった食べ物に出会えたとき、ようやく会えて嬉しいですと、言いたくなる食体験になる。そして、その食べ物にたどり着けるお店がなかなか見つからなくて、ようやく食べられるかもしれないと思えたときのワクワクは特別感がある。
クラブハウスサンドイッチ。
通常のサンドイッチは、生の食パンに野菜やハム、卵、ツナなどの食材を挟み、マヨネーズやバターを塗ったりして出来上がるが、クラブハウスサンドイッチはトーストしたパンを使うのが特徴。
これだと、ホットサンドと何が違うんかい…!?というツッコミが飛んできそうだが、3〜4枚のトーストしたパンの間に具材を挟み込んで出来上がるのがクラブハウスサンドイッチで、ホットサンドは具材を挟み込んだ生の食パンを、ホットサンドメーカーにいれて焼き上げるのが違うところ。似た料理との違いをひとつずつクリアにしていくと、その料理だからこそ楽しめる要素が見えてくる。
サンドイッチやホットサンドに比べると手間がかかる料理な分、ファミレスやコーヒーチェーン店でも取り扱っているところは少ないし、喫茶店でもピザトーストはあってもクラブハウスサンドイッチはないというところが多い。まるで、生存確認はできているけど、生息地が減っている動植物のようだ。「食べたかったのに食べられなかった」となる前に、クラブハウスサンドイッチと出会って、夏休みの絵日記のように新鮮な記憶を残さねば。
そう思いつつ、コスモドリアとの衝撃的な出会いを果たしたロイヤルホストではなく、地元の喫茶店でクラブハウスサンドイッチに出会いたいという自分なりのワガママを出しつつ、Google Mapとにらめっこを続ける。「お店探し」というコンテンツは、その人の性格や嗜好だけでなく、グルメへの嗅覚のようなものを感じられる要素だと思う。お店選びのセンスがいい人は、食への好奇心も高いという"相関関係"があってもおかしくない。
と考えていたら、ついに高校時代に通っていた沼津のある喫茶店で、クラブハウスサンドを出しているのではという情報をつかんだ。有名人の交際をキャッチする芸能レポーターみたい。
下調べしてたどりついた、珈琲 波无(バン)に到着。というか、仕事でよく通っていた道の途中にある純喫茶で、ここにあったのね、こういう形で出会えて嬉しいよ…と入店前につぶやきたくなった。
入店して着座。すぐにメニュー表をみたら、ありました。クラブハウスサンド。このお店ではクラブサンドだったけど、文字面を見た瞬間、心の中でガッツポーズと出会えた…と拝むポーズをしていた。ツナとベーコンのクラブハウスサンドをオーダーしたものの、子どものように料理が届くのをソワソワしながら待っていた。
しばらく待っていると、横長の皿にナフキンが引かれた上に乗ったクラブハウスサンドが入場。断面、パンの焼き目、具材の新鮮さ、もう食べる前に美味しい確定。口の中に運ぶと、口いっぱいに広がるレタスの新鮮さ、マヨネーズのちょうどいい量、1ピースのパンの大きさ。美味しいに加えて、食べやすいように心配りしてくれたのかなと、想像力も豊かになってしまう。美味しい料理に出会うと、五感が刺激されるのかもしれない。
真新しいカフェも気分があがるけれど、スイッチをいれなくてもいい、オフでも入れる純喫茶のアットホーム感に救われる時がある。また、今日はこれを頑張ろうと朝思っていたのに何もできていない…そんな自分を責めたくなるとき、行きたかったところが混んでいて萎えているときなど、急な目的地になっても迎えてくれる感覚になれる。
そんな場所に出会えてよかったと思いながら、
今日もごちそうさまを伝えたい。
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