第7回:大多喜編:2022年5月8日

台湾の男性バンド、滅火器(Fire EX.)が歌う「おやすみ台湾」 (晚安台灣 日本語 Ver.)を車中で聴きながら千葉県大多喜の筍料理店、「竹仙郷」に向かう。

竹仙郷は山の中にある。途中、本当にこの道でいいのか、異界に入ってゆくような細い一本道を進んでゆく。やがて小さくて黒い、まるで手作りのようなトンネルをくぐる。そのちょっと先が「竹仙郷」である。「千と千尋の神隠しのようだ」と息子。

炉端焼きで食べた筍はやわらかくて甘くてとてもおいしかった。筍のほかに鮎も出た。

私はずっと、川魚は鮎をはじめとしておいしいと思ったことがなかった。ただ、川魚はたくさん捕った。母親の実家が大分県の筑後川のほとりにあり、子供時代の夏休みはほとんどそこで過ごしていたからである。

川魚は豊富にいたが、やっぱり鮎は別格だった。見つけると「お、鮎、鮎」と大人たちの目の色が変わった。鮎は頭がきわめて良い魚である。他のハエ(ウグイ)とかであれば投網や貸し網で捕ることができるが、鮎はこれらに絶対にかからない。たとえ投網の中に入っていても曳き上げるときにできるごくわずかな隙間からすり抜けてしまうのである。

鮎捕りのシーンはいくらでも頭の中に蘇るが、特に覚えているのは、捕れた鮎を捕った場所からビクを置いてあるところまで逃がさないようにと叔父に命じられて水泳パンツの中に入れて運んだことだ。子供の頃の楽しかった出来事。

竹仙郷の鮎は美味だった。

竹仙郷では、筍掘りと山菜採りをするつもりでいた。しかし、筍掘りシーズンは前日で終わっており、また、雨あがりだったのでヒルだらけと女将に聞かされたので山菜採りもしないことにした。炉端焼きをし始めてすぐに配偶者の手にヒルが吸い付いたことから、室内にいてもこれらなら野外でヒルがうじゃうじゃ待ち構えているのは耐えらない。ヒルが出ることは分かっていたのでヒル除け剤「ヒル下がりのジョニー」を一応用意してはいたのだけどね。

竹仙郷をあとにしてあのトンネルをくぐる。車中に「いつも何度でも」の曲が流れる。車窓から山の新緑を眺めているとQちゃんの脛にヒルが吸い付いた。油断できんね。

「道の駅おおたき」で濃厚なソフトクリームを食べているときに、「夏休みに台湾に挨拶に行くから」と言われた。そうだねえ、直接に対面して挨拶しないとねえ。今まではネット越しだけだったから。

それから養老渓谷に行き、粟又の滝(養老の滝)などをめぐる遊歩道を散策した。

帰りの車で息子が不意に「アウトバックのパン、覚えてる?」って聞く。あのおいしい味が忘れられずにこのあいだ幕張のアウトバックまで食べに行ったそうな。一緒に食べたのは息子が小学生だったときだと思うよ。
子供の頃の楽しかった出来事はずっと心の中にある、と胸が詰まる。
「おいしかったか?」  「うん、おいしかった」。


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