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いにしえの京の都に伝わる隠者の教え
目の前に、桜の花びらを乗せた美しい川の流れがあります。
この川は、北は鞍馬の湧水から始まり、京都の洛中を流れ、やがて大阪湾へと達する。
今頃、京の市中で激しい戦が行われている。
天皇家同志が争っています。
世に言う壬申(じんしん)の乱。
洛北に住む隠者のススメに依り、京の水を浄めればこの乱は治まると。
社会の動乱には、必ず川の水の汚れが関係していると隠者に教えられました。
しかし、どう見てもあの水はどこまでも綺麗で、それどころか神秘的で光を放っております。
この川の何処を浄化すれば良いのか見当が付きませんでした。
ところが隠者ときたら、いきなり朝起きて川の水を一杯汲むと、
これはまた、東の方に兵が起こり、この戦、益々大きくなったようじゃ。
と言います。
一体、本当に川の水の味で世の中の動乱が分かるものか。
何度飲んでも川の水は全く同じにござりました。
恐る恐る、隠者様に問いかけます。
お教え下さいまし。
この川の水の味、何処がどのように動乱を現しておりますのか?
すると隠者は言いました。
精神を研ぎ澄ますのじゃ。
さすれば必ず味が分かる。
しかし、何日経っても結果は同じにござりました。
隠者様、お言葉を返すようでござりますが、さっぱり分かりません。
それでは聞くが、お前は水を飲んだのか?
と聞きます。
その通りでございます。
すると隠者はこう答えました。
それはそうであろう。
水を飲んだのでは、味はさっぱりわかるまい。
はて?不思議なことを仰られます。
水は飲まねば味は分からぬではござりませぬか?
それは違うな。
と隠者は申されます。
異変を察知するのは川の水であろうか。
お前ではないはずだ。
確かに。
川の水の立場に立たねば、川の水がどのように変化しているか掴むことはできぬ。
川の水の立場に立てば、飲むということはないはずじゃ。
お前に飲まれるだけじゃ。
米の味も同じじゃぞ、毎朝頂く米じゃよ。
米はお前に食べられるのじゃ。
そう思って召し上がられよ。
そうすれば、米の声が聞こえるようになる。
女性は子供を孕む。
何故、男性よりも人の心が分かるかというと、我が子の立場に立てるからじゃ。
泣き声が分かり、何を欲しがっているかがわかる。
そのことを忘れてはならぬぞ。
子どもはとにかく、川の水を他人と思うたが故にわからなくなるのじゃ。
我が子と思うて、川の水になりきり、その心を探るがよい。
今日から一滴も川の水を飲んではならぬ。
川の気持ちになるまではな。
と言われて、毎日毎日、川の流れを見つめながら川の気持ちになり切りました。
ある日、師匠がやって来ました。
隠者は木の枝でいきなりピシャリと川を叩きました。
その瞬間、貴女は「痛い!」と叫んだのです。
よろしい、やっと川の気持ちになれたようじゃ。
さあ、飲んでみろ。
沢山の悲しい思いと諦めに似た思いと、そして逃げようとする思いが伝わって参ります。
その通りじゃ。間も無くこの合戦は終わる。
終わるが双方ともに不平不満を抱いたまま終わるのじゃ。
合戦では、何がどうあっても、苦しみを埋めることはできない。
美しい調べの弦楽器の音色、人の歌、囃子、そうしたものに依って、恐らくは何百年もかかって癒される。美しい歌声を毎日川の水に聴かせよ。
そう言われて川の水の前で美しい歌声を響かせました。
すると不思議なことが起きたのであります。
京のあちこちで美しい音色の楽器、声、踊りが瞬く間に広がりました。
人はもう争いはウンザリとなり、争いの無い平和な世の中を願う人々の気持ちが盛り上がったのであります。
これが水の力じゃ。
そしてこれが隠者にとって最も重要な仕事じゃ。
何かを指図するのではない。
いつも穏やかであるように念じながら水に祈りを込めるのじゃ。
その尊い働きが国や一つの組織の崩壊を防ぐのじゃ。
そのような尊い働きを、其方はこれからも幾世代にも渡って為すであろう。
こうなって欲しいと願う者は多いが、何が起きても穏やかでありますようにと願う者は少ない。
しかし、そちらの祈りの方が遥かに大事じゃ。
仮に平和が来たとしても、いつまでも続く保証など何処にもないのだ。
ただ落ちついた安らいだ状態に戻ればよいのじゃ。
これが古(いにしえ)の京の都に伝わる隠者の教え。
2024年7月 タマシイヒーリング by Dr.Shu