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屋久島の儚(はかな)き雪の山岳風景
今日は、屋久島の雪の山岳風景の良い写真と映像が撮れたので、雪の奥岳の風景を写真で紹介しながら、この島で雪化粧を纏った山岳風景に出会えることの儚さをお伝えしたいと思います。奥岳とは里からは見えない島の中心部の高山帯の山々をさします。
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毎年、旧暦の正月の前後にその年で最も強い寒波がこの島に到来することが多いです。今年は、雪好きとしては大当たりの年で、豪雪。すでに何度かの降雪があって根雪がしっかり残っていたので、今回の寒波で奥岳はかなりの積雪量で1m以上積もっているところばかりでした。
こうなってしまうと登山道は埋まってしまい、積雪のレベルが木々の樹冠近くまで達して、匍匐前進でないと進めない状況になるので、奥岳の世界まで到達するのは困難を極めます。
https://youtube.com/shorts/EVQhsKuB-Yg?si=N9mzPOCKUFgmZOOM
雪山登山の様子
体力的な困難の他にも、奥岳の山岳風景を見るためにはまだ困難がつきまといます。
まずはこの島が日本の雪山の南限だということです。屋久島より南には屋久島ほど高い山岳を有する島は日本にはありません。緯度が低いので気温が高く雪が降ることが本州に比べて稀だという地理条件と気候条件があります。
そして、寒波が過ぎ去って高気圧が近づき天気が好転して晴れ間がさすと樹冠についた雪が溶け、一気に無くなってしまうのです。さすが南の島だなと思わせるほどの溶けるスピードに毎回驚かされます。なので、状態の良い雪質で真っ白になる奥岳のシーンを見れるタイミングは、寒波が過ぎ去り晴れ間がさしはじめてからの数時間です。樹氷に関しては、晴れ間が3〜4時間も続いたらあっという間に消えてなくなってしまいます。
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この写真は15時ごろ撮影したのですが、翌日は日の出前から晴れており12時ごろにこの森にたどり着いた時には、木についていた雪は跡形もなくなってしまっていました。地面の根雪以外は急速にとけてなくなってしまいます。
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樹氷に限っては曇りのままでいてくれることが好条件となります。
雪が降って、天気がよくなったから雪景色を見に行こう!と山に入っても溶けた樹氷が林床に落ちてべちゃべちゃな雪になってしまっていることが、この島では大半です。
だから、とびっきりの美しい雪山を屋久島でみたいのなら、寒波の悪天候の真っ最中に山に入らないとなのです。奥岳の世界までは雪の積もった登山道では最低でも2日を要します。なので、晴れるだろうと予想する2〜4日前から入山して、寒波を山の中でやり過ごす覚悟が必要になってきます。雪が降ってくれているならまだいいのですが、低い山では雨のことが多いので、初日はだいたいずぶ濡れです。冬は奥岳へ容易にアクセスできる淀川登山口へ通ずる林道は路面凍結でいち早く封鎖されてしまいます。
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そして、天気予報がはずれて晴れないこともよくあるんです。山の天候は早めに崩れて、遅く回復すると一般的には言われています。今回の山行での予報では狙った晴天の日の翌日は雨予報だったので、もしかすると晴れないまま、次の低気圧の影響で、曇りのままないし雪か雨のままということも十分ありえました。4日かけても何も見れないという未来も想定もしながら入山するという、なんと不確で心を折ってくる事象が多いことかと、毎回荷物を詰めながら思ってます。笑
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だけど、僕はこの困難がつきまとう雪の奥岳に毎年通い続けています。
それは、6年間ずっとどうしてもある一定以上の品質で写真と映像におさめたいシーンがあったからです。それが先日ようやく叶い、この記事を喜びの中、書いています。
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なぜ6年かかったかは、里での経済活動の調整や、ドローンのテクノロジーの進化を待たなければならなかったことが大きく関係してますが、この島での雪山の経験値がなかなかあがらないということが何よりも時間を要した理由になっていると思います。雪の中入山して何度も予想が外れて残念な目にあってきました。今もその行動パターンは継続中で、お米作りと似ていて年に1回しか経験できないので、生涯悟れることはないのでしょう。しかし、今年はいろんな予想が当たり、運も味方して、最高の状態で撮影することができました。
映像の障子尾根は標高が低く雪はあっという間にとけてしまうので、いい雪質の状態で撮影するチャンスは宮之浦岳や永田岳より格段に少ないです。
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困難を乗り越えながら登り詰めた先に見える風景が心にどんな作用をもたらせるのか。その偉大さと爽快さを知ってしまった山好きは、生涯山の中毒者になってしまい、より過酷な山を登る計画をたててしまうものです。
山は不思議で、困難が有れば有るほど、登り詰めた時に押し寄せてくる感動は衝撃的なものになっていきます。そして困難で嫌だったはずのシーンが大切な思い出へと変わっていってしまうから本当に不思議です。そして、次にやってくる思いは、山を登れることへの感謝の気持ちと、登れる機会を作ってくれた多くの方と、我が生命を支えるために犠牲となった多くの生きものたちへの感謝の念です。そして、感動の波がひとしきり落ち着くと、決まってあらたなワクワクのアイデアが心にやってきます。その現状の自分では思いもよらない思考を下ろすために僕は山に登っているのかもしれません。笑
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僕らの先祖は、ありがとうという漢字を有難うと綴ります。
困難が有ることはなんてありがたいことなんだろう。
そう思って僕らの先祖は困難を乗り越えながら暮らしていたのかもしれないな。
屋久島の山に入るようになって、そう思うようになりました。
有難うの反対で困難がないことを無難と書きます。無難な人生と、感謝の念が生まれる有難うの山あり谷ありの人生。どちらを自分はこれから選択していくのか。どちらが豊かな人の道なのか。
未来をより良くしていこうとおもったとき、どの分野でも必ずと言っていいほど大変でめんどくさい作業が待っています。自分がその局面に遭遇した時、
「やらない方がいい理由がたくさん有るから、やめておこう」
「これとこれとあのリスクがあるから、これらを解決して、とりあえずやってみようぜ」
どちらのセリフを選んでいったら、最幸の写真と映像をおさめ、言霊の入った文章が綴れるのか。そして、社会は良くなっていくのか。
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山はいつも無言でどちらの道を進むべきかを明確にさし示してくれている。
今回は、雪山の世界が美しすぎて、たくさんの思いが湧き上がりました。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。
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