なぜ、クラフトジンがあって、クラフトテキーラはないのか。
クラフトビールを筆頭にクラフトなんちゃらと呼ばれるお酒が結構流行っていたりする。
そもそもクラフトとは、「民芸品」「工芸品」などの意味を持っているが、ここでいうクラフトビールやクラフトジンで用いられるクラフトは、「いわゆる大手以外の、地域密着型の小規模な醸造所で造られたもの」を意味する。
そして、近頃じわじわと増えているのが、クラフトジンである。
わたしのお店でもクラフトジンは多く扱ってる。
代表的な日本のクラフトジンには、京都醸造の「季の美」がある。
「京都蒸留所」が手がける季の美は、2016年9月にリリースされ、大きな話題性とともにジャパニーズクラフトジンの流れがここから始まったともいっても過言ではない。
だが、そもそもジンとは何なのか。
ジンとは、蒸留酒(スピリッツ)の一種である。
お酒は大きく①醸造酒、②蒸留酒(スピリッツ)、③混成酒(リキュール)に分けられるが、
①醸造酒とは、蒸留を行わずに酵母の発酵で作られたお酒で、ワイン、ビール、日本酒などがこれに当たる。
②蒸留酒(スピリッツ)とは、醸造酒を蒸留させて、よりアルコール度数の高い液体となっていったものである。蒸留は理科の実験でやったこともあると思う。その製法ゆえに当然ながら醸造酒よりもアルコール度数が高くなる。
代表的な蒸留酒(スピリッツ)にはジン・ウォッカ・ラム・テキーラがあり、これらは4大スピリッツと呼ばれる。
なお、ウイスキーや焼酎もスピリッツだが、ウイスキーはその生産量の多さから独立したジャンルと見なされるため、焼酎は日本国内での流通が主流なことから、「〇大スピリッツ」とは数えられないそう。
ちなみにスピリタスというウォッカは96度あるが、70回以上ひたすら蒸留をし続けたモンスター蒸留酒である。
③混成酒はリキュールとも呼ばれ、リキュールとは、果実、香草、薬草などで風味づけをし、さらに甘みなどを加えた蒸溜酒である。
スピリッツが無色透明なのに対して、リキュールが色とりどりなのはその為であるし、当然スピリッツにアルコール以外のものを加えるので度数はスピリッツよりも低くなる。
スピリッツが大体40度前後に対して、リキュールは20度前後下がる。
先程、挙げた4大スピリッツの中でもそれぞれに製法が異なり、この製法の違いが、クラフトジンが多く作られることに起因する。
まずジンの製法は、蒸溜したグレーンスピリッツに、杜松(ねず)の実(ジュニパー・ベリー)の他、多様なボタニカル(草根木皮)を加えて、さらにゆっくりと再蒸溜してつくる。
この、一度、蒸留したものにボタニカルを加えて再蒸留する工程こそがジンの特徴だ。
つまり、ボタニカルを加える工程こそがジンの生命線なのである。
ジンはもともとレシピの幅が広く、ルールとして元祖であるジュニパー・ベリーが必須とされる以外は、どんなボタニカル(香草・薬草類)を加えても構わないとされてる。
つまり、ジュニパーベリーを軸にして、あとは好きなボタニカルの詰め込みパックだ。
個性を含んだクラフトジンを誕生させる所以ともなっているのはこの為である。
一方で、その他のスピリッツであるウォッカ、ラム、テキーラは個性を出しづらい。
なぜなら、ラムはサトウキビ、テキーラはリュウゼツランといった原料が定められてるし、ウォッカはジンと同様に、ベースはグレーンスピリッツと幅広いが、ジンとの違いは蒸留した原酒を白樺(しらかば)の炭によってろ過させていることが条件となる。
原料が定められたラムやテキーラは、当然それらの原料を日本よりも収穫できる環境が整っている国や地域があるし、仮に日本で1から作ったとしても個性を感じ取らせることは容易ではないだろう。
テキーラが苦手な人は、そもそもリュウゼツランでつくられるあの感じが無理なので、どのテキーラも受け入れ難い。
またウォッカは、水のようにまろやかでクセの少ない飲み口が特徴である為、いかに雑味少なくて純度高いものを仕上げるかを評価されることが多い。白樺の炭でろ過させるのも、基本的には無色・無味・無臭を目指すが故にである。
日本のクラフトウォッカでいえば、奥飛騨ウォッカなんかもあるが、クセがなくてキンキンに冷やしてストレートが美味い。そういった評価が多いのだ。(当然、ウォッカをストレートで飲めて美味しいクオリティなのは凄い。)
このため、ジンは大手メーカーだけでなく、世界各地の造り手たちが、それぞれのアイディアを活かし、工夫を凝らした個性豊かなクラフトジンを造り、それぞれの味わいを競い合うことで発展を続けている。
なかでも人気が高いのが、それぞれの地域に特有のボタニカルを使った、地域色豊かなクラフトジンである。
こうした動きが日本にも波及し、2016年8月には日本初のジン専門蒸溜所・京都蒸溜所が誕生した。
米を原料としたライススピリッツをベースに、玉露やゆずなど京都ならではのボタニカルを用いた「季の美」は、和のテイストあふれるジンとして、海外からも大きな注目を集めた。
この動きを筆頭に、各地域でクラフトジンが作られている。
沖縄のクラフトジン「まさひろ」は泡盛をベースにシークァーサーなど沖縄ボタニカルを詰め込んでるし、鹿児島の「和美人」は鹿児島の焼酎製法技術を使って焼酎ベースでジンを作り、味は焼酎といっても過言ではないのだが、トニックウォーターで割れば、それは紛れもなくジントニックとなる。
ジントニックといえばカクテルの定番ではあるが、これからは好きなジントニック、嫌いなジントニックといったように差別化されていくのではなかろうか。
そんな風に思っている。
END
番外編
ジュニパーベリーとは??
ジンに必須とされているジュニパーベリー。
そもそもなぜ、ジンはジュニパーベリーなのか。
これはジンの歴史を辿ることになる。
1660年、とある教授が、植民地の熱病対策のために、利尿効果のあるジュニパー・ベリーをアルコールに浸漬して蒸溜し、利尿剤をつくった。
この薬酒はジュニエーブルの名(ジュニパー・ベリーのフランス語)で利尿、解熱、健胃剤として広まっていく。
当時、オランダで飲まれていた蒸溜酒は祖末なポットスチル(単式蒸溜器)でつくられていたために雑味が多かった。
ジュニパー・ベリーの爽やかな香りと味わいを抱いたジュニエーブルはその効用にとどまらず、オランダ中で大人気となり、ポピュラーな酒へと成長したのだった。
つまり、普段飲んでいる酒よりも「この利尿剤の方が美味くね?」ってことだと思う。
1689年、ジュニエーブルはオランダから英国国王に迎えられたウイリアムⅢ世(オレンジ公ウイリアム)とともに海を渡った。
イギリスに迎えられたジュニエーブルは爆発的な人気を得た。名もジュニエーブルから「ジン」へと短縮される。(たぶん呼びづらかった)
ただ、当時のジンは少し甘口だったという。
また、しばらくジンの評価は「安く酔える酒」としてスラム街などで低所得者などがジン中毒になるなど、ジンのイメージは良くなかったという。
いまのように洗練された辛口のジン、ドライジンが生まれるきっかけとなるのは19世紀はじめの連続式蒸溜機の誕生後のことになる。
これでクリーンなグレーンスピリッツがつくれるようになった。
雑味の少ないライトな風味を持つジンは、ブリティッシュ・ジン、あるいは主産地のロンドンの名を冠してロンドン・ドライジンと呼ばれるようになった。
この頃から労働者階級が上の人の為の高級ジンをつくるための蒸留所も出来始め、品質やイメージは回復していく。
そして、ロンドン・ドライジンはいよいよアメリカへ渡る。
アメリカへ渡ったジンは、カクテルのベースとして一躍脚光を浴びることtなった。
とくにマティーニのドライ化において重要な存在となりながら、世界的なスピリッツへと成長していった。
この歩みが「ジンはオランダで生まれ、イギリスで洗練され、アメリカが栄光を与えた」といわれる由縁である。
つまり、ボタニカルの軸としてジュニパーベリーが無ければジンとはいえない。
ちなみに無印のアロマのコーナーに「ジュニパーベリー」という香りがある。ジン好きにはたまらない匂いなので嗅いでみてほしい
END