コロナ禍で直面した絶望とそこからの復活、そして2.4億円の資金調達に至った経緯の振り返り
もうかれこれ1ヶ月ほど前になってしまいますが、2.4億円の資金調達を発表させていただきました。増資による資金調達自体は実はそこそこ経験してきたのですが、創業9年目にして、初めてPRという形で情報を出すことになりました。
参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000029233.html
今回は、折角なので直近の近況報告も兼ねて、調達に至った経緯も振り返ってみようと思います。少しでもこれから資金調達する方や事業立ち上げ等で何か悩んでいる方などの参考になればと思います。
浮き沈みのあった3年間
先にざっくり説明してしまうと、上図のような浮き沈みがありました。どうにかこうにか事業を伸ばしていた時期、コロナの襲来で絶望した時期、そして、そこからの再起をかけて挑戦した時期。
以下、それぞれのフェーズでどんなことが起きていたのか、少し詳細を振り返っていきたいと思います。
競合ひしめくGoogleマップ対策市場(2019年夏)
2019年の夏頃、僕たちは(恐らく多くの企業と同じように)競合企業との差別化に頭を抱えていました。大変ありがたいことに「オススメサービス10選」といったようなwebの記事にcocoを取り上げていただけることも多かったのですが、それはつまり常に「その10社で比較されている」ということも意味しています。
真夏の暑い中、何度も何度もcoco導入を検討するお店を訪問しては、せっかく出していただいた冷えたお茶を飲むことも忘れるくらい、他社との違いの説明に躍起になっていました。
競合に打ち勝って自社が選ばれる事もあれば、逆にやんわりと断られて恐らく他社の製品を導入したんだろうなーということも頻繁にありました。coco独自の機能だと思っていた機能も続々と競合製品に登場し、「オレたちが一番最初に始めた」という、顧客からしたら全くもって無意味な営業トークを繰り返してしまう始末でした。
結果として、市場にかなり早期に参入したことによる優位もほとんど失い、わかりやすく月次の成長率も低下していました。これは、投資を受けて事業を推進する"スタートアップ"としては非常に悪い状態です。
「どうにかしなければ」「何かを変えなければ」。右肩に上がらないグラフを見ては、ただただ焦り、不安になっているだけの日々でした。今思えば、当時は焦りがネガティブに働き、更に焦りが助長されるような、悪いサイクルに入ってしまっていたように思います。
「オレたちの強みはプロダクト」で空回り(2019年末)
そんな焦りばかりが先行したなかで行き着いた結論は、「オレたちの強みはプロダクトなんだから、プロダクトを思いっきり生かした戦略でいこう。時代は Product Led Growthだ !!!」というものでした。
今流行のPLG(Product Led Growth・プロダクト主体の成長戦略)をcocoでも実現するために、特に顧客ヒアリングなどもせず、セルフサーブで無料プランから誰でも簡単に登録できるような実装を行い、更に料金体系も最低価格を引き下げて、段々と高価格に移動できるように変更しました。
結果として、無料プランが評価されて、そこそこ多くの無料登録が集まりました。そして、一定の割合が、有料化・・・しませんでした。正直に言ってしまうと、ほとんどゼロに近いレベルでした。しかも、最低価格を引き下げたおかげで、営業経由でご契約いただいたお客様の契約価格も下がってしまったり、本当に踏んだり蹴ったりな状態でした。
これは、当然PLGのモデルが悪いと言いたいわけではなく、また「自分たちの強みがプロダクト」という認識が間違っていたとも思いません。ものすごく陳腐でありきたりな表現になってしまいますが、競合との差別化に焦るあまり、「お客様」の視点がポッカリと抜け落ちてしまっていたのでした。
当然事業の成長率も上がらず、更に焦りばかりが積み上がっていきました。
緊急事態宣言という追い打ち(2020年4月)
そんな中で、新型コロナウィルスが日本でも流行し始め、そして2020年4月、第1回目の緊急事態宣言がやってきました。皆様もまだ覚えていると思いますが、当時の自粛レベルは相当に高かったと思います。
cocoは、店舗向けサービスです。人々が外出しなければ、店舗にヒトは訪れないため、店舗は口コミを集めることもできず、また集めるメリットもない。それどころか、おそらく当時はcocoのお客様である店舗の皆様も自分たちの存続やこれからへの不安でいっぱいいっぱいだったことでしょう。
当然、cocoにも解約の連絡は大量に届いたし、cocoの利用頻度もわかりやすく激減しました。こうなるとcocoも競争どころでは有りません。会社として生き残るために、まずは節約できる費用を全て削りにかかりました。広告などは当然ストップ。誰も行かなくなったオフィスを解約し、僕自身の役員報酬も半分にしました。他にも、支援制度への申込みなどあらゆる生き残り手段を片っ端から、できることはほとんど全てやったと思います。
絶望と完全ゼロリセットへの覚悟(2020年5月)
ヒトが店舗に来なければ、店舗向けサービスの存在意義はありません。
当時、社長としてギリギリまで弱音を吐くわけにもいかず、社員にも株主にも、友人にも黙っていましたが、内心「完全ゼロ」から会社をやり直す覚悟もある程度はできていました。
幸い(?)今までも何度も失敗して何度もやり直してきたし、またこれか、、くらいの感覚で、誰にどの順番で謝るか、とか、とりあえずの手銭をどうやって稼ぐか、なんてことを考えたりもしていました。
とにかくヒトが外に出るのを怖がるようになれば、当然店舗にもヒトは来ない。店舗にヒトが来ない以上cocoに存在価値はなくなる。そんな考えや、ほとんど確信にちかい漠然とした恐怖が頭の中を占めていたような記憶があります。
あのときは本当に怖かった……
予期せぬ顧客の復活と、店舗の必要性(2020年8月)
ところが、思ったより早い段階で、復活のタイミングが訪れます。緊急事態宣言が発令された4月から4ヶ月後の8月に、主要KPIとして見ていた「cocoの利用頻度」に関する数値が過去最高値を記録したのでした。
当時、新規顧客の獲得はほとんどストップしていたので、全体の母数は増加していません。そんな中での最高値なので、つまりそれはcocoを以前から使っているお店への来店者数が増えている、ということも意味していました。
これには心底驚きました。コロナ禍であらゆる店舗の来客数は、当然減るだろうと思っていたのですが、業種によってはむしろ増えているお店すら存在したのです。
詳細の考察は上記の記事に書いてありますが、
・コロナ禍においても店舗は必要とされる
・店舗は「最高の体験」を提供する場である
という、新たな気付きと店舗の必要性への確信を得ることができました。
決死のピボット(2020年9月)
お店は最高の来店体験を提供する場所である。更に、その現場で働くヒトが、その体験を左右する重要な要素である。
その前提から、僕たちはサービスの再設計をはじめました。cocoとの接点を持ち、サービス導入して長期的な価値を実感するまでのジャーニー、そして課題や心情、を全て事細かに可視化し、ソレに合わせてプロダクトの仕様も大幅に変更しました。
また、自分たちの興味や強み云々は忘れ、プロダクトで解決すべき課題と、ソレ以外の手段で解決すべき課題を分け、どこで何を提供すれば顧客が価値を実感できるのか、事細かに再定義していきました。
サービスのターゲットや大枠が変わった訳ではないので、「ピボット」と言ってしまうと少々大げさですが、実際にそれまで大事にしていた機能を捨てる決断をしたり、サービスの訴求方法や価格設定なども大幅に変更したため、感覚的にはほとんどゼロからやり直すような、まさに「ピボット」をしたような気持ちでした。
お客様から学び、共に成長する(2020年12月)
そんな中で、ピボットの成果もあってか昨年2020年の後半から、順調に顧客の利用頻度も増加し、新規のお客様も増えてきました。
何より、cocoを使い倒していただけるお客様の獲得も増加したことにより、単純な売上増加のインパクト以上に、お客様からの学びの量と質が大幅に向上する、ということが起きました。
提供価値を明確にしたことにより相性の良いお客様が見つかり、相性の良いお客様が見つかるからこそプロダクトの改善点がより多く見つかる。結果として、僕たちもお客様と共に成長する。そのような関係が作ることができました。
現場接客のDX(2021年2月)
お客様との対話や試行錯誤を繰り返す中で、改めて僕たちがたどり着いた結論は、「現場接客のDX」がcocoの本質である、ということでした。
繰り返しになりますが、お店は最高の来店体験を提供する場所であり、更に、その現場で働くヒトが、その体験を左右する重要な要素となります。
つまり、現場で働くヒトの業務プロセスを、ソフトウェアとインターネットの強みが活きやすい形に変えることで、彼らの魅力を最大限引き出していく。それが、cocoの真の価値となるのです。
差別化などするまでもなく、恐らくそう簡単には真似し難いcoco独自のポジションに、気づいた時にはたどり着いていたのでした。
ついに掴んだIVS LaunchPad決勝出場(2021年3月)
スタートアップ業界にいる人なら知らないヒトなどいないイベント、IVS。その中の目玉イベントであるLaunch Padは、まさに「登竜門」のようなイベントで、僕自身今まで何度も応募しては、選考で落選してしまっていました。
その中で、ようやく決勝戦への出場機会が得られた、というのは明確に僕たちにも何か変化が形として現れたということです。顧客のジャーニーを全て書き出しサービスをやり直すところから始まり、様々なお客様と向き合う中でたどり着いたポジショニング・プロダクト・ビジョンがようやく評価していただけるところまでこれた、と実感することができました。
このイベント自体では残念ながら勝つことはできませんでしたが、今回の資金調達は、IVS Launch Pad出場が重大なきっかけとなっていたことは間違いありません。
急成長と、資金調達(2021年8月)
そしてついに、今回の資金調達に至ります。その交渉の間も、事業のKPIも順調に成長していました。LaunchPad出場から随分と時間が空いているように見えてしまいますが、交渉→決定→手続き、という一連のプロセスで一般的に半年ほど必要、と言われているので、ちょうどそのくらいだったのかなと思います。
投資家の皆様とディスカッションを繰り返す中で、更に事業の方向性はクリアに、シャープになっていきました。おかげさまで、大変心強い18社・名の投資家の方に本ラウンドに参画いただき、無事にクローズさせることができました。
"ヒト"の魅力を引き出すソフトウェア
改めてですが、僕たちは、お店の現場で働く「ヒト」に目を向け、そのヒトの魅力を最大限引き出すソフトウェアを開発します。そして、友達に会いに行くときのような、ワクワクした気持ちで行ける、訪問が楽しくなるようなお店であふれる世界を作ります。
顧客志向を当たり前に
僕たちは、「顧客志向を当たり前に」というミッションをずっと前から掲げています。しかし、今回のピボットや資金調達で得た何よりの教訓は、この「顧客志向を当たり前に」という言葉は、僕たち自身こそが誰より体現していなければならない、また、それ向き合うことで、僕たちの事業こそが成長する、ということでした。
目の前の一人の顧客の真の課題に正面から向き合い続ければ、必ず適切なソリューションが見つかります。そして、そのソリューションを磨き続ければ、必ず自分たちだけのポジションが見つかります。
そんな、当たり前なようでなかなか実現できない理想を、誰よりも僕たち自身が体現し続け、そしてそれを顧客にも伝え、良いお店であふれる世界を作る。今回の資金を持って、改めてそんなことにコミットしていきたいと、決意を新たにしました。
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以上、簡単に、と言いつつそこそこ長い文章になってしまいましたが、ご一読ありがとうございました。
今回は、詳細を省きましたが、他にも様々な試行錯誤や考えたこと、これから実現したいことなど、伝えきれていないけど伝えたいことがたくさんあります。
HPにもいろいろ載っていますので、cocoの取り組みなどにご興味を持っていただけた方は、HPをご覧いただくか、各種SNS等より高橋にもお気軽にご連絡いただければと思います。
これからも頑張っていきますので、皆さん引き続きよろしくお願いいたします!