【第三十四場…ドボロウくん】
《E氏→ユダヤ教的世界観を否定している? 資本主義社会の衰亡から次の展望が見えるのか、期待する。果たして博愛主義の社会構造で人間は生きやすいのか?》
ある日、カスベガスの街に、遠くからドボロウくんがやってきました。まだ子どもなのですが、それはそれは、うたぐり深いドロボーです。うたぐり深いので、タダでもらったアップルパイなんか食べません。きっと毒か眠り薬が入っているに違いないと思ったからです。
ドボロウくんが生まれた街はクレクレンといって、以前のカスベガスのような都会でした。人を信じるなんて頭の悪い人間のすることで、信じていいのはお金だけという考えが浸透しています。親は子どもを信じていません。ですから、子どもも親を信じていません。
おうちの中でもお金がないと何も手に入りません。赤ちゃんのときのおっぱいでさえ、ローンを組んでから飲ませてもらいます。証文には、赤ちゃんの手形が押されています。ですから、クレクレンに生まれた子どもたちは、小さい頃から、お金を稼ぐことに長けています。肩をトントンたたいて、
「はい50ペロンくれ」
トイレットペーパーを取り替えて、
「はい10ペロンくれ」
うまくお金を稼げない子どもは親から縁を切られ、家を追い出されてしまいます。また借金が返せないと、小学校に上がる頃から重労働が待っていて、それがつらい子どもたちは、自ら家出するのです。たいていの子どもは、このドボロウくんみたいにドロボーになるしかありませんでした。ですから、残った大人たちは、お金の亡者で、お金もうけの上手な人たちです。そして、街の富裕層になると、全員が黒服を着てサングラスをかけていました。
ドボロウくんはカスベガスに入ってビックリ。何かを盗もうとしても、
「どうぞどうぞ」
と、もらえますし、お金でさえタダで売っています。
「こんなマヌケばかりいる街があるとはなあ」
と安心したドボロウくんは急におなかが、すいてきました。そう言えばと、ポケットにアップルパイがあったことを思い出して、さっそく手をのばします。
「パクッ! うまっ!」
ドボロウくんはニッコリ。
「あのー、お金いりませんか~ 盗みたてのホヤホヤですよ~♪」