【第三十三場D…沈むムシカ漁村】
「おーい、村の衆! なんだか海の様子がおかしいぞ」
海の異変に気づいたムシカ村の長(おさ)が叫びます。遠くに海の壁のようなものが見えます。南極大陸が沈んで、海の高さが上がったようです。世界中の土地の低い所は全部、海に沈んでしまうでしょう。
「おい、オウリュウを呼んでこい」
ケンリュウのお父さんが呼ばれます。オウリュウは、自分の子どもたちといっしょに現れました。
「オウリュウよ。村人たちを全員、ンゴイ丸に乗せろ」
「船にですか? 高い所へ逃げたほうが、よくないですか?」
「この村のどこに高い所がある? 早く集めろ!」
「わかりやした。おい、ケンリュウ、お前も集めてこい! いいか。教えたら、呼びかけるように言うんだぞ」
「とうちゃん、わかった」
ケンリュウも弟のゼンリュウも、ずいぶん大きくなっています。
手分けして村人全員がンゴイ丸に乗ることができました。ンゴイ丸というのは、ありがとう星人のおじさんたちのお金や宝石で買った大きな船です。黄色くてエンジンもついています。ンゴイというのは、この村で”ありがとう”という意味です。船長は、オウリュウでした。村の長がオウリュウに命令します。
「オウリュウよ、船を沖に向かわせろ」
「沖ですか?」
「そうだ。そして、あのばかでかい壁に正面からブチ当てろ!」
「そんなことしたら、ひっくり返っちまいますぜ」
「わしを信じろ。この船は、あのかたから授かった船だぞ。ひっくり返ってたまるか」
初めオウリュウは、村の長が村人全員で死なせる気ではないのかと疑いました。しかし、もうこうなったら、他にどうすることもできません。ンゴイ丸は全速力で沖へと出て行きました。
大きな壁が、目の前にそびえ立ちます。村人たちは、家族を抱きしめながら、目をつぶりました。すると、村の長が、
「今だ! オウリュウよ、エンジンを切れ!」
「えっ?!」
「いいから切れ!」
もう、オウリュウは、やけくそです。
「クソー! もう知らねえ! ちくしょーう!」
オウリュウは、エンジンを切りました。
『バッシャーン!』
ものすごい衝撃です。村人たちは、前に転がっていきました。すぐに船首が持ち上がって、今度は後ろに転がっていきます。もう、上も下も分からなくなりました。船内は悲鳴や泣き声で騒然としています。船は立ち上がった状態です。
「まっすぐ沖に向けろ!」
村の長が叫びますが、もうオウリュウの耳には聞こえません。村の長は、指でオウリュウに指示します。オウリュウは懸命に舵(だ)輪(りん)を握って船を立て直そうとしますが、段々力が入らなくなってきました。
「んー、こんちくしょう!」
オウリュウは、家族のため、村人たちのために最後の力をふりしぼります。すると、少しずつ船首が下がってきました。さっきまで、力を入れていないと回りそうだった舵輪は、急に波の力を感じなくなり、軽くなっています。と、船体が横に傾き始めました。村人たちは転がって、横の壁にぶつかっています。すると、船首が下がり始めました。と思ったら、いきなり海へと落ちていきます。どこまでも落ちていく感じです。
「キャー!」
船内は、さっきよりも大きな悲鳴が響きます。スーッと船尾が着水しました。大きく揺れながら、ンゴイ丸は体勢を戻しました。何とか、転覆せずに済んだようです。
「よし、エンジンをかけろ!」
村の長が、叫びました。
「おーー!」
船内が歓喜の声で、いっぱいになりました。全員無事です。しかし、村の長は、ぼそっと、ひとりごとのように、つぶやきました。
「ありゃ、普通の津波じゃないな。村はもうあきらめるしかなさそうだ」
【第三十三場E…イマワノクニのこと】
モンゼン・ラミ太郎は、イマワノクニの王様の側近で、王様が迷われた時の相談役でした。そして、モンゼン・ラミ太郎は天の声を聴くことができ、彼の言う通りにしていれば、国は安泰だったのです。やがて、仕えていた先代の王様が亡くなり、新しい王様に代わりました。新しい王様は、何かと意見に反対するこの相談役を快く思いませんでした。そして、ついにモンゼン・ラミ太郎を反逆罪で牢に入れたのです。
ある夜、格子の窓から、二つの流れ星が見えました。すると、居ても立ってもいられなくなったモンゼン・ラミ太郎は、牢から逃げ出します。彼は流れ星の落ちた方角を目指しました。そして、山の上に鳥居を立て、社(やしろ)を造り、ひたすら待ったのです。
詩人さんとキリット大統領が社を訪ねてから、モンゼン・ラミ太郎は、徹底的にイマワノクニの言葉を二人に教えました。そして、二人が上手に言葉を使えるようになると、今度は不思議な術を伝授したのです。