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【第二十九場…カスベガスの春】


 春になって、わたしは地面に向かって言いました。
『もう、大丈夫だよ』
 根っこのほうがムズムズします。ついに弟や妹の種たちが、勇気を出して芽を出してくれたのです。
『あーあ』
 大きなあくびをしながら、あっちでもこっちでも緑の芽が顔を出します。わたし以外に十一本の芽が出ました。アンアッピは我が子が生まれたように喜んでくれています。もう少し大きくなったら、広い所に植えかえてくれるでしょう。一年遅れですから、まだ小さい苗だけれど、わたしのぽっかり空いていた心の一部を埋めてくれました。

 それから五年して、わたしは、花をひとつ咲かせることができました。ようやく、アンアッピに、『ありがとう』を伝えることが、できそうです。


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さいた春介 with ありがとう星人@ whatever happens
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