【第三十場…ドクダミシィの旅】
《E氏→このバケモノは優しい気持ちになりたくて「ありがとうエキス」を吸っているのではないだろうか。そうだとしたら、ある意味、せつないなぁ。教育の大切さはもっと強調してほしかったところ。口に出す言葉と心の中が正反対という状況設定にするとは驚いた。ふりテンダーはプリテンドから連想したか。言葉遊び巧み》
一方で、最初カスベガスに落ちたドクダミシィは、ころころ転がりながら南へと向かいながら、この星のありがとうエキスを吸いとっていきました。体中に生えているトゲが全部ストローのような口になって伸びますので、大勢が相手でも一瞬でありがとうエキスを吸いとれます。
ありがとうエキスにもいろいろな味があるようで、ドクダミシィの吸っているときの表情が違っていました。どちらかと言うと都会よりも田舎のほうが、おいしそうな顔をします。一番おいしそうだった場所のひとつが、アマゾンの裸族の村でした。ドクダミシィはあまりのおいしさに、涙を流しながら吸いとっていました。それは、ありがとう星のとき以来だったそうです。その反対に、とてもまずそうな顔をしていたのが、フリテンダーという都会でした。
フリテンダーでは、皆が笑顔で、とても親切で言葉遣いもていねいです。見かけは、生まれ変わったカスベガスと変わりません。徹底的に学校で教育されるので、紳士と淑女の街という感じがします。もちろん、何かしてもらうと誰もが、
「どうも、ありがとうございます」
と、ていねいにお礼を言います。たとえば郵便局まで道を尋ねると、
「その信号を右に行って、25歩ほど行くと花屋さんがありますので、右に曲がってください。そうしたらT字路にぶつかります。そこを左に曲がると40歩ほど先にポストが見えるはずです。何なら一緒に行きましょうか?」
「ご親切にありがとう。いいんですか?」
「いいですとも、ちょうどわたしもそちらに用がありましたので」
などと、とても親切な感じですが、別れたとたんに、キッとした顔になって、
『フザケンナ! あたしに道案内なんかさせて! 二度と来るな田舎者!』
この街の人たちは、言うことと心の中が正反対なのでした。笑顔をたやさず、言葉遣いもやさしくて、ていねいですけど、おなかのなかはマックロだったのです。
「ドクダミシィ~」
わずかばかりのありがとうエキスをまずそうに吸って、ドクダミシィはフリテンダーを立ち去りました。ドクダミシィが来る前と、今現在と、フリテンダーはあまり変わりありません。