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政治とつながる「自分ごとの政治学」
こんにちは、ナカムラです。今回は「自分ごとの政治学」という書籍を紹介したいと思います。
2024年は日本の政治がいろいろな意味で盛り上がった年でしたね。都知事選、自民党総裁選、衆院議員選と注目の選挙戦が立て続き、特にSNSを通じた「政治のエンタメ化」によって政治関心の裾野が一気に拡がったように思います。
私はもともと政治関心が薄い人間でしたが、こうしたエンタメ的な見方や、生活に肉薄したトピックの盛り上がりに触れて、ぐんぐん関心を強めていっている一人です。
そんなときにふと湧いてきた「そもそも政治って何なのか?」という問いについて、とても平易かつ腹落ちのする解を示してくれたのが、今回ご紹介する書籍になります。
1)政治って何?
「政治とは何か」と聞かれても、ピンと来る答えが浮かびにくいものです。本書では、とても合理的な定義がなされています。
政治とは、「簡単に分かりあえない多様な他者とともに、何とか社会を続けていく方法の模索」である。
分かりあえない他者と対話し、互いの意見を認め合いながら合意形成をしていく。あるいは、共存するためのルールを定めていく。それによって、一人ひとりの幸福を追求するための土台を作っていく作業を「政治」と呼ぶ。
人間、どうやっても一人では生きていけないもので、他者があって初めて生活が成り立ちます。そして、その他者というのは実に多様で、複雑な関係性を伴うこともしばしばあります。そんな他人同士が平和に共存していくためのルールを築くのが「政治」である、という定義です。
「国」という単位で捉えると壮大でむずかしく感じますが、家庭や会社、地域といった身近なコミュニティにおけるルール作りと、本質的には同じであると考えると、少しとっつきやすくなります。
昔、学校で丸暗記させられた「三権分立」という概念における、立法(法律を作る)と行政(法律に基づく活動)とは、このルール作りとルールに基づく活動のことを指していたわけですね。
2)政治の考え方
よく政治思想について「右」とか「左」と言ったりします。その起源を遡るとフランス革命に行き着くそうです。革命後の国民会議で、議長から見て左手に座っていたのが急進的な革命派、右手に座っていたのが守旧派だったことから、左派・右派という括りが誕生しました。
●左派の基本思想:
人間の理性によって平等な理想社会を作る。進歩主義。未来志向。
●右派の基本思想:
人間の理性を超えた存在(過去の叡智)に依拠することによって平等な理想社会を作る。反進歩主義。回帰志向。
●左派の区分:
①国家によって理想社会を実現する…共産主義、社会民主主義
②自立した個人の対等な関係性によって理想社会を実現する…無政府主義
●右派の区分
①右翼(原理主義)
②保守(保守するための改革、永遠の微調整)
しかし、本書では「この概念が失効しつつある」と述べられています。主な理由として「左派の回帰志向化」が挙げられています。例えば有機栽培のような昔ながらの農法に立脚する手法が、むしろ新しく、評価されるべきものだ、と考えられ、左派の支持を受けています。このように、進歩主義のように見えて回帰志向という、その境が曖昧な状態になりつつあるということです。
そこで、政治の考え方の新たな対立軸が紹介されています。
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縦軸は「リスクとお金」について、横軸は「価値判断」についてそれぞれ規定されています。
【縦軸】
・リスクの社会化(大きな政府)…国民がリスクに対して不安なく生きられるように、政府が大きく支出をする≒税金が高く行政サービスの質が高い。
・リスクの個人化(小さな政府)…国民が自らリスクに対処する自己責任型の社会≒税金が安く行政サービスの質が低い。
【横軸】
・リベラル…自由主義。信仰や思想、価値観に干渉せず自由を認める社会。
・パターナル…国家が個人の価値観に対して介入・干渉を強める社会。
この整理に基づくと、今の日本政府は右下、小さな政府かつパターナルに位置づけられます。
縦軸を推し量る指標として、①租税負担率、②GDPに占める国家歳出、③公務員数という3つの指標があるそうですが、日本はすべての指標がOECD(いわゆる先進国)平均以下だそうです。
横軸は、例えば選択的夫婦別姓の問題、同性婚の問題などをどう扱っているかでリベラルかパターナルかを見極めることができます。
3)最後に
政治の学習というと、「衆議院議員の任期は4年、参議院議員は6年で〜」とか「憲法改正の発議には各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要〜」とか、一気に眠気が襲ってくるような暗記学習になりがちですが、本書はもっと柔らかく、かつ芯の部分について説明してくれるのでとても助かります。
最後に、著者である中島岳志教授の見解を引用して終わりたいと思います。とても興味深い視点で、ますます政治への感度が高まりました。
(民主(多数決で決める)と立憲(憲法に則って決める)の対立構造が存在し、近年は民主>立憲の構図が生まれているという問題について)
・本当に重要なのは「立憲民主主義」である。
・立憲は主語が「死者」。民主は主語が「生者」。
・憲法は、死者たちが積み重ねた失敗の末に経験値によって構成した「(合理的だとしても)やってはいけないこと」のルール。
・民主は、生者たちが過半数によって物事を決めるルール。
・死者を無視し、生者だけで物事を決めるのは、生者の驕り。
・分かりやすく言えば、過半数によって戦争がGOとなっても、過去の学びから立ち止まるべきだ、という話。
以上、政治とつながる「自分ごとの政治学」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
ナカムラ
(参考)
政治関心を持つきっかけになった映画: