企業文化を創る「WHO YOU ARE」
こんにちは、ナカムラです。今回は「WHO YOU ARE」という書籍を紹介したいと思います。
事業家・VCであり、「HARD THINGS」の著者でもあるベン・ホロウィッツが記した「企業文化」に関する書籍です。
原題は「What You Do Is Who You Are」。邦題ではサブタイトルのような扱いになっている「行動(What You Do)」の部分が、実は最も重要なメッセージになっていて、
企業文化とは信条ではなく、行動の積み重ねである。
という主旨が込められています。
本書は、歴史上の文化醸成に関する4つの事例を取り上げ、そこから強固な文化を作る上でのテクニックを抽出するという形式を取っています。
今回はその中でも、ハイチ革命を率いた革命家トゥーサン・ルーベルチュールの事例を中心に紹介したいと思います。
1)企業文化とは
はじめに、本書における企業文化の定義に触れておきたいと思います。
冒頭ですでに1つの切り口を紹介しましたが、本書を通して一貫しているのは、企業文化とはただ単に信条を掲げたものではなく、社員の行動の積み重ねによって形作られるものであるとされています。
文化をデザインすることは、組織の行動をプログラムすることだ。
ということです。
故に、仮に行動規範が定められていたとしても、それに沿わない行動をした者を放置していると、それが新しい基準(企業文化)になってしまいます。だからこそ、企業文化は、何が正しく、何が間違っているのかを明確にし、社員の行動を規定できるものでなければいけないのです。
本書では、この企業文化の特性を以下のように表現しています。
トップがいないところで人々がどんな判断をするかこそが、企業文化というものだ。
まさしく、「経営者が掲げている標語が企業文化なのではなく、誰も見ていないところで社員がどう行動するかが企業文化なのである(What You Do Is Who You Are)」ということを言い表しています。
2)トゥーサン・ルーベルチュールのテクニック
トゥーサン・ルーベルチュールは、奴隷として生まれながら、ハイチ革命の指導者として奴隷たちをまとめ上げ、独立へと導いた英雄です。
(Wikipediaより抜粋)
こう書くとあまりにもあっさりしてしまうのですが、重要なのは、彼はヨーロッパ最強と謳われた軍隊に対して、奴隷で組成された戦闘集団によって勝利を果たし、しかもその奴隷たちを慈悲深い兵士として育て上げたということです。
18世紀当時のフランスにおける奴隷制度はあまりにも残虐で、奴隷のほとんどは徹底的に心を挫かれ、反逆を謀る意志すらも芽生えないほどの絶望と虚無の中にいたとされています。また、教育機会もなく、読み書きができない人が多かったとも言われています。
そんな状況下で、人々を焚き付け戦いに駆り立てるだけでなく、略奪や無益な殺生をしないよう統率したというのは、まさに偉業と言えるでしょう。
そんなルーベルチュールの偉業を可能にした、奴隷文化変革の7つのテクニックを紹介したいと思います。
1. うまくいっていることを続ける
土台のないところに新しい文化を作り出してもうまくはいかない。人はこれまでと違う文化規範を簡単には受け入れない。だからこそ、現時点で受けれ入れられている文化的強みを活かして土台を作ることが必要である。
2. ショッキングなルールをつくる
組織に規範を浸透させるには、記憶に残るルールが有効である。それは、誰もが「なぜ?」と聞きたくなるような内容で、文化に直接影響するルールであり、ほぼ毎日使うものであると望ましい。
3. 服装を整える
服装を規定することで「自分たちは何者か?」「何を成し遂げたいのか?」を常に胸に刻み込んでおくことに繋がる。エリート戦闘部隊としての意識を植え付けるため、ルーベルチュールは洗練された軍服を支給した。
4. 外部からリーダーシップを取り入れる
優れた文化を作るということは、状況に合わせて自分たちを変えるということである。望ましい文化を作り上げた他のリーダーを迎え入れることで、新たな状況に適応する文化へと作り変えることができる。
5. 何が最優先かを行動で示す
どれだけ言葉を尽くしたとしても、1つの明確な行動に勝る影響力はない。特に、リーダーの意思決定が一般的な直感に反していればいるほど、文化への影響は大きくなる。
6. 言行を一致させる
リーダーが率先して行動しない限り、文化が花開くことはない。だからこそ、自分が信じ貫き通せる価値観を行動規範にするべきである。リーダーが守れない規範は存在価値がない。
7. 倫理観をはっきりと打ち出す
誠実さ、正直さ、善良さは文化への長期投資である。誠実であることの目標は四半期業績を達成することでも、ライバルに勝つことでもない。働きやすい環境を築き、長期的に取引したいと思ってもらえる企業になることだ。
これは、200年以上前の奴隷解放運動におけるテクニックですが、現代の企業文化においても有効であることがいくつもの事例から読み取れます。
例えば、「ショッキングなルールを作る」で有名なのは、やはりAmazonの「会議でのパワーポイント禁止」でしょう。これを初めて聞かされた人は「なぜ?」と聞かずにはいれないはずです。
このルール自体は「議論に際して誰もが読んですぐに理解できる文章を準備すること」を狙っていますが、一方で「深く潜れ」という抽象的な理念を体現させる機能も果たしています。「あらゆる業務に精通し、細かい点まで気を配るべし」という理念が、このルールによって行動化され、文化として定着しているわけです。
他にも、「何が最優先かを行動で示す」の例ではNETFLIXが挙げられています。DVDの郵送サービスから動画配信サービスへ舵を切っていくタイミングで、代表のリード・ヘイスティングスはDVD事業の幹部を経営会議から外すという行動を取りました。
「あれは、この会社を築く上で、一番辛い瞬間のひとつだった。彼らのことが大好きだったし、彼らと共にここまで成長してきたし、今大切なことのすべてを彼らが担当してる。だけど、動画配信の議論にはまったく貢献していなかったんだ。」
動画配信サービスこそが最優先である、ということを社内に示すための苦渋の選択だったんですね…。これは、前回紹介した「良い戦略、悪い戦略」でも近しい話がありました。
逆に失敗事例もあります。「倫理観をはっきりと打ち出す」の失敗事例としては、Uberが紹介されています。Uberでは様々な文化規定を設けていましたが、一部の標語の背後に共通したマインドセットによって、ほかの何よりもひとつの価値観が優先されていました。それが「負けられない」という価値観で、これが肥大化し「犯罪スレスレの行為をしてでも負けないことが最優先」という歪んだ文化を生んでしまいました。
このように、ルーベルチュールのテクニックは現代の企業文化においても非常に有益な示唆をもたらしてくれるので、上記の企業例と併せて参考にしたいと思います。
3)その他のトピックス
個人的に気になったトピックスを、(文脈や順序は関係なく)いくつか取り上げておきます。
●組織文化はどこへでも波及する
組織内部での振る舞いが、そのまま外部への振る舞いとして表出するという話。外面だけ良くする、というのは機能しない。
●掟を盾に取る
ルールを歪曲して、自分を守る”盾”にする者が現れるという話。例えば、「共感」という理念を逆手に取って「そんなフィードバックをするなんて、共感が欠けている!」という批判をするようなケース。対応方法は、どんな行動が文化に沿い、どんな行動は沿わないかを明確にするより他ない。
●リーダーシップの大原則
企業文化を体現することで、すべての人間から好かれることはなくなる(=八方美人では無くなる)。リーダーとはそういうものだと理解すべし。
●「戦略か文化か」ではなく「戦略と文化の一体化」
「文化を維持するために戦略に沿わない意思決定をする」「戦略を遂行するために文化を捻じ曲げる」このどちらもナンセンス。戦略の実現に役立つ文化を作るべし。
●マイノリティを上層部に入れる意味
多様性を目指して、社員の人数比を追いかけることには意味がない。それは結局人の内面を見ず、外側で判断することになるから。しかし上層部にマイノリティを引き入れることには意味がある。人は自分と異なる人種や性別の相手に無意識のバイアスが働いてしまうが、それを回避できるからである。
●文化の破壊者にどう対応するか
・異端者(経営批判で文化を壊す)
・信頼のなさ(信頼を欠く行動で文化を壊す)
・根性曲がり(攻撃的で怒鳴り散らかす)
・怒りの代弁者(完璧主義で独善的)
この4種類の文化の破壊者の扱いには要注意。怒りの代弁者は起用次第で高いパフォーマンスを発揮する。その際に気をつけるべきことは3つ。
1. 行いを注意するのではなく、その行いが生み出す逆効果を注意する。
2. 変えるのは不可能だと覚悟する。
3. 得意なことに集中してコーチングする。
●「反対し、コミットする」
もし管理職であれば、どの階層であれ一度決定されたことは必ず尊重する責任がある。会議で反対するのはいいが、最終決定した後はそれを尊重するだけでなく、その決定の理由について説得力のある説明ができなければならない。
4)最後に
本書の最後の方に、「文化を決める=採用基準を決める」という話が出てくるのですが、これもまた非常に納得感がありました。
どういう集団でありたいのか?はつまり、どんな人と働きたいのか?ということでもあり、採用基準は経営マターというのが良く理解できました。
とてもボリューミーですが、読みやすく学びの多い本なので、是非読んでみて下さい。
以上、企業文化を創る「WHO YOU ARE」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
ナカムラ