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普遍の戦略論「良い戦略、悪い戦略」

こんにちは、ナカムラです。今回は「良い戦略、悪い戦略」という書籍を紹介したいと思います。

「戦略家のための戦略家」と呼ばれる戦略の大家、リチャード・P・ルメルトの著書で、戦略本の代名詞といっても過言ではない名著。

本書は、いわゆるフレームワークやチャートを紹介するような類のものではなく、本質的かつ普遍的な戦略論を提示しており、何年にも渡って読み続けられています。

3つのパートから構成されていますが、今回は第1部に焦点を当てて紹介したいと思います。

第1部…良い戦略、悪い戦略の定義・構造
第2部…良い戦略における9つの強みの源泉
第3部…ストラテジストの思考法

1)「戦略」とは

良し悪しを語る前に、そもそも「戦略」って何を指すの?というところから入りたいと思います。

よく戦略と戦術の違いを例えて「戦略は進む方角を決めること、戦術はそこにどのように向かうのかを決めること」と言ったりします。分かりやすいようで抽象度が高いので、いざ戦略を練ろうとするとピンと来なかったりします。

本書での定義を見ていくと、色々な表現がなされています。

「打ち手の効果が一気に高まるポイントをみきわめ、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中することである」

「何か野心を抱いたとき、何か新しい変化に直面したときに、リーダーシップや決意をいつどこでどのように発揮すべきか、その道筋を定めることである」

「組織が前に進むにはどうしたらよいかを示すもの」

「戦略とは仮説である」

これらをまとめると、

戦略とは、有事において組織を前進させるための具体的な指針であり、持てる資産のベストな使い方を選択と集中によって導く仮説である、と言えそうです。

また、本書では「戦略ではないもの」も提示しています。それは、目標、ビジョン、スローガンと言ったものです。これらはそれぞれ本来の役割があり、必要ではあるが戦略とは異なると明言されています。

以上を踏まえると、

・有事において必要
・具体性がある
・選択と集中をする
・あくまでも仮説
・目標やビジョンではない

あたりが特徴的な要素になりそうです。

2)良い戦略と悪い戦略

さて、そんな戦略にも良い・悪いがあるわけで、どう見極めたらよいのかが気になるところです。

まず、良い戦略。良い戦略についても様々な表現が登場します。

「とるべき行動の指針がすでに含まれている」

「細かい実行手順は示されていないが、やるべきことが明確」

「狙いを定めて一貫性のある行動を組織し、すでにある強みを活かすだけでなく新たな強みを生み出す」

「何をやるかだけでなく、なぜやるのか/どうやるかを示すもの」

先ほどの戦略の定義とも重複する要素がありますね。ただ、まだなんとなく輪郭がぼやけている感じがします。

そこで登場するのが、良い戦略の基本構造です。

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これが良い戦略の基本構造です。この基本構造を「カーネル(核)」と呼び、診断、基本方針、行動の3つの要素から構成されます。

それぞれの要素は以下のように定義されています。

①診断…状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。

②基本方針…診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。

③行動…ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

一見すると、当たり前じゃん…と思う内容ですよね。ただ、本書に登場する数多くの事例からも分かる通り、この当たり前を徹底できている企業はほんの一握りなのです。

自分も身に覚えがあるのですが、目の前の仕事に集中しすぎて視野が狭まり、懸命に取り組んでいるはずが大事なことを置き去りにしていて、そのことに気づいていない。そんなとき、OB訪問なんかで学生から受けた純粋な質問(ex. 御社の強みは何ですか?)に、ハッとさせられる…。

これは往々にして起きうることで、経営者も例外ではないのです。

改めてですが、上記のカーネル(核)こそがリチャード・P・ルメルトの考える戦略の屋台骨で、欠かすことのできない基本構造です。

「カーネルは壮大なビジョンとは無縁で、目標や中間目標や年間目標といったものとも関係がなく、期限すらない。こうしたものは、脇役に過ぎない。カーネルは戦略の考え方を表し、戦略の策定を促し、戦略を表現し、行動へと駆り立てる。」

この文章からも、いかにカーネルを重要視しているかが伝わってきます。せっかくなので構成要素について、少し具体的に見ていきたいと思います。

①診断
医者に例えると、悪い箇所を特定し、病名を明らかにすることが診断に当たります。断片的な兆候や症状からパターンを割り出し、どこに注意を払い、逆にどれはあまり気にしなくてよいのかを選別します。

もし仮に、ろくに検査もせずに患者の話だけを聞いて「ん~これは風邪だね」なんて言われたら「大丈夫か…?」と思いますよね。

これは企業におけるあるあるなダメ診断の例で、

・問題を洗い出していない段階で取り組む課題を決めてしまう
・事実ではなく経験に基づく推測から診断してしまう

というケースが指摘されています。人は最初に心に浮かんだ問題に固執してしまう傾向があるので、意識的に他の問題がないかを探る必要があるということですね。

②基本方針
基本方針とは、診断によって導かれた課題に対して、どのようにアプローチするかの方向性を示すものです。経過観察なのか投薬治療なのか、或いは手術なのかと、対処方針を定める行為に当たります。

ただし、あくまでも基本方針なので、具体的に何をすべきというところまで提示するものではありません。大枠として何をするのかの共通認識が取れるもの、というニュアンスです。

本書によると、現代(発売当時は2011年)の企業戦略では、基本方針がない状態でいきなりこまかい戦術を立ててしまい、全体の統率がとれない状態に陥っているケースも多いようです。

こういう場合、大体は「やった方がいいことの寄せ集め」になります。結果として、方針がないのでシナジーが生まれず、また選択と集中が無視されるのでリソースが分散してしまいます。

本来の良い基本方針は、埋もれていた強みを引き出す、または新たな優位性の源泉を開発する、その決定的な一点に集中するものだそうです。(分かっちゃいるけど…というのが本音ですよね。基本方針を定める上でのヒントは、第2部で語られますので是非読んでみてください)

③行動
最後は行動です。行動につながらなければ戦略の意味はなく、ただの絵餅になってしまうのでとても重要な要素です。基本方針に則り、やるべきこと、捨てるべきことを定めて具体的な行動を決めるフェーズです。

本書にも「最も優先すべきことを決めるのは、戦略を立てる中でも最も困難な作業である。」とあるように、心理的に最も負荷がかかるのが行動なのだそうです。

とあるグローバル企業の事例を引用します。

(カントリー・マネージャー達は国別に独自のマーケティングを進めたいが、CEOは横断的なブランドを作るべきだと考えている。しかし、断行すればマネージャー達は会社を離れるだろうという迷いがある――)「彼の抱えていた問題、すなわち汎欧州ブランドを育てたいが、誰にも出て行ってほしくない、という虫の良い願いを叶えてくれる魔法などない。戦略が単なる願望にとどまっている限りにおいて、組織内の価値観の対立は容認される。だが、行動しなければならないときには、苦渋の選択をしなければならない。そして戦略で最も重要なのは、そこである。

グサッと来ますね…。頭では分かっていても、心のハードルがなかなか高い、この葛藤を乗り越えるのがリーダーの仕事とも言えるかも知れません。

良い戦略のカーネルから導かれる行動は、とにかく一貫性があるということが最重要の要件で、矛盾や対立がなく、リソース配分から実際の行動までがかみ合っている状態を指します。

時代的には、中央集権型から分散型へ、トップダウンからボトムアップへ、という流れもありますが、有事においてはそうもいかないわけです。平時の通常業務においてはそれぞれの部署に任せ、ここぞという時に行動を一点集中させるという意味合いですね。

組織運営には、オーケストレーションのような考え方もありますので、一貫性を保つ限りにおいて最適な形を選択できると良いのではないかと思います。

ここまで良い戦略について触れてきましたが、最後に悪い戦略の特徴を紹介したいと思います。

<悪い戦略の4つの特徴>
①空疎である
②重大な問題に取り組まない
③目標を戦略と取り違えている
④まちがった戦略目標を掲げている

それぞれをもう少し具体化すると、こうなります。

<悪い戦略の4つの特徴>
①空疎である
戦略構想を語っているように見えるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える。

②重大な問題に取り組まない
見ないふりをするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない。

③目標を戦略と取り違えている
悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている。

④まちがった戦略目標を掲げている
戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものである。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不可能だったりすれば、まちがった目標と言わざるを得ない。

これは脳裏に焼き付けておきましょう。戦略策定において、自分たちが悪い戦略に陥っていないかのチェックリストにもなりますね。

3)最後に

今回は第1部に絞って紹介してみましたが、まずは良い戦略、悪い戦略がどんな戦略を指すのか、ご理解いただけたかと思います。

ただ、今回触れた内容はあくまでも全体の30%の情報なので、残りの70%(第2部、第3部)でより具体的な方法論や企業事例が豊富に紹介されます。そしてそれらの内容は、自社や自領域、自部署の戦略と照らし合わせながらじっくり読むことで意味を成すと思うので、是非手にとってみていただけたらと思います。

以上、普遍の戦略論「良い戦略、悪い戦略」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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