東京
関西の地で、コピーライターになってから3年ぐらい経つ。
それは、東京から情けない逃げ方をして、4年ぐらい経つってこと。
ぼくにとっての東京。それは、当たり前だけどすごく遠い場所だ。
夜行バスだと10時間ぐらいかかる。新幹線に乗っても2時間半はかかる。
2時間半もあれば、サザエさんとちびまる子ちゃんとクレヨンしんちゃんとドラえもんとおじゃる丸と忍たま乱太郎がぜんぶ観れる。(なにをもって、ぜんぶなのかは分からないけど)
物理的な話だけじゃない。心の距離も遠い。東京は華やかな場所だ。広告の仕事をしていても、大きなクライアントの仕事はほとんどが東京で作られる。観たいお笑いライブも東京だし、演劇も展示会も東京でやっている。残念だけど、メジャーなものはぜんぶ東京に集まっていく。それをぼくは、遠いところから眺めている。
そんな感じで、ずっといた。東京から逃げ帰ってきてからもしばらくそうだった。
ただ、ある時を機会に、ぼくにとっての東京は変わり始める。
それは、コピーライターになって、とある賞を頂いた時のことだった。案内状にはこう書かれていた。
(交通費はこちらで負担いたします。)
新大阪から東京までの往復2万8千円ほどのお金を負担してまで、ぼくを表彰してくれるというのだ。
サザエさんとちびまる子ちゃんとクレヨンしんちゃんとドラえもんとおじゃる丸と忍たま乱太郎がぜんぶ観れる距離にいるぼくを、東京に呼んで表彰してくれるというのだ。
よく見れば、10万円の賞金までついてくると表記されている。
しかも、案内状にはこう書かれていた。
(特別来賓には、ピース又吉直樹様を予定しております。)
東京に呼んでもらって、しかも、自分が憧れている人もやってくる。こんなことがあって良いものかと驚きを隠せなかった。
高校生・大学生・就活生・社会人。一貫してぼくにとっての東京は、自分を踏んでくる存在だった。
自腹で2万8千円ほどのお金を払って向かい、それでいてさらにお金を払って憧れの人に会う場所。夜行バスでヘトヘトになりながら向かい、面接でけちょんけちょんにされる場所。東京でしか受けられないコピーライター養成講座に16万も費やして、それでも書いたものが評価されない場所。引っ越し料金や新生活のお金をすべて捧げるも、うまくいかずに精神的に食らってしまった場所。
つねにぼくは、東京に踏まれていた。
だけど、その日ぼくは、東京に吐き出させた。
カイジがパチンコ台の前に座って、祈りを込めるように1玉4000円の銀の塊を投入し、うめき声をあげさせたように。
往復の交通費2万8千円と、賞金10万円と、又吉さんに会う権利を吐き出させた。
それも、自分の書いた言葉、自分の企画した表現でだ。
あれ以来、ぼくの中で東京は変わった。東京に自分を呼ばせようと思うようになった。
それは、交通費を出してもらうとか、賞金がもらえるとか、憧れの人に会える権利をもらうとかそういう話じゃない。(それも、もちろんほしいけど)
自分を勝手に、踏まれる側にしなくたっていいんだと思ったってことだ。
「ちょっとお話をしてみたい」でもいいし、「いいから来てよ!」でもいいし、「
来なくてもいいけど一緒に仕事しましょ」でもいいし、そういう対等な場所にいられるように生きていたいなぁと。
というわけで、頭を抱えることばかりなのだが、なんとか諦めずに食らいついている。
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