マイパーフェクトフルーツ
果物は食後、食間、食前いつだって僕たちを幸せにしてくれる。動物たちも幸せにしている。甘味、酸味、食べやすさ、最高の食べ物のジャンルのひとつだ。
好きな果物ランキングを決めろと言われたら、頭を抱えてしまう。梨、桃、苺、葡萄、マスカット、みかん…パッと浮かぶだけで、この顔ぶれである。もういつぞやのNBAドリームチーム状態だ。おっとマンゴーだっている。いや林檎もいる。好みが分かれるところだ。ただ、僕の中でいちばんの推し果物は明確にある。みかんだ。
推し過ぎて、4泊5日の和歌山への仕事に東京で買ったみかんを持ち込んでしまったぐらいだ。しかも有田みかんだったから、他の演者から失笑された。僕はみかんを持ちながら、マンガのように顔に縦線を入れて苦笑いした。いとも簡単に僕を盲目にさせるみかんは、もはや恋と同じといえる。
僕の推しであるみかんは、一人暮らしの味方でもある。食べきれる大きさがよい。
梨や桃も最高だが、足が早いのが難点だ。少しだけ食べたい時もある。残りをラップして冷蔵庫に入れればいいのだが、気がつくと変色したりして、冷蔵庫の中から「早く食べてよー」という視線が刺さるのが少し重たい存在だ。その点、推しは常温で保存でき、足も早くないので「旦那の好きな時に食べてください」という余裕が出ていて僕としてもラクな存在だ。
味も種類で違いがあるけど、万人受けする味でうまい。手で剥けるのもイイ。
他の多くの果物は、まな板や包丁を出して洗うことになる。それが面倒なことがある。それぐらいやれよという意見もあるだろうけど、僕はそーとー怠け者なので、見逃してほしい。そうなると、美味しいけど、他の果物に手が伸びにくくなる。
いま思えば、母ちゃんが食後に「梨たべるぅーー!?」とリビングに声をかけて、食後ダラダラとテレビを見ていた男衆に果物を提供するという行為は慈愛に溢れている。もはや菩薩に近い存在といえる。改めて台所の母への尊敬、母への敬意である。
推しは、すぐに変色しないところもイイ。
バナナは季節にもよるが、油断するとすぐ変色する。有難い話で、前座の時にたまーに、バナナを一房もらったりした。だけど、一人暮らしでバナナ一房を消費するには、時間がかかる。気がつくとアンディウォーホールの絵みたいになり、部屋で不穏な空気を醸し出していた。その点、推しは「どうも!旦那!まだまだ元気ですよ」と言わんばかりにこたつの上で輝いている。
推しのみかんは、ビタミンも豊富である。見た目のキュートさは桃に劣るが、さりげないかわいらしさがある。たまに、メインの実の部分に小さな実がついてたりして、それを発見した時の癒し効果も抜群だ。
僕にとって多くの魅力がある果物、みかん。だがまもなく推してる僕としては、悲しい時期がやってくる。春先になると旬に終わりを告げ、近所のスーパー入り口付近で山積みされる。袋詰め10個で〇〇円と安売りされるのだ。
セールは多くの人が買うからいいことなのだが、山積みの推しの中には傷がついてたり、見た目が良くなかったり、時には傷んだものも店頭に並ぶ。やはり見た目は大切で、見た目がよくないものは袋詰めに入れてもらえず、不穏な空気を醸し出して店頭で居残りすることになる。その姿を見かけるとなんとも切ない気分になる。いつまでも袋に入れてもらえずなんとも悲しげな表情をしているように見えてしまう。いたたまれない。
僕はこの状態のみかんを「みなしごみかん」と命名している。よし!命名したからには、僕ができるだけ引き取るよ。という謎の使命感に背中を押され、僕は「みなしごみかん」を袋詰めにパンパンに入れる。
レジのおばちゃんに「え?もっといいのあるわよ」と言われたこともあるが、まさか「みなしごみかん」はできるだけ僕が引き取りたいんです。とは言えないので、「逆にこっちが好きなんです」というよくわからない返しをしたりしている。
袋詰めパンパンの「みなしごみかん」を持ち帰った結果、推しがこたつの上で不穏な空気を醸し出す。もうすぐそんな時期か。いま、そんなことを考えながらこたつに暖まりながら、みかんをむいている。