新作"Soda Water Pool" 沖野俊太郎自身によるTrack By Track(前編)
ニューアルバム「Soda Water Pool」が明日12月17日にリリースされます。
そこで沖野本人にしか説明のできないような、少し変わった独特の目線で
このアルバムの全曲解説をしてみようと思います。
Track 1 : Beautiful(ビューティフル)
親になって生活環境がガラリと変わり、息子の保育園へ送り迎えもしていましたし、子どもたちやその親御さんたちと接する機会も多かったので自然に社交性が身についたといいますか 笑 挨拶はきちんとしなきゃ とかね、ほんの数歩しかない横断歩道でもちゃんと青になってから渡るとか。アタリマエのことなのですが、例えばそういった今まであまり意識していなかったことが大事に思えてくるもので。
そうなってくると「美しい」と感じることも自然に変わってきました。
先述しましたとおり、保育園には送り迎えで通っていたのでほぼ毎日色々なお母さんたちを目にします。ミュージシャンとはいえ沖野家はセレブでもなんでもなく、いわゆる一般的な庶民が通う保育園なのでお母さん方が必死で働きながら、なりふり構わず子どもたちの送迎をしているところを見て色々なことを感じていました。例えば大雨の中、お母さん方がかっぱを着て自転車の前後に兄弟を乗せて爆走している場面も何度も見ました。
そしてやがてそういった姿が「あぁ、タフでかっこいいなぁ、美しいなぁ」と心から感じるようになってきたんですね。
愛情とか強さをそこにダイレクトに感じるからなんでしょうね。以前の自分だったら多分「あーなんか大変そうだなー」ぐらいで終わってたと思います。
この"Beautiful"という曲が具体的にそういうことを歌っているわけではないのですが
「かがやきさえ 美しく消えてしまえ」
というフレーズはこういった経験から生まれてきたように思います。わかりやすく言えばステージなど晴れやかな舞台で輝くことも美しいですが、人間が普通の生活を必死に生きている姿はやはり美しいと思います。
伝わるかな?
では、なぜこの曲をアルバムのオープナーに持ってきたか?
それは自分の音楽に対する姿勢を正直に歌ったものだからです。
ワタシの音楽人生、約30年を振り返ると結局
「こころのままに ずっとゆめ見てただけ ずっとゆめ見たいだけ」
どうやら自分は夢を実現したいわけではないようで、ただゆめを見続けていられればそれで満足なようです。もちろん夢を見続けることは容易いことでは有りませんが、、、、。
それをこのアルバムの1曲めではっきりと宣言している そんな曲ですね。
音楽的には間奏でうっすらとフィードバックノイズが左右にパンしていくのですが、つまりフィードバック・ソロ 笑 というなかなか無いアレンジがポイントの一つです。
Track 2 : Discoverer(ディスカバラー)
この曲の印象的なベースラインのリフはもうかれこれ20年以上前には思いついていて、極初期はF-A-Rに収録のThe Lightのリフでもあったものです。
これまで何度かカタチにしようとトライしたのですが、この2021年にまた再トライしまして、ついに”Discoverer”として世に出すことができた曲。
まぁいわゆるマッドチェスター的というかブリットなファンクというか。
ギターリフはBlurのThere's no other wayのリフの奏法を取り入れています。
わかるかな?
この曲”Discoverer”の歌詞に出てくる「15 minutes of fame」はアンディ・ウォーホルの名言「In the future, everyone will be world-famous for 15 minutes - 未来には、誰でも15分間は世界的な有名人になれるだろう」
から拝借したもの。
(「すぐに終わってしまう名声」や「有名だったけれどすぐに消えてしまった人」といった意味がある。)
今の時代、snsやらYouTubeであっという間に名声が手入ったりするけど、なんか実態がないと言うか、バーチャルだよね。それを少し揶揄してる。
Track 3 : Boy Again (ボーイ・アゲイン)
一時期断酒をしていたときに感じた「なんてクリーンなんだ、まるで少年だった頃に戻ったようだ」という気持ちを素直に歌ったもの。笑
そしてこんな世の中になって、当たり前の平凡な生活こそが眩しいし、美しい とみんな気がついたよね?
それだけの歌なんだけどね。
楽曲的には間奏で1音上がるんだけど間奏終わりでまた1音下がるという自分的には面白い発見ができた曲。普通は1音上がったら最後までそのままが定石であります。
Track 4 : Black Sea Devil(ブラック・シー・デビル)
実はこの曲こそ最古の曲だったりします。もうほんとにかれこれ30年前ぐらい、ヴィナペ初期の頃にボツにしていた曲。デモを発見して「あ、これ当時もろにAutomaticの頃のJesus and mary chainを意識してた曲だ」ということを思い出し、再アレンジを施し現代に蘇らせたわけです。
なぜBlack Sea Devil(深海魚)なのか?念のため説明しておきますが子育てしていると男の子というのは恐竜やら深海魚やらにハマる時期がありまして、深海魚も恐竜も図鑑とか見てるとやはり興味深くて大人からしても面白いんですよね。単にその影響が出たんだと思います。
アレンジ的にはドラムのビートにMT-750という古いカシオのキーボードに内蔵されているビートをサンプリングして再構築しているところが最重要ポイント。ちなみにこのシンセはVPの”Space Driver”の頃から所有していてSplendid Ocean BlueやLife On Venusにも使われています。
そういえば当時沖野のデモテープを聴いたプロデューサーのサロンミュージック仁さんがこのMT-750を気に入って速攻で買いに行っていた記憶があります。Splendid Ocean BlueやLife On Venusはサロンミュージックのお二人がトラックを作ってますので、そこで使われているはずです。どちらの曲も沖野の自己流のエフェクトが効いていますね。
このシンセ、Rolandとかと違ってエフェクトとかがチープと言うか独特で面白いんですよね。未だに手放せない楽器の一つです。
Track 5 : June July August (ジューン・ジュライ・オーガスト)
まさに昨年2020年、世界中がコロナによるパンデミックで悪夢のような不安に飲み込まれていた最中に書いて配信シングルとしてリリースした という意味でも思い入れがありますし、何よりこの曲が自分で大好きなんです。
エンディングでLady Xが歌う”June July August”というリフレインが奇跡的に沖野のボーカルと融合していて、個人的にはこのアルバムのハイライトの一つだと思っています。
さてこのティザーに出演している女性は一体誰なんだ?これがLady Xなのか?と思った方も少なからずいたかと思いますが、Lady Xは一切 表舞台に出ない主義の方なので、さてライブはどうしようか?とメンバーを探し、巡り会えたある女性に出演していただきました。近々ライブバンドのメンバーもアナウンスしますので詳細はまたその時に。
今回収録の”June July August”は昨年配信シングルとしてリリースしたものとは別ミックスで、シングルのバージョンは歪み成分が多く納得がいってなかったので、今回のアルバムのために再ミックスしたものです。
かなりクリアにこの曲を鳴らすことができたのでアルバムバージョンにはとても満足しています。
後編に続きます。暫しお待ち下さい。