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諏訪大社とヘビには何の関係があるのか


はじめに

ついに、ついにやってきたぞ巳年。
心がこんなにも踊るのは、東方Projectでヘビの要素が見出せるからかもしれない。
私にとって東方のヘビ関連キャラは、東風谷早苗さんである。
ついついトップ画のような早苗さんの絵を描いてしまった。

しかも、ちょうどこの2025年1月「鹿の国」という映画が公開された。
諏訪大社の神事を描いたドキュメンタリーである。
めっちゃ見たい。(そしてまだ見てない)

東方Projectの早苗さんと諏訪大社の関係は切っても切り離せない。しかも、面白そうな映画もやる。
諏訪大社とヘビとの関連性を紹介していかずにはいられない。
ちなみに、今回あげる事例のほとんどは諏訪大社の上社について述べていることを補足しておく。

1諏訪大社の神事とヘビ

狩猟にまつわる夏の神事

そもそも、諏訪大社からどのような信仰が見出せるだろうか。
真っ先に挙げられるのは、狩猟にまつわる神ということだろう。
諏訪大社と聞くとなんとなく生贄をささげるというような血なまぐさいイメージを持つ方もいるのではないだろうか。
特に、長野県茅野市にある神長官守矢史料館を訪れたことのある方だったら特にその印象を持っていそうである。
守矢史料館は、東方の聖地巡礼情報で頻繁に登場しているのでなおさらである。
シカやイノシシなどを生贄にする御頭祭の様子が再現されているのである。
下のリンクから、写真も見ることができるがショッキングな画像である可能性もあるので注意していただきたい。


カエルとヘビの冬の神事

ここを見るだけでは、ヘビの要素が読み取れない。

実は、生贄をささげる元旦に行われる蛙狩神事アカガエルを生贄にするものである。
ただ、ここからもヘビの要素は読み取れる。
アカガエルを生贄にすることから、カエルを捕食する者=ヘビこそが神であると想定されるわけである。

こじつけじゃない?と思う方のためにもう一つ
冬に行われていた神事を紹介したい。

それが、御室神事である。
御室は神事用に毎回立てられる小屋である。
そこに大祝が冬の間中、ずーっと籠ることになる。
「大祝、大変そうだなあ」と思うわけであるが、本質はそこに無い。

実は、この御室の中に藁や茅でできたヘビ型を入れるのである。
もうこれで言い逃れはできない(?)。

神事と農耕の関係とは?

ここまで見ていて、
生贄に何の意味があるんだ?
御室にヘビを入れるのはどういう意味?
と思った方もいるかもしれない。

これらの疑問を解消できる神の性格が見えてきた。

それこそが、農耕神である。
これらの神事は農耕や豊作のために行っているのである。
つまり、豊作に感謝するために狩猟したものをささげ、翌年の豊作を祈るためにヘビを御室の中に入れているのである。

「豊作とヘビ?どういうこと?」という疑問にお答えしたい。
これはヘビは生命力の象徴とみなされているという説明が適切かと思う。

まず、ヘビは春になると土から生え出てくるように見える。
これは、植物がうまく成長する様子を示すらしい。

そして、ヘビはめちゃくちゃ脱皮する
これは、植物が生えては枯れるを繰り返す様子に例えられそうだ。

最後に、ヘビは冬の間じっと巣穴の中で冬眠する
これは、植物が冬を越す様子を示す。
そして、これにあやかって大祝も仮の小屋に籠って冬を過ごすのである。
御室神事については続く2章でも取り上げることにしよう。

ちなみに、農耕神としての要素が直接的に現れた神事もある。
それが筒粥神事である。
吉凶を占う神事で、八坂神奈子さまのスペルカードにも筒粥「神の粥」がある

現在でこそ筒粥神事は下社でしか行われていないが、
以前は上社でも行われていた

だが、衝撃なのはそこではない。
上社の筒粥の中にヘビが入っていたというのだ。

The 農耕 という行事でもヘビが関わってくるのである。

2諏訪大社と蛇の信仰

ミシャクジとの関連性

ここまで見てきて、ミシャクジの話と何が違うんだ?となってきているかもしれない。
なぜなら、ミシャクジも土地や水田開発の神であるからだ。
詳細は前回の記事へ

というわけで、ミシャクジについて、もう少し掘り下げてみたい。

ミシャグジとは、
守矢氏という洩矢神の子孫上げたり降ろしたり(つけたり)する神(精霊)である。
守矢氏が天から降ろしたミシャクジを大祝につけることによって、
大祝は現人神(あらひとがみ)になる

そして、このミシャクジが先ほどの御室神事と大きくかかわってくるのである。

ミシャクジとソソウ神

御室神事でヘビ型を入れることは、先ほど触れた。
実は、この神事はミシャクジともう一柱の神が関わっている。
それがソソウ神である。

ソソウ神は、大地をつかさどるヘビの神である。
御室神事で導入されるヘビ型はソソウ神を表しているのである。

一方のミシャクジは、先ほどの通り天から降りてきて大祝につく
そうして、春になると大祝が豊作の象徴として出てくるわけである。

これが何を示すか。そう、性行為である。
大地に広がる女性的な蛇神・ソソウ神に向かって、男性的なミシャクジが降りてくる
そうして生まれたのが豊作の象徴・大祝というわけだ。

ミシャクジと石神

ソソウ神がヘビなのは分かった。
では、ミシャクジはヘビなのだろうか?

この問題の糸口になりそうなのが、石神(しゃくじん)である。
これは、石棒との関係を見ていく必要がある。
石棒は、男性器の形をしており、縄文時代の遺跡から出土することが多い。

男性器は性器である以上、生命力を表している
そして、生命力と形状の共通点から、ヘビと親和性が高い

つまり、ミシャクジのご神体が石棒なのであれば、
ミシャクジはヘビと関連があると言えそう
なのである。

ただ、このあたりはかなり意見が分かれている。
まず、柳田國男が『石神問答』を書いている
この本で柳田國男はミシャクジを石神だとは考えていない
文通相手である山中笑はミシャクジを石神だとしたのに対し、
当の柳田は後世の当て字だとしているのである。
実際、御室神事では石棒が登場しない

しかし、ミシャクジの社に石棒が置かれていることも少なくない。
守矢史料館すぐそばにある、ミシャクジ総社のご神体は石棒とされる。
守矢氏邸宅にある、祈禱殿にあるご神体も石棒であるらしい。

つまり、ミシャクジと石棒はどうも関係がありそう
ただ、ご神体とまで言えるかは意見が分かれるということになる。

3ミシャクジの憑依する器とヘビ

ミシャクジは石神か?という議論は決着しない。

では問いを変えてみよう。
天から降りてくるミシャクジは、地上のどこで過ごすのだろうか?

その答えが、石や木、そして人間 大祝なのである。
洩矢諏訪子のスペルカードにも、土着神「七つの石と七つの木」がある。

石についてこのような歌がある。

大明神は岩の御座所に降りたもふ
降りたもふ

「諏訪大明神神楽歌」の一節

大明神とミシャクジの関係性に深入りしないでおく。
ただ、神を岩に憑依させるという考え方はあったようだ。

では、木の方はどうだろう。
先ほど洩矢諏訪子のスペルカードとして土着神「七つの石と七つの木」を挙げた。
この「七つの木」は、上社物忌令に出てくる「七木湛(たたえ)」である。
ちなみに、洩矢諏訪子のスペルカードには神桜「湛えの桜吹雪」もある。

この湛(たたえ)について、
折口信夫は「たたる」=「憑依する」の意味だと考察している。

御室神事で藁や茅でできたヘビ型を入れ、そこにソソウ神がつくのは上で紹介した。
この視点を御柱祭にも向けてみるとどうだろうか。

ヘビらしきもの…御柱に曳き綱である。

特に曳き綱には雄雌がある。
ヘビの要素を感じずにはいられない。

諏訪市博物館に展示されている曳き綱

蛇行剣も憑依する器か?

最後におまけ程度で、剣にも触れておく。
上社付近の遺跡からは、蛇行剣と呼ばれるうねうねとした剣が出土する

これは、殺傷能力を高める意図という説と
石上神宮の七支刀のように呪術的に用いられた説とがある。
ここは、今後のテーマになっていくだろう。

おわりに

本当は、年明けにどどんと出す予定だった。
だが、あれよあれよと時が過ぎてしまい、月末まで来てしまった。
だが、何とか長野市での「鹿の国」上映に間に合わせることができた。
この記事を読めば、「鹿の国」がもっと面白くなる という記事になっているといいなと思うところだ。

今後の展望としては、本格的に同人誌を書くということになる。
東方Projectの同人イベント春季博麗神社例大祭にサークル参加するのだ。

ヘビと古事記、日本書紀を絡めていければと考えている。
何らかの方法で、現地以外からも購入できるようにしたいので乞うご期待といったところだ。

参照文献リスト

今回使った本と章をまとめた。
とっても学びの多い本であるのでおススメである。

日本原初考シリーズ

かなり諏訪の話を深くまで掘り下げた本。
ちなみに「鹿の国」のプロデューサーである北村皆雄先生も寄稿なさっている。

  • 『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』

    • 「ミシャグジ祭政体」考

    • 蛇体と石棒の信仰 ー諏訪御佐口神と原始信仰ー

    • 洩矢祭政体の原始農耕儀礼要素

  • 『古諏訪の祭祀と氏族』

    • 古墳の変遷からみた古氏族の動向

    • 諏訪神社の竜蛇信仰

  • 『諏訪信仰の発生と展開』

    • 諏訪信仰の性格とその変遷

    • 穴巣始と外来魂

    • 山中謝肉祭へ


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