ミシャクジ~『土俗より見た信濃古社考』から考える
東方projectの世界に浸っていると「ミシャクジ」について耳にすることがある。
洩矢諏訪子(洩矢神)が統率しているというアレ(不敬)である。
民俗学的なトピックとしても柳田國男が『石神問答』(しゃぐじんもんどう、最近までいしがみと読んでたのは内緒)を書いていた。
そんなミシャクジだから、時たま調べたりすることもある。
だが、いざ説明しようとするとわけが分からなくなってしまう。
実際、大祓オフ会で『諏訪の神さまが気になるの』の知識をペラペラしゃべっていたとき事件は起こってしまった。
その一言が「で、結局ミシャクジは何の神なの?」である。
もはや軽くトラウマである。
ただ、その解答から今でも逃げ続けるわけにもいかない。
そうして我々(約一名)は『土俗より見た信濃古社考』の奥地へ歩みを進めることにした。
表し方がすごい
漢字のあれこれ
ミシャクジは漢字のバリエーションが豊富である。
御社宮司、社宮司、社宮神、在口、左口、曲口、社口、佐軍神、社運神、社子神、社護神、尺地神、冊口神、三狐神などなど。
ファイブボンバーとかできそうな感じである。
メジャーなのは、御社宮司、社宮司らしい。
だがめちゃくちゃ気になる字がある。
それが、三狐神である。
洩矢諏訪子はキツネを従えているのだろうか?
これは、現在御社宮司社がある場所に三狐神と書かれた絵図があること、これらが、「さぐじん」「さごじん」などと呼ばれることが根拠になっているようだ。
めちゃくちゃ深掘りしたいところであるが、狐は農民にとって親しみのある存在であったから、この字があてられたのではないかという予想にとどまっている。
とはいえ、狐の話は大変興味深い。専女(とうめ)社というのもあるらしく、専女というのは、神の使いである老狐の異称なのだという。
日本民俗学会の要旨にも「管狐」など憑き物習俗の例が出ていた。民衆が小動物をどのように捉えていたのかをうかがい知ることができるかもしれない。詳細は以下の発表要旨集を参照してほしい。
共通する読み
漢字はあまりにもバリエーションがあるが、読みに関しては一定の法則がある。
「さく」と読む場合と「しゃく」と読む場合があるが、
これは「さけ」が「しゃけ」に変化するような違いだと指摘している。
そして、最後に来るのは「ち」や「じ」である。
これらを見て何か想像できる漢字が無いだろうか?
この答え合わせは「何の神?」の部分で扱うことにする。
御祭神もすごい
諏訪大社上社の御子神
諏訪大社は、上社が諏訪市と茅野市に一社ずつある。
そこの祭神が建御名方神であるとされる。
この付近の御社宮司社は、
たいてい諏訪上社御子神だとか建御名方(たけみなかた)神御子神だとか言われているらしい。
表にまとめてみたので詳しくは下記を参照していただきたい。
ミシャクジじゃないの?
上の表でもあれ?となった方がいらっしゃるかもしれない。
伊雑皇(おくはざま)大神だの大己貴(おおなむち)命だのが祭神になっている。なお、大己貴命は大国主命と同一神で、因幡の白兎を助けた神である。
つまり、因幡てゐ要素だ。
実は、神社名にミシャクジと書いてあるからといって、御祭神もミシャクジだと思ったら大間違いなのである。
ひとたび諏訪大社上社周辺を離れてみると、御社宮司社の御祭神にミシャクジがいることはほとんどなくなってしまう。
猿田彦神が大変多い。(射命丸文のスペルカードにもそういうのある)
御食津(みけつ)神がそれに続く。
詳細はこちらである。(割と気合い入れてまとめた)
やや余談だが、建御名方命と玉依姫が気になった。
伊那市伊那町にある坂下神社(御射宮司磯波神社)の御祭神である。
稚拙ながら以前に書いた記事と関わりがありそうであるのでそちらも紹介しておく。
で、結局ミシャクジは何の神なの?
水田開発の神
お待たせいたした。読みの答え合わせをする。
「さく」はやや分かりにくいが、「開く」と表記するらしい。
「作」だったら分かりやすかったのになあ
と思ったが、そう単純にはいかないものである。
そして、「ち」や「じ」は「地」である。
つまり、開く地の神である。
この土地とは、田のことであり、水田開発の神だと言えそうである。
これだけでは、足りない…。というそこのあなたのためにさらに論拠を追加する。
ここまで、示してきた御社宮司社であるが、周囲が田んぼに囲まれていたりだとか、もともと沼地だったりだとかいう話がゴロゴロ出てくる。
しかも、祭祀が稲に関連しているのではないかという部分もある。
ただし、これらは全ての御社宮司社に言えるというわけでもなくこの点について著者は慎重な姿勢を示している。
主食生産の神
祭神に御食津(おおみけ)神がおわしたことは、御祭神のところでしれっと紹介した。
この神こそ主食の神である。
ほかにも、玉依姫ら女神も幾柱か散見されるが、著者は「生産と女神は常に結びつく」としており、主食の神そして、主食生産の神だと言えそうなのである。(性的役割分業みたいな主張をしたいわけではないのであしからず)
土地そのものの神格化
伊雑皇(おくはざま)大神をしれっと出したが、この「はざま」は谷のことである。もっと言えば、作物のできる土地の神なのだという。
さらに、たくさん出てくる例として猿田彦神を挙げた。
もちろん、この神は猿楽を演じた人=役者の神であるのだが、それだけにとどまらない。
この神は大土神=土御祖神と同一神とされ、これが土地そのものの神なのである。
ちなみに、猿田彦神は天狗と同一視される場合があるので、
洩矢諏訪子のいる妖怪の山に射命丸文ら天狗がいる状態はかなり自然なのかもしれない。
さて、ここで洩矢諏訪子の能力を振り返っておきたい。
洩矢諏訪子は「坤(こん)を操る程度の能力」である。
坤とは、乾(けん)の対立概念で大地を示す言葉である。
ミシャクジは土地の神格化であり、それを統括する洩矢神=洩矢諏訪子は大地を操る神なのである。
解釈一致の風が吹き荒れた。
まとめ
①読みを分析すると、水田開発の神っぽい
②祭神を見ると、主食生産の神だったり土地そのものの神だったりしそう
③土地そのものの神は、東方の世界観的に良い感じ
おわりに
この本を読み始めたとき、ミシャクジ関連神社マップ作ろう!
という気持ちでいた。
だが、文章をよく読んでいるとと衝撃の一文を発見してしまった。
え~省いちゃうの~…。
という思いが無いでもないが、しかたない。
ひとまず、データベースが整理でき次第といったところだろうか。
ところで…
実は、この記事はゆる民俗学音楽学ラジオサポーターコミュニティの企画となっている。私は2日目である。
クリスマスまでの12月毎日記事が更新される楽しい企画である。
私はあまりサポーターコミュニティの話をしていないが、以降の方は魅力を語ってくれそうである。たのしみ。
ちなみに、大祓オフ会はこのサポーターコミュニティ内での企画である。
長野から東京の車移動という疲れが吹っ飛ぶくらいに楽しい時間だった。
というか、今なお民俗学に触れてみたいぞ~というモチベーターになってくれるありがたい存在である。(まあ、月額1000円なんでお財布と相談)
あと、東方好きにおススメのゆる○○ラジオ集も記事として書いてみたいな~という願望がある。
少しずーつ蒐集していきたい。
参考文献・気になる本など
小口伊乙『土俗より見た信濃古社考』岡谷書店
今回使った種本である。
昭和55年発行であるので、実際にマップにする際には、市町村合併を考慮する必要がありそうだ。
人から借りておいて1年ぐらい積読してしまったのは内緒である(大声)。
北沢房子『諏訪の神さまが気になるの』『諏訪の神さまに会いに行く』
諏訪の入門書として優秀なシリーズ。
気になるのの方に、ミシャクジは神様じゃなくて精霊なんだぞ~みたいな話が書かれているが、そこは触れないでおいた。
『古代諏訪とミシャクジ祭政体の研究』
本来なら絶対に参照すべき本。
これから読みたいと思う…。
柳田国男『石神問答』聚精堂
これも地味に読めていない。
『信濃古社考』では、ミシャクジ=石神は混同だとされていたが果たして…
以下から読めるのでぜひ。