BFC6の抱負(ロングバージョン)
オリンピックなどの国際的な舞台でアスリートが人種差別や社会的抑圧に反対するサインを示すことを「アスリート・アクティビズム」と言います。モハメド・アリがオリンピックの金メダルをオハイオ川に投げ捨てた、あまりにも有名なエピソードもアスリート・アクティビズムです。
ぼくにとってブンゲイファイトクラブは、オリンピックと同じくらい価値のある舞台です。
ですから、その舞台で、たった今も行われているガザの、パレスチナの虐殺について話すのは、同じくらい価値のあることです。
パレスチナの話をするために、ぼくはこのリングに上がりました。
イスラエルの侵攻により、パレスチナの死者は四万人を越えました。データの推計によれば、停戦後には五倍の死者が出るといわれています。行方不明者が死者として数えられるだけでなく、感染症による死、自殺などが増えるからです。たった今停戦がなされたとしても、さらに二十万人の死者が出ます。しかも未だ停戦がなされる気配はありません。ガザでは家族の遺体を掘り起こそうと、コンクリートの塊を人力で動かしています。重機が入れないため、人の手で行うしかないのです。わずかな肉片が手に入るのは幸運で、大半は遺体を見ることすらかないません。
第二次世界大戦のころ、ナチスドイツの手を逃れたユダヤ人たちが事実を話しても、多くの人は信じなかったそうです。「いくらナチスでも、そんなことはしないだろう」と。
今、パレスチナで起こっている虐殺はインターネットで拡散され、その大半は無視されます。目を背け、ミュートされ、なかったことにされます。
「遅かれ早かれ」という作品で紹介したアーティフ・アブー・サイフ(著)、中野真紀子(訳)『ガザ日記』は、作家でもあるアーティフが実際に目にした光景をつづった作品です。小山田浩子さんは、せんじつめれば日記も小説、という話をしています。その観点から見れば、『ガザ日記』は一級品の世界文学です。文芸を愛する人たちにお願いしたいのは、まずは『ガザ日記』を読んでください、ということです。パレスチナへの声をもっと大きくするためには、裾野を広げる必要があると考えていて、その入口として『ガザ日記』は最適だと思います。色んな考えがあるとは思うのですが、ぼくは読むだけでもいいと思います。読むだけの人が増えれば、必然的にその先に進みたくなる人も出てくるものなので。ハードルを低くしないと人は増えません。
エリカ・チェノウェス『市民的抵抗』によれば、全人口の3.5パーセントが積極的に参加している場合、そのムーブメントは成功するそうです。そして積極的に参加する3.5パーセントの人がいるためには、当然ですが消極的に賛成している人が大勢いる必要があります。
文芸を愛するすべての人に声を上げろ、というのは達成するのが難しい目標ですが、もしかしたら文芸を愛するすべての人に『ガザ日記』を手に取ってもらう、というのはそれほど難しいことではないのかもしれないという気がします。
ということで、よろしければ『ガザ日記』を読んで欲しいです。どうか、お願いいたします。