「歴史的な日」のネタバレ感想

「歴史的な日」のネタバレ感想を書きます。
読んでない人は今すぐに読んできましょう。4000文字の小説なので、あっという間に読めちゃいますよ。

歴史的な日 | VG+ (バゴプラ) (virtualgorillaplus.com)

ということで、読んできましたね?
ではネタバレ感想を書きます。
この作品、最初に「こりゃただ者ではないな」と感じたのは、

工事請負業者とは、実際に工事をやる俺らみたいな子会社の下っ端じゃなく、受けた仕事を下請けによこす親会社のことらしい。

「歴史的な日」より

これも一行目からですね。
「未来のスポーツ」というテーマで、この書き出しは想像の埒外です。つまり、インパクトがある。今まで感想を書いた作品も素晴らしかったんですが、ちょっと毛色が違うというか、アプローチの違いがあって、新鮮に感じます。
しかも、この一行目は結末において、しっかり生きてくる。
先に構成について書くと、ここに続いて「見える景色が違う人が世界をつくっている」という文章が書かれる。この主人公の述懐はとても自然だし、実際にそういうものだと感じられるもので、まったく不自然ではない。
しかし、この前提が、後半ではひっくり返る。
「工事請負業者」は「下っ端」に過ぎず、その上にいる発注した「県知事」は屋外ではなく屋内にいた。

俺はもう、親会社に工事請負業者と名付けた人を笑えない。自分とは住む世界が違う人間が考える世界をつくる側だ。

「歴史的な日」より

主人公は遠く離れた外側にいると思っていた「世界をつくっている」人たちが、自分自身であることを痛みと共に自覚する。最後の最後、アナウンサーの声が、素晴らしい余韻を与えてくれる。

では、なぜ自分自身への価値転換が起こってしまったのか。
そのホワイの部分に、スポーツの持つ力が働いていて、巧いとしか言いようがないです。
主人公は最初は不安を感じていて、それを再三、心の内でつぶやいている。

なんだかなあって思うのは、俺がアップデートできてないから? 俺らの世代が失敗だったって認めたくないから? 失敗したのは大人なのに、失敗のレッテルを貼られるのは子どもだった俺らだから?

もやもやしているのは俺だけなのかと不安になって

俺だけが変なの?

「歴史的な日」より

ここまで畳みかけて、不安を表現している。
しかし、子どもが走って声援を送るようになると、それが一変する。
その心の動きを丁寧に追うことで、読者は(おれのことですよ)ついつい思っちゃうんですよ、そりゃそう思うよね、と。

「先生以外の大人からスポーツ中の応援の言葉をかけてもらったことがない」とか「声が届いてるんだと気づいて、俺らの声援はさらに大きくなる」とか、めっちゃわかる。
コロナが5類に分類されるまで、野球では応援歌が禁止されていた。そのときのことを、ぼくは思い出しました。
若い選手が満員のスタジアムで応援の声を聞くのは初めてだったので、とインタビューで答えていると、そうかーと感慨深くなったりしますもん。
遠い未来の話でありながら、スポーツ観戦という点では、新型コロナウイルスについても連想させて、リアリティがある。

これで4000字なんだもんなー。うますぎて、ズルいぞって気分になります。
これもねー、素晴らしすぎるので、「プロが書いたんじゃね?」と疑っています。

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