就活を迎えた中途半端な人間のありふれた絶望

たくさんビジネス書を読んで、色々な講演会に行って、著名人とか権威的な人の話をそのまま持論に置き換える。そういった種類の知識人にはなりたくない。あんたの脳みそはお飾りかって、言ってやりたくなる。

軽薄な人間が成功する世界。別に、間違ってなんかいない。市場は需要と供給の原理を原則としている。深く思考することしか芸が無い無口な人間よりも、つまらないギャグで笑いをとる寒いやつの方が就活が上手くいくこともある。仕方ない。深すぎる思考力を本質的に求めるのは、同じく深すぎる思考力を持った人だけなのだから。

その中で光るダイヤモンドが、テレビカメラにフューチャーされることが、時たまある。彼は足を組んでインタビュアーの質問に答える。批判、批判、批判、価値観の転換。テレビカメラのケーブルはカメラマンやディレクターの足元をぬうようにすり抜け、高度を上げて電波塔の頂上に達し、全国に拡散する。都内の住みやすいマンションに住む眼鏡をかけた知識人は、それを温かい緑茶と共に啜って胃に流し込み、テレビの電源を切って、ワイシャツのボタンを外し始める。妻に微笑みかけながら。

その腐った伊達眼鏡を外せ、と中途半端な声量で叫んだ自分の声で、僕は目を覚ました。

胸の動悸を感じる。こういう起き方をしたあとは、誰かに聞かれてしまったような気がして一瞬耳をそばだててしまうが、すぐに自分が一人暮らしをしていることを思い出す。不自然な静寂。ブラインド式のカーテンの紐を寝転んだまま引っ張った。本棚、レコードプレーヤー、勉強机、ティッシュ箱、香水の瓶の順番に、朝の直立した太陽光が差し込んでゆく。何度見ても汚い部屋だ。

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