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夜風で味わった遠い旅の日。

夏の寝間着として、旅館に置いてあるようなペラペラの浴衣を買った。寝る時に足の締め付け感が気にならないし、涼しいし、それに何より家にいながら旅情を感じられるということで、最近お気に入りだ。

夜も深いので、ちょっとつっかけで外に出てみる。今夜はすっかり心地よい風が吹いている。ちょっと前まで夜の空気はまだまだ冷たかったのに。

明日の天気が悪いからか、少し強い風だ。フェリーの後部甲板で感じた風を思い出した。

学生時代、一人旅で乗るフェリーは格別だった。自分の知らない街へ向かう感覚、新幹線なら数時間の距離を半日近くかけて向かうスピード感、目の前に広がる海原、潮と燃料の混ざった匂い。全てが重なり、恍惚とした表情でただ夜風を浴び続ける時間。

もう何年も船旅からは離れていたが、やはり五感というのはすごいもので、ちょっと夜のお散歩に出かけただけで、あのフェリーの甲板の感覚を味わった。思い出したというより、味わった。

次はどんな風でどんな記憶・感覚を味わうだろうか。また浴衣を纏って、夜道に出てみよう。

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