![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172219806/rectangle_large_type_2_bae575d21d4ef91f1c12895a0cb878db.png?width=1200)
安楽死
今まで私の人生に現れた人達がそこら中にいる
彼等は私に話し掛けるが、
私は感謝も恨みも決して口に出さず
ただひたすら歩き続ける
一歩一歩過ぎる度にそこは昔となる
この一秒一秒が過去になるのだ
過ぎた時間に興味は無い もう捨ててしまった
随分と遠い
これが私の人生の長さなのだろうか
もしそうなら、もっと短いと思っていた
家族には何か言ったっけ
家から歩いたんだっけ
そもそもいつ決めたんだっけ
まあ死に行くには関係無い事だ
夜から歩き続け、
湿った曇り空にうんざりする
急に空が明るくなった
一度も来た事は無いのに、
どこかとても懐かしい景色
そこにただ一軒、
神社の様な、寺院の様な、
昔ながらで大きな屋敷
敷居は絶対に踏み付け無い様に
ここを潜ってしまえば、
もう引き返す事はでき無い
そんな状況だからか
妙に冷静になってマナーを気にしたり、
全く現実味が湧かない
今から私は死ぬというのに
同意書の様な物にサインした後、
案内された畳の部屋には、
木製の棺桶だけが置かれている
私は何の躊躇いも無く、
棺の中に横たわった
花も何も要らない
私が持って行くのはただ一つ
私と人生を共に歩んで来た、
祖父から贈られた大切なぬいぐるみ
目を閉じた
やっと終わる やっと解放される
望んでいた孤独が漸く手に入る
もう誰も私に着いて来ないで
顔かけをされ、棺の蓋が閉じられた
暗闇の中で感じたのは何であったか
私はもう居ない
安心して