
麻酔
やっとここまで辿り着いた
この駅まではたったの二駅なのに、
一駅降りては朝飲んだ薬を血と共にゲーゲー吐いていたせいで家を出でからもう4時間も経っている
幸いな事に、ここは昼頃になると誰もいない無人駅
公衆トイレから這い出で、ホームのベンチに座る
ここからまた六駅
それを考えただけで、
吐き気の次はとんでもない疲労感に襲われる
乱れた髪も制服も整える気にならず、
空っぽの鞄の上に突っ伏す
ああ、どこで間違えたのか
今更考えたところで解決できる訳でも無いのに、
頭の中で後悔だけがぐるぐると回り続ける
このまま眠ってしまいたいところだがそうはいかない
急行列車が通過する度ある事が浮かぶが、
それすら実行する勇気も無いのだ
時間ばかりが過ぎて行って、
もう幸せだった頃には戻れないし
その思い出すらどこかへ忘れてしまった
そろそろここから動かないと
思い頭を何とか上げて、
次の電車に乗るか乗らないか迷っていると、
「今日はここまで来れたんだから」
と声が聞こえた
私が座っていたベンチは1人用
それなら後ろに?
そう思って振り返ったが、
やはりホームには私1人しかいない
「もう行こう」
また声がする
女の人で、聞き覚えがある
私は気付いた、この声は私だと
遂に私は分裂してしまったのだ
昔からイマジナリーフレンドがいる、
と言う人はいるが、
私の頭には2人の自分がいる
他人の声、雑音が響く幻聴の次は、
都合の良い自分自身が話しかけてくる
いや、これこそ本音なのかもしれない
疲れ切っていた私は、もう戻る事にした
今日もまた沢山の死と向き合わなければならない
この頃の私の奇行は酷いもので、
自分から薬の匂いがするような気がした私は
香水を飲み込んだ
喉が焼ける様に痛かった
その日の終わりには、
朝からあんな状態だったせいか、
まだ家に着いてもいないのに
頭が割れる様な痛みに襲われて、
見るのも嫌だった薬をまた飲み込んだ
家へ帰ってしまうと、
あまりの気分の悪さに、
そのまま布団へ突っ伏した
気が付くともう夜中の2時
家族の寝顔を見て、
私は急に消えてしまいたくなった
私を知る人達は全て消えて、
私はこの家の人間では無く、
名前すらも捨てて消えたくなった
私はふらふらとベランダへ出て、
青黒い空から地面へ目をやった
やはり何の勇気もない私は、
眩暈がして座り込んだ
涙も出ない
また朝がやって来るのを黙って受け入れる
その辛さを乗り越えるため
命と引き換えに自分自身を麻痺させ
私が最も恐れる死へと向かって行く
孤独も哀しさも感じない
自分の望まなかった道を、
これからもただ無意識に歩き続ける
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