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葬列

皆俯いて暗い顔をしている

もう3月の半ばだというのに
大雪が降り、凍えそうな程に寒い

まだ産まれたばかりの小さな手は
今にも凍ってしまいそうだ


あの頃はまだ故人の自宅で葬儀が行われていた

献花の際に手に付いた花弁を母に渡すと、
涙を流し、遺品である手帳に挟んだ


この土地はまだ土葬の文化が残り、
先祖の眠る墓までの遠い道を歩かなければなら無い

普段は自宅から見える向かいの山、
でも、ここは限界集落
車道すら無く、村に出入りする者もいない

やっと山まで来られても、
ここからまた道なき道を歩き、登り続ける


私は遺影を抱え、列の先頭を歩いていた

後ろにはどれくらいの人がいるのだろう

あまりにも静かで、
時折吹く風の音が冷たくなった耳に響く


ただ、
いくら悲しみが人々から言葉を奪おうとも、
静か過ぎるではないか

思えば、足音の一つすら聞こえて来ない


私の抱えている遺影は顔が見えない

棺の中には誰が?


後ろを振り向くと、
私以外の全ての人間が頭まで布で覆われ、
親族どころか男女の区別さえも付かなかった

そこには、不気味な真っ黒の葬列が
長い長い葬列が、どこまでも続いていた


私が遺影を見ようとした途端、
真っ黒な布に覆われた人々が倒れた

体勢を崩したのでは無い

形を失い、溶けたかの様に、
次から次へと崩れていくのだ

勿論、棺も彼らと共に
大きな音をたてて崩れ落ちた

その真っ黒な布の下からは、
泥水が流れ出している

私はそれが血に見えて気味が悪かった

崩れた棺の中からも同じ様に
ドロドロと黒いものが流れてくる


亡くなったのは誰?

私が抱えている遺影は?


恐る恐る遺影をこちらへ向けると、
着物を着た女性の
今にも消えてしまいそうな古い白黒写真

そして、顔にあるのは虚な目だけであった


誰もいない冬の山中
真っ白な雪に染み渡る黒い泥

和服ではあまりにも歩き辛い山道を
雪に足を取られながらも降ろうと必死だった


けれどもう遅い

後ろから覆い被さる様に崩れた者と共に、
私は真っ黒な泥と冷たい雪の中へ倒れた

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春泥
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