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長い夜を歩くということ 138
彼女は悪戯な瞳で私の顔を覗き込む。遊んでいるような、試しているような、演じているような。
彼女の言葉には何か大切な真実が含まれていて、そのほとんどが嘘だった。
そんな気がした。
「後悔ですか…あまり、覚えがないですね。人から見れば後悔するようなことはたくさんあるのでしょうが、終わってしまったことは仕方がないと考えてしまいますね」
「その考え方が一番幸せになれるものかもしれませんね」
彼女は窓の外の暗い雲の先をじっと眺めていた。
私にはそれが、人生の終着点を見つけたような救われた表情に見えて、急いで口を開いていた。
「麗華さんは何かあるのですか?」
「そうね…妻の役もお嫁さんの役もしてきたけれど、本当の結婚というものをやってみたかったわ。たとえば先生みたいな口が達者な方なら、きっと結婚生活も愉快になるでしょうね」
「そうなるとその前の段階で、毎日記者に追われることになるのですよね。私にはもうあれはトラウマなのでちょっと遠慮したいですね」
「あらあら、役でも振られることなんてないのに。先生にはどうしても振られてしまうのですね」
彼女は口元を手で押さえて笑っていた。
それは初めて挨拶をした時と全く同じものであったはずだが、私には同じようには見えなかった。
ただ、美しくはあった。
美しいという種類を変えながら彼女はその形を保ち続けている。