東北プロボノプロジェクト(はまのね)振り返り
今更ですが、昨年9月から半年間、携わらせて頂いた東北プロボノプロジェクトの振り返りをしておきたいと思い、筆を執らせていただきました。(自分の中の整理も兼ねて。)
長文で恐縮ですが、何かしらのご参考になることがあれば嬉しいです。
■昨年9月のプロボノ説明会での運命的な出会い
・当日、麹町のLifull Hubで地方創生系のイベントに参加する予定だったのですが、急遽キャンセルになり、仕方なく帰宅しようとしたところ、その1階でたまたま面白そうなイベントが開催されていたので飛び込んでみたのが、今回の東北プロボノPJとの出会いでした。そこでは同PJの説明会がたまたま開催されており、半年間の活動の趣旨や、支援先となる各起業家の想い、直面している課題、といった内容がプレゼンされていました。
・登壇者のうち、特にカフェ「はまぐり堂」の亀山さんのビジョンに共感を覚え、また、亀山さんを首都圏から支援されているプロジェクトマネージャーの村里さんの放つパワーに圧倒された私は、この活動に自分も関わってみることを考え始めました。(はまぐり堂にはたまたま家族旅行で8月にランチに立ち寄っていて、古民家風のカフェの雰囲気や料理の美味しさに感動したばかりだったので、運命的なものも感じました。この幸運に改めて感謝したいです。)
東北プロボノプロジェクト:http://tohoku-probono.mystrikingly.com/
はまぐり堂:https://www.hamaguridou.com/
亀山さん:https://an-life.jp/article/1114
■なぜ義務でもないのに(おカネがもらえるわけでもないのに)わざわざこの活動に参加しようと思ったのか?
・仕事や家事・育児によって自分が自由に使える時間(=可処分時間)が限られる中、なぜその貴重な時間(や多少のおカネ)を費やしてまでこの活動に参加しようと思ったのか?それは、プロマネの村里さんが個別に誘って下さったという外部要因もあるのですが、何より、「今いる境遇と違う所に身をおいて自分を変えてみたかった」ということが大きかったと思います。大学時代にヒガ3塾という学生団体を立ち上げ、「農泊せんせい」という活動を通じて都市農村交流の一つの選択肢を提示しましたが、卒業後は関西勤務となったこともあって活動からは離れてしまいました。
農泊せんせい:https://www.popland.jp/image/090828.gif
・その後も東日本大震災後に地域で様々立ち上がった活動に自分も関わりたいという想いを抱きながらも、忙しさにかまけて(というより、もともとビビりな性格なので新しい世界に飛び込むことに躊躇して)具体的なアクションができずに10年近く過ごしてしまいました。(こう見えて、新しいチャレンジは怖くてたまらないんです・・)
・育児も下の子が3歳になり一段落しつつあったこともあり、「このまま何もせずに後悔したくない」「もっと地域でアクションを起こしたい」「地域との新しい関わり方を模索したい」といった想いが強くなっていたタイミングで東北プロボノPJに出会い、村里さんに背中を押して頂いたことで、ようやく一歩が踏み出す決意ができました。
・「はまのねの課題(=限界集落の暮らしをいかに未来につなげていくか)は全国共通の課題。ここで得た知見はきっと自分の推し地域でも活かせるはず」という村里さんの言葉も、決意を後押ししました。
■プロボノという「地方との関わり方」
・「首都圏にいながら地域と関わるには、どうすれば良いか?」というのは自分の中でも長年のテーマでした。今回の活動を通じて、「地方との関わり方」の一つの選択肢として「プロボノ」という形があるということを知りました。このことを多くの人(特に首都圏で働いている人)にもっと知って頂きたいですし、自分自身、今後も深堀りしていきたいと思っています。
■プロボノのススメ
・そもそもプロボノ(Pro Bono)とは、各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償で提供して社会貢献するボランティア活動全般のことで、もともとは弁護士や医者が無報酬で行う公益事業を指していたそうです。こう聞くと「自分にはそのようなスキルが無いのでちょっとハードルが高いかも」と尻込みしてしまう人も少なくないと思いますが、「都会の常識=地方の非常識」といったことは数多くあり(その逆もしかり)、「え、こんな(自分にとっては当たり前の)ことが役に立つの?」といった分野が誰にでも必ずあるはずです。
(例えば、Excelを使いこなせるといったことだけをとっても、魔法のように驚かれ、喜ばれることさえあります)
・都会ではAというスキルを持った人はそれこそ五万といて自分は「One of them」として埋もれがちですが、地方ではとにかく人材が不足していますので、自分が「Only one」な存在として活躍できるチャンスも劇的に高まると思います。
・よく言われることですが、
「自分がやりたいこと・好きなこと(will)」、「自分ができること・得意なこと(can)」、「相手から必要とされていること・課題・ニーズ(shuold)」の3つを満たす活動領域をいかに見つけるか、これが何よりの肝になると思います。
■プロボノの実際の進め方
実際には以下のような流れで進めました。
①キックオフミーティング
②都内での打合せ:最初は毎週、その後、活動の方向性が見えてきた頃から隔週で開催。
③現地視察:1泊2日で実施。事業視察の他、亀山さんや関係者との交流、漁業・狩猟の体験もさせて頂きました(交通費・食費・宿泊費は自己負担)
④都内でのイベント開催:多くの人に亀山さんと繋がってもらうために都内で飲食イベントを開催しました
⑤最終納品ツアー:成果物を亀山さんに最終報告するために、再度現地を訪問しました(私は都合により参加できず)
※情報共有の方法:FacebookのMessengerを使ってメッセージのやり取りや資料の共有をしていました
※打合せの場所:皆さんは打合せの場所と言えば、どういう場所を思い浮かべますか?貸し会議室、喫茶店、居酒屋の個室、最近だとZoomやSkype等を使ったオンライン会議を思い浮かべる方も多いかと思います。私達ももちろん上記を使いましたが、場所にもこだわろうということで、「都内の高級ホテルのラウンジ」(東京駅周辺はほぼ制覇しました)や、「野外」(石巻のプライベートビーチで焚き火を囲みながら)でも打合せを行いました。特に高級ホテルのラウンジは、コスパを考えると意外とオススメです。
打合せの様子(都内のホテルラウンジ、野外):
現地視察(漁業体験とお雑煮作り体験)の様子:
都内イベントの様子:
■「はまのね」のプロボノチームメンバーの紹介
職業もバックグラウンドも様々な5人が集まりました。お互いへの信頼と尊敬がベースにあったので、オープンかつフラットな(率直な)意見交換ができたと想います。また、それぞれが自分の興味・関心に合わせ、強みを発揮しながら活動できたと思います。(村里さんいわく、活動の最初に人柄を見て、適材適所で宿題を割り振っていったとのこと)
①村里さん(プロマネ。本業はITコンサルタントですが、ハンター、ダイバー、インベスターといった多様な顔を持っていらっしゃる、とにかく凄い方です。プロジェクトマネジメントの仕方も大いに学ばせて頂きました)
②市川さん(本業は監査法人のコンサルタント。奥さんの実家が山形県の鶴岡市であることから、鶴岡のアンバサダーとしても活動中。70か国以上をバックパッカーとして旅をされた経験もあり、行動力が凄いです。資料作りやファシリテーションの仕方についても大いに学ばせて頂きました)
③宇田さん(本業はIT企業の管理部門。的確でバランス感覚のあるコメントにはいつも脱帽させられました。気さくでとても打ち解けやすい方です。)
④小島さん(唯一の女性メンバー。本業はホテルの開発。一昨年まで3年間、仙台で勤務されていて、プライベートでも東北でツアーを作ったり、丸森サウナのアンバサダーをされていたりと精力的に活動されています)
⑤谷角(本業は食品専門の商社の営業。妻の実家が山形県上山市なので、東北とは縁を感じています。地方との関わり方を模索中)
*ちなみに下の写真は鹿肉です
■プロボノの施策内容(カッコ内はメインの担当者)
①カフェの運営強化(宇田さん):電話での予約、BGMとして流しているCDの交換、お皿洗いといったカフェスタッフの負担を課題と感じ、その負担を軽減するために、IT化や食洗機の導入を提案し、選択肢の提示から実装までを支援しました。
②発信強化(小島さん):はまのねは「おしゃれなカフェ」というイメージだけが先行して、より深層にある魅力が伝わっていないという課題を感じ、より深いファンを獲得するための情報発信について提案しました。(ツアーの記事化・冊子化や物販ディスプレイの提案など)
③商品販売力・ブランド力の強化(村里さん):はまのねの資源の収益化を課題として設定し、カステラや木工細工、ハーブティー、ポストカードといった物販の提案から試作、試験販売まで行いました。また、新しいロゴの提案も行いました。
④季節のコンテンツ強化(谷角):季節ごとのコンテンツが埋もれていることを課題と感じ、「手仕事」「里山」「漁業」「体験」の4つの軸で、月別にコンテンツを整理。その中で、ツアーとして商品化できるものをピックアップして1月にトライアル実施(=お雑煮作り体験)。リピートしてもらえる仕組み作りについても提案を行いました。
⑤コミュニティ強化(市川さん):はまのねと深い関係を持つ関係人口を増やすために、まずはイベント参加等ではまのねを知ってもらう→ツアー等で実際に足を運んでもらう→プロボノ等への参加で「関わる側」「一緒に作る側」に回ってもらう、というステップを整理。関係が深くなるに従って階段を登っていく「ステップ図」も作成して、関係人口のあり方を提案しました。また、実際に都内イベントや現地ツアーに友人を集客し、Facebookコミュニティも構築しました。
<番外編>
・はまのねのFacebookの過去の投稿等をExcelの表に整理(履歴整理)
・「学びをおカネに」変えられないか検討する材料として、企業の研修担当者にヒアリング
■プロボノは人生を変える(かも)〜プロマネ村里さんの言葉〜
プロマネの村里さんの言葉の中で特に印象的だったものを紹介させて頂きます。
【村里さんが、プロボノをする上で大事にして欲しいと思っていること】
①自分らしく(人生、充実していますか?人生という器の中で、仕事・家族・睡眠のバランスは取れていますか?それらを除いた僅かな余白で自分らしいことができていますか?プロボノはその選択肢の一つです)
②社会課題を肌で感じる(そうすれば、必ず「日本このままだとやばくない?何とかしないと!」という気持ちなります)
③楽しむ(何より、自分自身が楽しむことが大事。ただし、頭を使って成果を出すことを忘れずに)
※なお、私について言えば、村里さんの要求レベルが自分の想定より大分高く、本業も多忙を極めていた中で、なかなか楽しむだけの心の余裕が持てない状況で何とか走り抜いた半年間でした(正直、アップアップでした!笑)が、最終的に亀山さんに感謝の言葉を頂けたことで、 全ての苦労が報われた気がします。また、村里さんに後で聞いた話では、「この人ちょっとこのボール嫌がっているな、引き気味だな」と感じていても、あえてそこで妥協したりせずに要求を押すようにしていた」とのことで、良い意味で私を含むメンバーの潜在力を一段深いレベルで引き出して頂いたと思います。
【村里さんがメンバーに課した裏ミッション】
①自分と向き合う(自分自身の価値観を知る)
②突き抜ける瞬間(他人の価値観に飛び込む)
③人生が広がる瞬間(視野ではなく世界を広げる)
※人の成長は振り返って初めて気づくもの、ともおっしゃっていましたが、確かにその通りだと思います。
【村里さんからの最後の宿題】(半年間の活動終了後の打ち上げの席で出されました)
①はまのねとどう関わるか!
②推し地域とどう関わるか!
③副収入100万円/年
※③はなかなかハードルが高いですが、「もし完全に自由に使えるおカネが毎年100万円あったら?」と考えると確かに人生が変わりそうです。模索していきたいと思います。
【プロボノは人生を変える(かも?)】
(少なくとも)人生の可能性が広がる、というのは確かに言えると思います。
理由は、
①「やりたいことしかしない」という起業家の生き方を知れる
(→自分も一歩踏み込める)
②普段は使わない脳みそを使う
③普段は出会わないような人・機会・考え方に触れられる
といった刺激を確実に得られるからです。
■プロボノをやってみて、難しかったこと
①環境は用意されるが、あとは良くも悪くも自分次第。仕事ではないので、いくらでも妥協できてしまう。でも、コミットしないと「突き抜ける(殻を破る)」ことはできない。
②亀山さんは既に大抵のことは検討し、トライしている。その中で、いきなりやってきた「よそ者」の自分達がどうすれば一番力になれるのか?半年間で何を実際に残せるのか?探り出すのは難しかった。(いくら提案しても、実情に合わず実行できないものなら意味がない。変化を起こせないと意味がない)
③亀山さんからの当初の依頼(=浜の暮らしを残したい、学びをおカネに変えたい)に100%応えるのではなく、プロボノチーム側の方でゼロベースで課題を設定し直し(=「分かりにくい」を「分かりやすい」に)、亀山さんと方向性をすり合わせながら進めていくという作業は難しい部分でもあり、同時に腕の見せ所でもあった。(特に、はまのねの真のニーズをつかむのが難しかった)
④亀山さんと信頼関係を築き、目線を合わせながら課題を一緒に考えていく一方で、「よそ者にしか開けられない風穴」を開けなければならない、という微妙な立ち位置が求められる。
■プロボノに参加する側のメリット
①役に立っている・必要とされているという実感が得られると、自信や生きがいにつながる
②一生物の「人との繋がり」ができる。身近に感じられる「お気に入りの地元」が作れる。
③起業家の近くで、深く関わる機会が得られる
④与えられた課題(過去の延長線上の仕事)ではなく、初めて向き合う(正解の無い)課題に対し、自らの意志と仮設で課題設定と解決ができる
⑤多様なメンバーとの協働の中で、チームビルドやプロジェクトマネジメントを学べる。(普段の仕事から離れた「他流試合」)
⑥自分の志向・強み・価値観・リーダーシップのスタイル(クセ)を浮き彫りにできる。自分の存在意義やミッションを考え直すきっかけになる。自分なりのインパクトの出し方(役割)を発見できる。新しい自分に出会える(※私自身、改めて「美味しい『食』が生まれる現場」に燃える自分に気づきました)。
■プロボノを受け入れる地域の側のメリット
①よそ者の視点での課題解決ができる
②普段接しない人と交流・協働する中で多様な価値観を学ぶ機会になる(刺激になる)
③外からの視点で強みや資源を再発見・編集・価値付けができ、戦略の見直しに活かせる
④地域を深く理解・自分事化し、継続的に支援したり定期的に訪問したりするファンを獲得できる
■プロボノの社会的意義
・地方の「想い」に都会のリソースをつなぎ、変化を巻き起こす。
※起業家は「地域のため」「未来のため」という強い想いだけで事業を立ち上げ、走り続
けている場合が多いが、収益化に失敗し持続しなかったり(=自己犠牲の精神だけでは続かない)、目の前のことで精一杯でゆっくりと振り返る時間がなかったりする。都会のリソースでそのような起業家を支援する意義は社会的にも大きい
■最後に
・今後も①仕事(本業)、②家事・育児と③地域との関わりの3本柱を両立していけるように頑張りたいと思います。
・常に遠くを見据えて重要な示唆を与えてくださる亀山さん、迷っていた私の背中を押して下さった村里さん、一緒に活動をさせて頂く中で沢山の気づきや学びを与えてくださったプロボノメンバーの市川さん・宇田さん・小島さん、素晴らしい機会と場を提供して下さった東北プロボノPJの運営側の皆さん、そして頻繁に家を空ける私を快く応援し支えてくれた妻には心からの感謝を伝えたいです。本当にありがとうございました。
参考文献:ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのかhttps://www.amazon.co.jp/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%9D%B1%E5%8C%97%E3%81%A7%E5%AD%A6%E3%81%B6%E3%81%AE%E3%81%8B-%E5%B1%B1%E5%B4%8E-%E7%B9%AD%E5%8A%A0-ebook/dp/B01KUGR3AI