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夏に去し君を想う

   電話を終わらせる花屋の店員。店のカウンターへ近寄る藤平達也(38)
藤平『先ほど 電話した者ですけど。白系のお花をお願いできますか』
店員『今 季節のゼラニウムや ガーベラ、カサブランカはどうですか?』
   藤平ポケットからスマホを取り出し、メッセージをチェックする。
藤平『大人っぽい感じがいいですね』


   藤平、スマホを見てる。ため息がもれる。金森花音(36)から電話が鳴る。
花音の声『今、目黒だからどこでも行くよ。私は飲むだけでいいから』
藤平の声『とりあえず、渡したい物もあるし目黒いくよ。お家なの?』
花音の声『うん、分かったよ』


   藤平、花音へゼラニウムが入った花束を渡す。花音、床に座りこむ。
藤平『花音のために用意した花だから。お互いに時間が必要なのかもしれないね』
花音『なんか残念な気持ちでいっぱいだった』
藤平『俺も残念な気持ちだよ』
花音『達也が出た後、お風呂場辺り香水の匂いがずっと残ってた。私が香水嫌だと言っても、うん、じゃあ付けないよと言っても。だから もう良いよ。。。しばらく着けなかったのは花音が嫌と言ったからと言ってたよね?』
藤平『ごめん。。。』
花音『また言ってる事、やってる事が違う!もういいよ、もう言いたくない。自分の好きな風にしたら良いよ。相手が嫌がる事はしないと言うのがお互いのマナーだったのに』
藤平『半年のアニバーサリーは気にしないんだね?もう良いよなんて。。。どうでも良い事なんてないのに』
花音『アニバーサリーなのに。私は達也が嫌と言った事 気を使っているのに』
藤平『またアニバーサリーは意味なくなるね。もうアニバーサリー終わっちゃうよ』

   風香の部屋の中。藤平が花瓶のゼラニウムに気づき、うつむく。
藤平『一年前、お祝いする事が出来なかった後気付いたのは、彼女がゼラニウムの香りが嫌いだった事でした』
氷川『ローズのような華やかさとともに、グリーンな印象を持ち合わせているのが特長です。単純に香りの好みじゃない場合もあるかもしれませんが、ゼラニウムを潜在意識が拒否している可能性もあります』
藤平『だとしたら、その原因は何でしょうか?』
氷川『女性ホルモンの関係です。「感じる」アンテナをしまい込んで何も感じないように心を閉ざしていませんか?誰でも心に傷をおうと、次は傷つかないように心を閉ざしてしまいがちです。すると感性そのものが閉じ込められていまい、美しさ、楽しさ、喜び、ワクワクする心の動きを感じられなくなってしまいます。
そんなふうに感じる心が渇いてしまっている時、ゼラニウムは心地よく感じられないことでしょう」

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