垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~
第17話 新たなる危機 12
週末は姉ともども三鷹台の毛利先輩宅に招かれていた。
ごたごた続きで機会を見つけられずにいた三島さんと橘さんの誕生祝いを開く。
お招きはそう言うお題目だった。
まずは僕より先にふーちゃんに話が通っていた。
そのこともあり、何やらきな臭い裏があるようで正直気が進まなかった。
だがしかし、元より僕に否やを言う資格や権利があるわけもない。
驚いたことにふーちゃんが毛利邸を訪れるのは、これが初めてのことでは無かった。
むしろ僕の知らない半年の間に、三人娘と姉の間にはかなり親密な関係性が結ばれていたようだ。
考えてみると僕が三人娘とはコンタクトを取らなかった休日や週末のこと。
荒畑や上原と遊んだ後ご機嫌で帰宅すると、三人のうちの誰かやメンバーがまるまる家にいるなんてことはしょっちゅうだった。
アキちゃんなんて呼んでるところを見ると、最近は秋吉もちょくちょく遊びに来ているのかも知れない。
ふーちゃんは人見知りのくせに昔から女性限定で妙なカリスマ性がある。
弟の口から言わせてもらえればだよ。
「どこの誰が人見知りだってーの。
単に男に不慣れなお調子者の箱入り娘ってだけじゃね?
男に対しては内弁慶と言っても差し支えのないくらい自意識過剰なくせしてさ。
その実身内には姉御肌。
知らない人には、外向き限定の姫様仮面で猫を被るとんだ食わせものってこった」
思えば子供の頃から、双葉愛好家みたいなコアなファンや支持者がゾロゾロといた。
学校の同級生や後輩、先輩や近所のおばちゃんまでね。
婦女子だけと言う小さな世間の内だけではあるけどな。
ふーちゃんが好事家達に君臨する人気者なのは確かさ。
ふーちゃんは毛利先輩と同窓で小学校から女子校育ちだから、同年代の男子とはそもそも接点がない。
御令嬢と言うとまったくあれだけどね。
弟と父親以外の男性とあまり接することなく、ほとんど奥行きのない深窓でまったり過ごしてきたことは間違いない。
一方、毛利先輩はと言えばだな。
この方はもう正真正銘、何処に出しても恥ずかしくない鑑定書が付いた御令嬢だ。
先輩はそのまま今日にでも社交界に出荷できる珠ってのは確かさ。
先輩はふーちゃんと違って、ちゃんと奥行きのある深窓で育った。
だけど先輩はそこに籠ることはなかったし、男性不耐性と言う訳でもない。
ただ、家庭生活やだいだらぼっちの仕事関係でお付き合いのある人達はおろか、学校に集う同窓生や先生に対してだってだよ。
それこそ性別を問わず、お愛想程度にしか興味が無かったんですと。
先輩に言わせれば、毛利ルーシーはシニシズムにどっぷり染まり切った、嫌ったらしいガキだったってことなんだけどね。
「僕、納得です!」って元気よく言ったら、そっこー引っ叩かれたっけな。
マジで。
そんなニヒリストルーシーだからだろうね。
小学校の時も“なんちゃって”有名人だった上級生のふーちゃんには全く気付かなかったみたいだ。
もっとも姉にしたところで有名と言っても元々が目立つ存在じゃない。
一部フリークの愛玩的嗜好対象に過ぎない“なんちゃって”なのだから、先輩が知らなかったのも無理はない。
ふーちゃんだって、目立ちに目立っていたはずのハーフの美少女。
毛利ルーシーのことは良く知らなかったらしい。
下級生にお人形さんみたいに可愛らしい子が居るくらいの認識だったそうだからね。
どっちも社会性にちょっと問題がありそうなのは確かだろう。
ジュリアをこじらせて以来、ろくに友達がいたためしのない僕が、こんなこと言えた義理でもないけどさ。