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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 37

 なんとなればシスターは、同窓の諸姉を僕から遠避けたい。
そんなおおべらぼうな“あきれたがーるず”の内輪な意向を果たす。
ただそれだけを目的として、ガードの為に送り込んだ手下の教師を動かしたんだよ?
有る事無い事こき混ぜて、僕の悪評をふれて回ったってわけさ。
どいつもこいつも、僕の事をいったい何だと思ってるんだろう。

 シスターを脅し上げる余勢を駆って『怒ったゾ!』的な抗議がてら先輩を糾弾してみたものさ。
すると先輩はよくぞ聞いてくれましたみたいな?
明るい笑顔を僕に向けちゃってさ。
キラキラ光る大きな眼と艶のある唇から覗く真っ白な歯が眩しいくらいだったよ。
そうしてそれは嬉しそうに語るんだ。
シスター藤原のたってのお願いに始まる橘さんによる状況の策定から丸投げまでね。
先輩はそれこそ包み隠さず陰謀の全てを教えてくれたものさ。
やっぱり橘さんが一枚噛んでいたよ。
 状況の策定といっても橘さんは陰謀の方向性をそれとなく示唆しただけというからね。
陰謀を具体化して状況を開始したシスター藤原も、エスピオナージにかけては相当なタヌキと言うことだね。
千年という年月の間、所を変え品を変え繰り返してきたミッションインポッシブルは、伊達じゃないと言うこったろう。
 先輩はシスター藤原が差配する事の全貌を、つまびらかにしてくれた。
まるでトラファルガーの海戦に思いを馳せるビクトリア女王の様な晴れやかな口調でね。
容貌的には残念なビクトリア女王と違い、先輩にフル装備されている完璧な美貌の面にはだな。
勿論、罪の意識を感じさせるような影はひと差しも無かったよ?

 僕には全く意味の分からないそうした悪辣な裏工作が従来の醜聞を更に煽り立てた。
そんなんで学校における僕の悪名が地に落ちる程度で済むはずがないよ?
僕の悪名は今や地下三階くらいまで潜り込みそのまま絶賛沈下中という有り様なんだぜ。
 在校生ばかりか新入生にも僕の悪い評判は漏れなく伝わったようだ。
シスター藤原の手下として働く教師や先輩同輩諸姉諸兄の誹謗中傷の成果は、実に効果的だった。
僕を見る新一年生の目を見ればよく分かる。
中でもまるで凶状持ちを見る様な女子の視線は、破魔矢が当たればかくやと言う鈍痛となって僕を苛む。
 「あの人が練鑑帰りの先輩、加納某よ。
陰湿な乱暴者で本物の不良らしいわ。
おまけにチビでベビーフェイスのくせに、ロリから熟まで女なら何でもありなんですって」
要約すれば、それが彼女たちに植え付けられた僕に対する認識だった。
おかげさまで現状、生物部に入部しようと言う酔狂な新入生はただの一人もいない。
練鑑帰りをちょっち自慢にする僕としてはね。
凶状持ちについてはまんざら嘘と言い切れないところもあるし漢の勲章的な?
そんな惚けた了見が無いと言ったら嘘になる。
だからと言って本物の不良だとか。
ロリから熟まで何でもありだとか。
そんなデマを飛ばされて『左様ですか』と納得できるものではない。

 世を拗ねて。
歪み切った心が見た夢だと気付かぬまま。
間違った処世で世間と殴り合ってきた夏目ではある。
だがスコットランドの名匠によるドナムで改心したとて、やはり無事卒業とはならなかった。
家庭の事情で急きょ留学が決まったという大ぼらが、シスター藤原の指揮のもと大々的にでっち上げられた。
夏目は卒業式にすら出席できなかった。
 “あきれたがーるず”の怒りがあまりに凄まじかったので、シスターとしては困り果てたに違いない。
それでも夏目をOFUの外に出すわけにはいかない。
シスターとしては、どうしてもクビに出来ないわけあり社員を、最果ての僻地に飛ばしたくらいの心積もりだったろう。

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