J3 第6節 レビュー【鹿児島ユナイテッドFC vs テゲバジャーロ宮崎】空き地活用
2021.4.25 J3 第6節
鹿児島ユナイテッドFC vs テゲバジャーロ宮崎
こんにちは。
今回もご覧いただきありがとうございます。
J3は一週間のお休みウィークを経た第6節。我らがユナイテッドは宮崎とのホーム戦でした。
今節は、バトルオブ九州と九州ダービーに加え、南九州ダービーの名称まで出てきました。個人的には南九州ダービーの響きが感慨深いので、採用して欲しいのですが、熊本戦から引き続き、頑張れメディア各位。
宮崎はというと、 開幕5戦で3勝1分1敗の勝ち点10と、上々のスタートを切っています。プレー基準が整理されており、個々の能力も高いチームの印象でした。
今節も自身のストロング/ウィークや、鹿児島のストロングを消すために振る舞っていたように思います。特に前半、面白い試合でした。
早速、試合を振り返っていこうと思います。ご笑覧ください。
0.スターティングメンバ―
まずは鹿児島のスタメンから見ていきます。
前節からは、フォゲッチ・野嶽寛・五領がそれぞれ衛藤・酒本・牛之濱に代わって入りました。衛藤と牛之濱がベンチ外だったのが気になりますが、理由はどうあれ今節フォゲッチと五領が入ったのは納得出来ています。理由は後ほど。
一方で、野嶽寛がここで復帰には少し驚きました。というのも今日の相手は、ゾーン3でハイプレスを仕掛ける+SBのオーバーラップをボール保持局面で基本としている宮崎。ビルドアップでの技術やキックの精度が高い酒本のままの方が効果的なのでは?と思っていたのです。
結果的には、野嶽寛の良さも物足りなさも感じた内容でした。個人的にはトップ下で使えば彼のストロングを最大限に出せるのでは、と思っています。単純にピッチ上での貢献のみを考えればという前提ではありますが。
そして、ベンチには新加入の山本・木出がメンバー入り。山本は初出場となりましたが、悪くなかったと思います。ただ、投入時のチーム状況が輝ける状態には無かったと思うので、今後も見守りが必要ですね。
一方の宮崎。
スタメンには変更なし。内薗がメンバー入りしましたね。良かった。
宮崎のメンバーですが、まず言及すべきは25番梅田でしょうか。最前線、ゴール前での仕事も出来れば、相手の急所に顔を出して運んでチャンスメイクも出来ます。メッシやん。
そして7番千布。特にGK植田を含めたビルドアップを行う時、相手FWに選択肢を与えるポジショニングを取っていて、植田も有難いだろうなあと思いながら見ていました。
加えて左サイドの11番藤岡・21番大熊のラインは、前後・内外の関係性をスムーズに移行出来ていて脅威となっています。
そんな宮崎の面々。
試合を通じて、ストロングを最大化・鹿児島のストロングを最小化するために挙動していました。
1.宮崎の思惑
先ほども言及した通り、左サイドに脅威を持つ宮崎。加えて、鹿児島のビルドアップの要である砂森・チーム内得点王の米澤がいる鹿児島左サイドを封じたかったのではないでしょうか。
その関係性がガッチリ嵌り、宮崎の左サイドで優位を得たい思惑が見えていたのが、セットDF時です。
まずは鹿児島左サイドでのお話。
基本的に宮崎は、ゾーン2で4-4-2のブロック形成を優先させます。実況の方が宮崎に対して「(予想に反して)あまりハイプレスを掛けません。」と言っていましたが、このゾーンではこれまでの試合でも積極的にはハイプレスしていなかったように思います。
それが基本形だったのですが、前述のように右サイドからは攻め込まれたくない宮崎。低い位置で田辺のサポートに回った野嶽寛には、ブロックを崩してでも宮崎DHが付いていき、田辺の出し所を潰していました。
五領がサポートに来ても宮崎CBが付いてくることから、田辺はパスの出し所が無くなり、そのままウェズレイに展開してビルドアップをやり直します。
さらには、ウェズレイに展開した後。
野嶽寛に付いていた宮崎DHもブロック形成に戻ります。一方で左SHの11番藤岡は、2ndライン形成を放棄しフォゲッチまでアプローチ。
ハイプレスに弱い鹿児島のビルドアップ(J3のチームほとんどに言えますが)に対して認知的な負荷を掛け、宮崎左サイドでボール奪回しようとしていました。
このことで宮崎は、①鹿児島の左サイドを塩漬け②11番藤岡が高い位置取り③ストロングである左サイドでポジトラに移行、というメリットを得られます。
宮崎としては、右サイド→左サイドに誘導を前提としているので、ブロックの横スライドは意識的に行っていたように思います。しかし現実的には、スライドが間に合わないこともあり、鹿児島は右サイドで攻勢に出られる場面が多くなります。
特に開始15~20分頃までは意図的に、宮崎の思惑を裏返していたように思います。
2.裏返した鹿児島
前節以前の試合を見ても宮崎は、SHが2ndラインを放棄してでも攻勢に出るorリスクケアしていました。
なので対戦前には、①ハイプレスで宮崎ビルドアップ隊のミスを誘う②SHを誘導した上で③トップ下の位置取りで急所を突ければいいなと考えていました。今節は宮崎が自らSHを動かしてくれていたので、トップ下の位置取りが重要でした。
そのトップ下に入った五領。
彼の位置取りが先制点に繋がったと思います。
前述のように、11番藤岡が最前線までプレスに出る宮崎。それにより穴の開いた宮崎2ndラインを突けたのが先制シーン。空き地活用です、はい。
ウェズレイ→中原→五領と繋ぎ、上図の黄丸のスペースで受けます。さらに11番藤岡が五領にプレスバックし、五領→フォゲッチへ。ここで2度視線を変えられた11番藤岡含む宮崎2ndラインは、動きが止まります。
そして3人目、野嶽惇にロングボールが送られた時には、野嶽惇と21番大熊の1on1の構図が出来上がっていました。
その1on1に勝った野嶽惇からパスを受けた萱沼が難なくゴール。この場面に限らず、ここまで野嶽惇が1on1で勝てると思っていませんでした。
ごめんね、惇也。
話は戻って、SH裏を突いた五領。彼はこれまでにもトップ下で、列を降りてサポートに回るプレーがよく見られていました。その意味で、SH裏に降りたのは言わば「いつも通り」だったのかもしれません。
また、11番藤岡がCBまでのプレスを余儀なくされた時は、フォゲッチがSH裏を取る場面もありました。これもインナーで位置取り出来る彼の「いつも通り」だったと思います。
よって宮崎対策の意味合いでは、ライン間で待てる牛之濱や、大外を滑走する衛藤より、五領とフォゲッチが適任である試合でした。牛之濱と衛藤がベンチ外である理由は分かりませんが、結果的に采配としては2人の起用は妥当、序盤の優勢を作ったと言って過言ではないと思います。
3.狙われたSHとコンパクトネス
その意図的な攻勢も長くは続きません。
宮崎が対応してきます。狙われたのは、SHのトランジションでした。
如何にしてSHのトランジションを突いたか?まずはサイドチェンジです。
鹿児島はゾーン2まで前進されても前プレが基本形。前4枚とDH、時にはSBまで高い位置を取っていました。
上図のシーンでは、前4枚が高い位置を取っています。これでサイドに封じ込められたら良かったのですが、揺さぶりやDHが落ちていることもあり、3番井原にプレスが掛かっていません。
そこで3番井原は逆サイドの11番藤岡へサイドチェンジ。
野嶽惇は前プレに出ているため、21番大熊のオーバーラップに対応出来ません。よって、フォゲッチは2人相手取ることとなり前進を許しました。
さらに、もう一つがこちら。
ここでも鹿児島は、ハイプレスを敢行中。しかしプレスが連動せず、広大なスペースを3人で追うという構図になっています。
そのプレスが奏功するはずもなく、剥がされてしまいます。また、ここでは米澤が前線に出ていたため、DH脇がすっぽり空いています。そこで幾度となくパスを受けていた23番徳永。オーバーラップしてきた22番綿貫と共に、砂森や鹿児島DHに判断を迫ります。これもまた空き地活用ですね、ええ。
特に第2~3Qでは疲労からか、間延びしたことでSHのトランジション距離が延び、上図のような場面が増えていたように思います。
またビルドアップにおいてもトップ下のサポートが少なくなり、フォゲッチが単騎突破を余儀なくされることや、そのまま前線で待つ選手へクロスを放り込むだけの展開も多くなります。
コンパクトネスを保つために前プレを断念すべきだったのか、選手交代などで前線のプレスに合わせるべきだったかは分かりませんが、パパス監督の思想的にこういったオープンな展開は避けたいところです。
個人的にはS&Cも来たところで、夏の中断期間明け頃には運動量ももう少し増えれば良いなと思っています。
4.薗田と酒本の投入
第4Qにはゾーン2ではリトリート主体になりました。
また、第3Qには萱沼に代わって薗田、第4Qには五領に代わって酒本が投入されます。
これにより、前進~崩しにも変化が生じます。
薗田の特徴は、最前線・中央で待ち構えてCBをピン留めする・ゴール前で仕事をするといった「CFっぽい」特徴があることは、これまでにも触れてきました。
最近のCF選考は、流動的に動く萱沼を起用し、前進しやすくしようということだと思っています。
またこの試合、酒本はライン間で待ち受けることが多く、五領のように下がってサポートという機会は少なかったと思います。牛之濱っぽかったですね。さらに高い技術で、密集の中でも展開が可能になりました。
いずれにせよ、最前線・中央とその周辺でプレーしようとする選手が投入されました。このことで、大外に張り続けることを許されたSH。
特に宮崎に左サイドを封じられていた米澤は、大外から1on1で勝負をする機会が増えました。決定的な機会を作るまでには至りませんでしたが、SHの優位を活かせる展開だったと思います。
どちらが良い・悪いではありませんが、やはりチームの完成度が上がるにつれてこのような前進をしていきたいなと思う次第でありました。
5.あとがき
そんなこんなで攻め込まれる場面はありながらも、虎の子の一点を守り抜いて勝利。戦術的にも見応えのある試合でした。
しかし宮崎は、昇格年とは思えない完成度ですね。
次回対戦時にはこちらも、もう何段階かレベルアップせねば。
来週は盛岡戦ですね。暫定2位なんですが、まだ全然試合を見てません。
いずれにせよ優勝争いに加われるか、後退かを占う一戦ですので勝ちてー!しか考えてないです、今のところ。
来週もよろしくお願いします!