J3 第17節 プレビュー【ブラウブリッツ秋田 vs 鹿児島ユナイテッドFC】カオスを設計する
2020.9.22 J3 第17節 プレビュー
ブラウブリッツ秋田 vs 鹿児島ユナイテッドFC
すっかり涼しくなってきましたね。
開幕が遅れたリーグ戦も、次節で折り返しです。
前節のYSCC戦は逆転を喫する苦しい試合になりました。
しかし、落ち込んでいる暇はありません。
すぐに次の試合がやってきます。
折り返しの試合は、押しも押されぬ首位秋田。
厳しい試合にはなりそうですが、秋田の特徴を見ていきたいと思います。
今回は数試合を分析しましたので、前回のプレビューより精度は高まっているはずです!
ご笑覧ください。
1.ブラウブリッツ秋田 直近の状況
秋田は、直近5試合で3勝2分。8月はドローが多くなりましたが、未だ無敗で12勝3分の首位を走っています。
一方で、今季チームトップの4得点をマークしている9番中村がハムストリングス肉離れで6~8週間の離脱の見込みとなっています。9番中村を欠いてもなお黒星を付けない秋田ですが、痛手になっているのは間違いないでしょう。
また、数字を見ても特徴が明確に現れています。
まずはショートカウンターの使用率。他のJ3チームと比べ、圧倒的な高さを誇るほか、ミドル/ロングパス・空中戦の使用率も高く、ロングパスによるシンプルな攻撃パターンが垣間見れます。
一方で、ポゼッションによるチャンスメイキングはリーグ下位に位置しており、ボールを奪ったら速い攻撃を徹底していることが窺えます。
2.直近のスターティングメンバー
最近のスタメンは以下の通り。
ベースは4-4-2~4-4-1-1と表せそうです。
GK、DF、MFは1人程度の入れ替えでほぼメンバーは統一しています。
一方で、前線2トップは、13林・26田中・29齋藤・16井上から種々の組み合わせで出てきます。前線は途中交代も多くなっています。
また、最近は途中交代で投入される11番久富などもスピードがあり、フレッシュな状態で入ってくるのが厄介な選手です。
それでは、秋田の戦い方を4局面に分けて見ていきます。
3.秋田の戦術
3.(1) ボール非保持
(1)-1 プレッシング
まずはプレッシングです。ここは構えるゾーンによって対応が異なります。
① ゾーン1
最前線では攻撃的にプレスを仕掛けます。GKまで追うことはあまり無いですが、CBに対してはFW1枚と片方のSHまで出てきてプレスを掛けます。
一方で、もう1枚のFWは相手DHとお付き合いして、ビルドアップのコースを消します。鹿児島で言うと、田辺のところですね。
よって、システムとして表すならば4-3-3に近い陣形になります。
最終ラインも高めの設定ですが、最終ラインは身長もあり、ビルドアップを省略してロングボールを蹴られても、対応可能な設計になっています。
②ゾーン2~3
ゾーン1での守備が実らず、前進された中盤以降では、1stラインから激しいプレスはせず、ペナ幅程の幅でブロックを敷きます。陣形もベースの4-4-2に近くなり、FWの1枚と相手DHがお付き合いもしません。また、FWの相手CBへのプレスはほとんど無くなります。行ったとしてもあまり意味のある規制は掛けられていない印象です。
一方で、後ろの4-4ブロックもアグレッシブにアプローチし、人に食いつきやすいので、対戦相手としてはプレス後の空いたスペースを使えた場合には比較的楽に前進出来ていました。
もっとも、秋田の激しいプレスに前進出来ず、空いたスペースを繰り返し有効に使えなかったチームが多いので、安定した強さを誇っている訳ですが。
また、時間経過とともに疲労が溜まることで、序盤ほどの激しいプレスは難しくなります。そこで、ゾーン1からのハイプレスを取りやめ、ゾーン2まで撤退した守備に切り替えることをチームとして意識出来ていると思います。
それでもFWやSHの消耗が激しいので、交代は前線4人が多くなり、交代によってハイプレスも復活します。
しかし、ファーストプランであるハイプレスが難しくなった時の「プランB」がチームとして意識共有されていることは、今季失点わずか4という数字に繋がっていると思います。
(1)-2 組織的守備
続いて、撤退した後の守備についてもう少し触れたいと思います。
プレッシングのスイッチはSHが入れます。
4-4-2ミラーで考えると、相手SBにボールが入ったタイミングでのプレスというのは一般的な考え方ですが、恐らく秋田は、後述する前進の設計からして逆サイドに展開され、スライドを強いられる守備を嫌がる傾向にあるのかなと考えています。
そのため一旦相手SBにボール入ったら、FWもCBに対してプレスを掛け、逆サイドに展開されないよう振る舞います。一方で、ボールサイドに体を向けた相手DHに対しては、緩めの対応となります。
ここでは、もう少し切るコースを統一出来れば良いのですが、細部が甘く逆サイドへの展開を許す場面も見られます。
仮に、逆サイドへの展開が成功したら秋田はスライドを強いられますが、スライドの意識も高く、フワッとした山なりのキックだと詰められてしまう可能性があります。
そこで、サイドチェンジは出来る限りライナー性の低い弾道でキックしたいところです。
次に、守備の奪いどころです。
基本的に上記の考え方や対人能力でボール奪取するというコンセプトはありそうですが、最終的にはゴール前で跳ね返せればOKと考えている気がします。
前述の通り、ロングボールやクロスを跳ね返せるCBや、機動力のあるSB等を配置しており、現存戦力に合わせた合理的な戦術だと感じます。
3.(2)ポジティブトランジション
続いて、ポジトラです。
ここが特徴的な構造です。"カオスを設計"しています。
奪ったゾーンで分けて考えていこうと思います。
(2)-1 ゾーン1~2
ゾーン1~2でボール奪取出来た場合、ボールホルダーは基本的にFW目掛けてロングボールを蹴ります。そのボールは相手CBによってクリアされることが殆どですが、そのクリアをSHやDHが拾い、前進するというパターンが大枠として確立されています。
この時、守備時にボール回収役のSHやDHの間隔が広がり過ぎていると、ポジトラにおいてFW付近に到達するまでの時間が掛かり、クリアボールの回収が難しくなるので、組織的守備では逆サイドへの展開を許したくないのではないか、という推察が成り立ちます。
その時々の盤面やクリアボールの方向・大きさなどで各々のタスクは変わってきますが、速いトランジションの中で生まれるカオスを活かして相手を混乱に陥れるのはクロップレッズと似たコンセプトの源流を感じます。
またこの時、相手SHなどが攻め残りしてトランジションから排除されている間に行う、数的有利を活かした配置とボールホルダーの選択は見事だと思います。一例は以下の通りです。
付け加えて、GKから攻撃に転じる場合は、味方を押し上げさせてから時間を掛けた後、ロングボールを放ります。構造に大きく変わりはありませんが、再現性の高いシーンですので、セットプレーのような位置づけで、しっかり自分たちの得意な状況からスタートしよう、という考えかと思います。
(2)-2 ゾーン2前方~ゾーン3
ゾーン分けが微妙ですが、ゾーン2前半分ほど以遠で奪った時のトランジションです。
ここでもシンプルにFWを目指すこともありますが、相手SBも高めの位置でトランジションを強いられることが多いので、それならばその裏を使おうという意図も感じました。
(2)-3 その他
今回は4-4-2を採用している沼津戦を参考にして、最も効果的になり得るであろうFW宛のロングボールに言及しました。
しかし、3-4-2-1を採用しているC大阪U-23戦ではSHを主なターゲットとすることで、相手WBの上りを牽制するような戦術を採用していました。
これにより、保持時に5レーンを埋めにくくなったC大阪は、システムの妙を活かしきれず苦労していたように思います。
このように、自分達の長所からの選択だけではなく、相手の長所を最小化するためのターゲット選択を行っています。主になるパターンは試合中に変えていくことも可能かと思いますので、守備側にも柔軟な対応が求められます。
3.(3)ボール保持
さて、ポジトラを踏まえた上でのボール保持を見ていきます。
まずは崩しについていくつかの状況に分けて述べた後、ビルドアップについても軽く触れようと思います。
(3)-1 ファストブレイク
秋田が最も狙っている、脅威な崩しの形です。
前述のようなトランジションですので、秋田の展開に持ち込まれるとオープンな試合になります。ロングボールのクリアを間延びした相手陣形のライン間にてSHやDHなどが前向きで受けると、得点のにおいがしてきます。
下記のような形を作れると、秋田としては最良かと思います。
間延びしているに加え、FWのロングボール対応にCB、カバーにSBが入り、DFラインが図らずも中央圧縮の形になることも多いです。
そのため、SHにスペースが空きエリア内へ侵入することや、SHにプレスへ行って横に広がったところをFWやDHを使うパターン、逆サイドのSHを使うパターンなどが考えうるかと思います。これはSBの位置が変わるだけで、ゾーン2以遠でボール奪取した時も基本的なロジックは同じです。
このようなパターンでの得点は数多いので、このようなパターンは生じないよう陣形の管理をしていきたいです。
(3)-2 遅攻
次にファストブレイクは叶わず、上手く遅れさせられた場合です。
正直このパターンでは、単調に前へ蹴り、容易に対応出来ているパターンも多いです。
しかし、SHが相手SHを引き連れて最終ラインに吸収させ、上がってきたSBがクロス送るシーンもありました。
敵としては、ある程度形を作られることは仕方ない部分もあるので、最後の部分で仕事させないことや、その前の攻撃を良い形で終わりたいです。
(3)-3 ビルドアップ
ここは軽く行きたいと思います。
遅攻の章でも述べたように、ポゼッションは得意としていません。
基本的には繋いで前進してくる局面は生じにくいのですが、トランジションの中で相手とCBなどとの距離が近い場合に、前線へ蹴り出せないパターンも時折生じます。
そういったパターンのサンプル数が少ないこともありますが、ビルドアップが不得意なのは同様らしく、陣形の変形もなく前進のルートは見えてきませんでした。
その結果、相手が前線からプレスに来たときは、高確率で1stラインを突破できず、カウンターを被る場面もありました。
しかし、ロングボールからの展開もあり、プレッシングが間に合わない場合は失点の危険が非常に高くなります。
であるからこそ相手としては、プレッシング来る?後ろで構える?という選択肢を受けた上で、秋田とのオープン合戦では分が悪いので、前プレにも行きにくい状況になっているのだと思います。
いずれにせよ、最終ラインからはロングボールが主と考えていて大丈夫かと思います。
3.(4) ネガティブトランジション
さあ、最後にネガトラについて触れていきましょう。
とはいえ、ボール非保持の章でも述べたことと似たような事項です。
ゾーン1で奪われた場合はDFまで猛然とプレスを掛けますし、ゾーン2以近では逆サイドへの展開を許さないようアプローチします。
少し事情が変わるのは、規制の方向がままならないことです。
ペナ幅程度でブロック形成した後の、隣の選手とのチャレンジ&カバーの関係がある程度担保される場合とは違い、戦術上間延びしがちなトランジションの局面では選手間の距離が遠いことも少なくありません。
この場合では、相手も広大なスペースの中、前進出来ています。
もっとも最後のところで好きにさせないタフさや個人能力により、秋田は堅守を誇っています。また、トランジション合戦は避けたいのでボールを落ち着かせたくもあります。
全てはトレードオフ。何を選択するか、チームとして意識共有出来るかが重要です。
「間延び」に関して
間延びする現象の理由に̪̪̪個人的な意見をもう一つ付け加えたいと思います。個人の妄想に近いため、時間の無い方は、読み飛ばして頂いて結構です。
結論から述べると、2nd-3rd間のスペースが空きやすい。
何故かと言うと、
①DFラインの強靭さ
それ故に、
②ポジトラ準備のポジションを優先
が要因かなと思っています。
恐らく、2ndラインの選手としては
①相手がロングボールを蹴ってきても、DFラインで跳ね返せるし頑張って下がらなくても良くない?
②ポジトラで頑張ってボール回収しに行かなきゃだし、そっち優先しようか
と考えると思います。いや、僕ならそうです。
秋田はチームとしてここまで設計しているかもしれませんが、時間経過と共にライン間が空いてくるような気がします。
僕の感覚では、戦術的にも、負担軽減のためにも、このロジックで距離が遠くなることもあるかなと思います。
4.対策
ようやくここまでやってきました。
考えうる秋田戦の対策を考えようと思います。
まず、秋田のサッカーを一言でまとめると、ハイプレスとカウンターが脅威で、高い運動量を必要とするサッカーと言えそうです。
ちなみに秋田の連勝が止まったのは、8月中旬のミッドウィークG大阪U-23戦。
真夏の連戦で高い運動量を必要とするチーム設計に無理が出たことは容易に窺えます。
しかし、気温が下がってきたここ最近。
しかも東北アウェイ秋田での試合。
どうやら気候と日程くんは味方してくれないようです。
ならば自分達のみで勝利を手繰り寄せるしかありません。垣間見えた少ない秋田の弱点を振り返ります。
①人に食いつきやすいディフェンス
②規制の方向が曖昧なプレス
③中盤裏の間延びするスペース
④不得意なビルドアップ
⑤カオスの不確定要素
こうして見たら結構突けるところあるな!と思ってしまいますが、②以外はトレードオフ。裏を返せば、秋田の長所になります。唯一残った②もプレス強度でカバーしてしまうので、難攻不落感が増します。
確かに厳しい相手ですし、ミス1つ許してくれないかもしれません。
でも、やれることはあるはず。
いくつか考えてみたいと思います。
願望スタメン
メンバーを考えてみようと思います。
完全に私見です。
ベースのメンバーは前節のスタメンで考えていきます。
個人的な意見ですが、オープンな展開にはしたくありません。秋田の得意な展開に持っていかれるのが最も危険だと思います。
そこで、DHの一角に機動力のある二ウドというよりは、よりポジショナルに前進できる中原の起用が望ましいかなと思います。
一方で、今季秋田の失点はゾーン3で構え、FWの規制が掛かっていない4-4ブロック前からのミドルが多いです。そうなると、二ウドの一発に賭けたい思いもあります。
それぞれの長所を見極め、展開により交代策を講じていければベストです。
また、そう簡単には繋いで前進させてくれないと思うので、こちらもハイプレス回避に直接ロングパスを送るターゲットが欲しいです。
ここは難しいですが、期待も込めて前節ゴールを挙げた馬場に代えて萱沼を推したいなと。
そして、サイドチェンジのターゲット、そして視線を固定する斜めのクロスを入れられる選手も入れておきたいです。
試合中の速いクロスはまだ見たことありませんが、単純に期待するならフォゲッチ欲しいですね。
以上を踏まえた願望スタメンがこちら!
ズレが生まれるプレッシング
ボール非保持の章で、ゾーン1からのプレッシングについて触れましたが、規制が曖昧な故、CBでボールが回せると以下のような場面が現れます。
FWの一角がDH(鹿児島の場合、田辺)とお付き合いするため、前線のマークが1枚ずつズレて2枚のCBへFWとSHが対応するパターンです。こうなると、SBが自由に持つことが出来ます。
その後は、CBに対応した秋田SHが全力でプレスバックか、DHがプレスに来ると思いますので、空いたスペースを順に使っていきたいです。
人への強い意識と酒本
落ちるFWに対し、秋田CBが2ndライン前まで出てきて対応する場面も過去の試合からは見られています。
タイミング良く下がって、サポートしてくれるのは酒本のいつものお仕事。彼を活かさない訳にはいきません。
酒本に当てて、レイオフ。そして秋田のハイライン裏を使って、米澤のお決まりパターンや萱沼のゴールも期待したいです。
また、図は秋田2ndラインの高さまで落ちていますが、状況によって2nd-3rd間を狙う判断をしていきたいです。
5.あとがき
秋田の戦術を見てきました。
そんな本記事のヘッダーに設定した画像は、カオス性を持つローレンツ方程式の解軌道です。
カオスの定義(一部抜粋)
ある初期状態が与えられればその後の全ての状態量の変化が決定される系を力学系と呼ぶ。特に、決定論に従う力学系を扱うことを強調して決定論的力学系とも呼ばれる。カオス理論において研究されるカオスと呼ばれる複雑で確率的なランダムにも見える振る舞いは、この決定論的力学系に従って生み出されるものである。
選手の動きはチーム戦術に準拠します。
しかし、チーム戦術で行動がある程度制御されていたとしても、選手の精神状態、身体的コンディション、周囲の選手との関係性、気候、ピッチ、観客の反応など様々な要素に左右され、多様なピッチ上の現象として現れているんだと思います。
結果、様々な要素に左右された現象は一見ランダムに見えるけども、決定論的法則(チーム戦術)に従い、一定の法則性を持って運動しています。
秋田がアウトプットしている現象を見ていると、サッカーで垣間見えるカオス理論の要素が少しだけ理解できる気がします。
そんな秋田に対して、鹿児島にとって厄介な不確定要素を少しでも排除して、ゴールに近づけそうな鹿児島の現実的な対策例を書き出してみました。
前節に見た通り、実際にゲームプランを遂行することは、生半可ではないどころか非常に難しいミッションなのも理解しているつもりです。
しかし、これまで築いてきた鹿児島の決定論的法則に従えば、チャンスはあるはずです。
本当に厳しい試合になるとは思いますが、勝利で締めくくることが出来ればと思います。
大多数の我々サポーターに出来るのは祈ることだけ。
しかし、それがバタフライエフェクトとなって、鹿児島に勝利をもたらす1つの要素になる!かもしれません。
アウェイでの試合ですが、チームを信じて、想いを乗せて、
共に闘いましょう。
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