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J3 第26節 レビュー【鹿児島ユナイテッド vs ロアッソ熊本】偶然という必然
2020.11.7 J3 第26節
鹿児島ユナイテッド vs ロアッソ熊本
快勝。
勝利もそうですが、ほぼ1か月振りの得点でした。
しかも4得点。
ケチャドバって不思議ですね。
試合後には金監督も「なにかが違ったのだろう」とコメントを残しましたが、私なりにピッチ上で起こった事象からいくつかの要因を推察しました。
今回はその要因も折り混ぜながら、「鹿児島の熊本対策」、「大西の復帰と先制点」、「熊本の対応」の3点について言及していこうと思います。
見ていきましょう。
0.スターティングメンバー
と、その前にスタメンから振り返ります。
両チームのスタメンはこちら。
まずは鹿児島。
大西が帰ってきました。大西について詳しくは第2項で述べます。
さらに富山戦からは田中、馬場がスタメン復帰。
特に驚きはないですね。
続いて熊本。
前節八戸戦からは8番上村から19番相澤に変更。
ターンオーバーの側面が強そうです。
中盤のトライアングルの向きは試合に依りますが、今節は正三角形。
鹿児島がビルドアップにおいて、主にDH1枚が最終ライン近くに位置するので、プレッシングがハマりやすくする目的があったと思います。
全体的には、両チームともいつも通り。
特に熊本はよくオーガナイズされているので、自分たちの形を出せる、最も信頼できるスカッドで挑んだのだと思います。
1.鹿児島の熊本対策
そんな熊本に対する鹿児島の対策。
オーガナイズされている分、占領したいスペースは明確なので、対策の前提は設定しやすかったのではないかと思います。
そして、試合でアウトプット出来るまでに落とし込めるのが、金監督。
いくつか取り上げていきます。
1-(1) SHの外切り+コンパクトな4-4ブロック
熊本の前進は、大外のWGやSBにパスを供給することで、SBが対応→広がったハーフスペースを活用するという目的があります。まあ、セオリー通りです。
これを断絶するために重要だったのがSHの外切り。その1例が上図です。
SHが大外へのパスを防ぐよう立ち位置を取り、ボールホルダーを誘導します。
さらにはコンパクトな4-4ブロックを維持することでブロック内への侵入は難しくなり、大外へパス供給されても突破やサイドチェンジは困難という局面を生み出しました。
これにより熊本は無造作に蹴る他なくなり、前進が難しくなっていました。
1-(2) 5バック化
絶対大外使わせない鹿児島その2です。
上記の策も、トランジション局面などで陣形が乱れ、完全に遂行できるわけではありません。
絶対大外使わせない鹿児島その2は、前進を許してしまい、ゾーン1まで下がり待ち構える場合の対応です。
この時、SHは最終ラインまで落ちて5バックを形成しました。
SHのタスクはそろそろ労基法に抵触しそうですが、それだけ大外を使わせたくなかったのだと思います。
1-(3) ビルドアップ対策、ポジトラの狙い
次は、ビルドアップ対策です。
熊本は能力の高いCBとDH+GKで組み立て、他6人と前後で分断します。
これをされると、相手はハイプレスを発動させにくくなるんですね。
それを織り込んだ鹿児島は、基本的に2ndライン以降は無理な深追いはしません。
勿論、FWが上手く誘導しボール奪取出来そうな時や、熊本SB裏を使って効果的なポジトラに移行出来そうな時はDHやSHが捕まえに行く場面も見られました。
もっともSB裏活用については局面に問わず、多用していたように思います。
2点目のシーンも、鹿児島ボール保持事実に17番石川が前線までプレスに出た裏を米澤が活用出来たため、ロングボールを受けた米澤はCBと対峙できました。
その後、対峙したCBを振り切った米澤。
熊本のハイプレスの結果、最前線は数的同数でもあり、シュート対応に間に合いそうなのはもう片方のCB1人と、DHの戻りが速ければ、というくらいだったでしょうか。
実際にシュートになんとか間に合ったのは、3番小笠原のみでした。
米澤もある程度余裕があったので、落ち着いてコースを狙えていたと思います。
このように順当にスペースと時間を奪い、ゴール前で余裕を持ってシュートが出来ていたことは、得点が生まれた1つの要因ではないでしょうか。
2.大西の復帰と先制点
ゴールが生まれた要因だと考えられる「順当にスペースと時間を奪う」ことに関して、今節追い風になったのが大西の復帰でした。
彼の中・長距離パスから得点シーンに繋がったのが1・2点目。
2点目は前項で言及しましたが、SB裏を狙う米澤に的確な長距離のキックを供給できていました。(余裕なく蹴ったボールがたまたま、の可能性もありますが)
1点目も少し細かく触れようと思います。
1点目(ビルドアップ~得点)
1点目は大西がキャッチしたところから。
大西→砂森→岡本→砂森と繋いだところに、熊本2人を引き連れて左サイドに寄った八反田。
これにより、田中の位置が空きます。ありがとう、スーペル八反田。
そして八反田からバックパスを受けた大西は、空いた田中に蹴るのですが、プレスも掛かっている中で実際に遂行出来るのは高い技術が要求され、容易ではありません。
受け手の田中が触ったボールはタッチラインを割りますが、こうした場面の繰り返しが、有効な前進と得点に繋がったと解釈しています。
今節は得点シーン以外にもスーペル八反田が見られたのですが、八戸戦レビューをお読みになった方は八反田最高!になったと思いますので、細かい言及は省略します。
崩しのシーンでは、むしろ酒本にスポットライトを当てます。
2nd-3rdライン間で受けた酒本は、19番相澤と最終ラインに吸収されていた6番河原を引き付けて八反田にリターン。
この時点で、牛之濱と馬場がゴール前の広いスペースで1on1を出来る状態が出来上がっています。
八反田は中原に送り、中原のクロスから牛之濱の先制点が生まれるわけですが、広いスペースと時間に余裕がある中で勝負できる局面を生み出したことが得点に繋がったという仮説を支持するシーンではないでしょうか。
3.熊本の対応
前半は思うように行かなかった熊本。
HTに20番衛藤→2番黒木、11番浅川→18番高橋を投入します。
特に2番黒木の投入は、熊本に改善をもたらしました。
1例として59:45~のシーンを切り取ります。
鹿児島のクリアを拾った熊本。
前線で攻撃参加していた2番黒木は中央レーンに寄りながら位置を下げます。
これにマークの牛之濱が追走。WGの7番中原へのパスコースが空き、砂森が対応を強いられました。
このシーンは中央に寄っていきましたが、7番中原と内外・前後の関係を柔軟に取り、砂森を外に引っ張り出していました。
非対称のビルドアップ陣形
ビルドアップの陣形にも変化がありました。
陣形としては、2人のCBと2番黒木の3枚で最終ラインを構成します。
これに対して牛之濱は、黒木の自由を奪う為にFWと共に前線からのプレスを選択。大外へのパスコースを明け渡してでも好きにさせたくなかったのだと思います。
そして例によって7番中原へのパスが通りやすくなりまにた。
このような変化をもたらした2番黒木。
後半に攻め込まれた一因かと思います。
一方で右サイド。
非対称な陣形の為、左SBの17番石川は高い位置を取ることができます。
これにより、ビルドアップの基本陣形で空くことになったSB裏。
そのサイドがポジトラで威力を発揮する米澤側という幸運もあり、皮肉にも熊本の攻勢を支えた陣形は、鹿児島3点目の布石にもなりました。
ただこれも、ひたむきにSB裏を狙い続けた結果。
鹿児島の狙いが奏功したと捉えて大いに結構だと思います。
後半は大いに苦しめられましたが、陣形の噛み合わせとDFの健闘で1失点のみに抑えられました。
4.あとがき
その後、水本が4点目を奪い、4-1で快勝。
無得点が続いた中で、いきなり4得点。
遅ればせながら結果を見た時は、喜びと同時に驚きも強かったです。
話は変わりますが、今回のヘッダーは東日本大震災で周囲の7万本もの木々が津波に流されていく中、唯一倒れなかった「奇跡の一本松」
その姿は復興の象徴と捉えられ、今も保存のための活動が行われていることはご存知の方も多いかと思います。
一本だけ残ったのはまさに奇跡に思えますが、その松のサイズや、津波の衝撃を和らげた建物の存在など様々な要因が重なったが故に、倒れなかったと考えられているそうです。
その話を思い出して、偶然や奇跡に思える得点・結果も、やはりそれ相応の根拠があって起こることなんだなぁと試合を見返してしみじみ感じました。
そんな今節の結果、昇格圏までは勝ち点6差。
状況はやや好転しました。
しかし、まだまだ厳しい状況なのも事実。
ここから逆転するのにもまた、必然の奇跡を起こす必要がありそうです。
残り8試合。次節からまた闘いましょう。