J3 第17節 レビュー 【ブラウブリッツ秋田 vs 鹿児島ユナイテッドFC】聳える強大な壁
2020.9.22 J3 第17節
ブラウブリッツ秋田 vs 鹿児島ユナイテッドFC
聳え立った壁は強大でした。
準備した策は奏功しました。
あと一歩のところまでゴールに迫りました。
しかし、届かなかった1点。
勝点計算上、秋田相手にドローなら上等!とは言えないゲームになりましたが、勝ち越せなかった事実には鹿児島側の課題だけでなく、秋田の強さが隠されていると感じています。
双方、何が上手くいって何が上手く行かなかったのか、何を仕掛けて、どう対処したのか。
試合の流れから汲み取っていきたいと思います。
今回は、前半・後半それぞれを給水タイムで半分に区切り、第1Q〜第4Qと表記して振り返っていきます。
また、秋田の特徴を抑えていただきたいので、プレビューの確認もお勧めします!
それでは、見ていきましょう。
1.スターティングメンバー
まずは両チームのスタメンを振り返ります。
以下の通りです。
大きなサプライズは無かったように思います。
ロングボールのターゲットという視点からは前節の出来で考えると、萱沼でなく馬場というチョイスも仕方ないどころか妥当でした。
2.第1クォーター
万全の秋田対策
序盤に見せた鹿児島の秋田対策は素晴らしいものでした。
保持/非保持の2局面について言及します。
①ボール保持
①-(1) ゾーン1
まずはゾーン1からのビルドアップです。
プレビューでも示した通り、秋田は最前線ではFWが1枚降りてアンカーを監視します。今回、この役は26番田中が担っていました。
これに対して鹿児島は、田辺と二ウドを26番田中脇に配置して対処しました。
普段から同じようにポジションを取る田辺はともかく、二ウドの位置取りからはその意図を感じます。二ウドは普段からビルドアップ時のポジションの高さは田辺と同程度ですが、右に左にと縦横無尽に顔を出す印象が強いです。
しかし、この試合では専ら中央に位置しており、26番田中の脇にいることで、秋田のプレッシングに迷いを生み出そうとしていました。
①-(2) ゾーン2以降
ゾーン2以降です。①-(1)の方法でプレッシング回避した結果、ここでのボール保持も多い時間帯だったと思います。
プレビューを振り返ると、最前線でのハイプレスを潜られ、ゾーン2に前進を許した時の秋田は、純粋な4-4-2で構えることをお伝えしました。
こうなると、普段のビルドアップが活きてきます。田辺がアンカー役となり、CBからの縦方向のパスを受けたり、最終ラインに落ち数的有利を作ることで楽に前進出来ます。この時、特に田辺が最終ラインに落ちた時の二ウドは、大きく動かず、中央でFW間でパスを受けることを狙っていました。
普段の二ウドは、ビルドアップで動きすぎている場面が多いので、プレビューでは中原を起用して、的確に前進しようという考えを述べました。しかし、この時間帯の二ウドがこなしたタスクは、私が中原に求めたものと同等であり、プレーの幅を見せられました。
勿論、彼の機動力などの持ち味が光った場面も大いにあり、この試合の功労者の一人だと思っています。
②ボール非保持
次に非保持の局面についてです。
ここでは、秋田の強みであるロングボール→回収からの展開を潰そうという策に触れます。
大きく2点です。
②-(1) とにかく大きくクリア!
②-(2) SHの立ち位置とスペース処理
②-(1) とにかく大きくクリア!
秋田はロングボールのクリアをDHやSHが回収する狙いがあります。
ならばクリアでそのエリアに落とさなければ良いという理論です。
理屈では簡単ですが、実行は難しい。と思っていました。
が、両CBは何とか遂行してくれていたと思います。
様々な形で送られてくるロングボールをタッチラインに逃げてプレーを切ったり、相手SBの所まで跳ね返して、鹿児島の選手が前向きでプレスに行ける状況を作り出してくれていました。
また、DHの貢献も見逃せません。CBも百発百中でプレーを分断できるわけではないので、特に二ウドはその機動力を活かし、相手DHにボールが渡りそうになるところを幾度となく阻止してくれていたと思います。
またSHも同様に貢献がありましたが、SHについては次で触れます。
②-(2) SHの立ち位置とスペース処理
普段の鹿児島なら、SHは相手SB、場合によっては相手CBまでアプローチし、ボールを奪おうとハイプレスを敢行します。
しかし、今日は後方でスペースを埋める場面が多数ありました。
これは以下の様に相手DHやSHが使いたい(前向きでボールを受けたい)スペースを埋める意図がありました。
普通に考えると、これではポジトラが出遅れ、攻撃の厚みが薄くなりそうですが、この試合では繋いで前進or自分たちのプレースキックで再開などが出来ていたので、攻撃に絡める機会も多くありました。
また、米澤・牛之濱の猛烈なスプリントで縦に速い攻撃が遂行できる場面もあり、この2人の上下動が肝になりました。
DFを動かした崩し
プレビューでも言及しましたが、秋田はかなり人への意識が強くスペースが空きやすい傾向にあります。
そこを突いた場面は狙い通り見られていました。
特にスローインの場面では、恩恵を受けられていたと思います。
秋田は相手スローインでボールサイドに密集して奪おうとします。
鹿児島は、SHや酒本がボールに近づくことで、背後で待つ馬場の元へスローインを届けられていました。
すると、ある程度余裕を持ってボールを捌ける馬場は、ガラ空きになった逆サイドのSHへ展開が出来ます。SH前には広大なスペースがあるので、運ぶのみという構図が出来上がります。
以上のような論理で、鹿児島が優位にゲームを進められた前半の給水タイムまでの時間帯であったと思います。
金監督の戦術、そして何よりこの試合の意味を共有し、恐れず闘った選手たちの覚悟が垣間見れた立ち上がりでした。
3.第2クォーター
蹴らせたい秋田
一方で、ハイプレスがハマらず思うようにゲームを進められなかった秋田。
鹿児島が繋いで前進しようとする時にはDHが1枚上がってきて、26番田中と共に田辺・二ウドを監視し始めました。
このことで、ゴールキックなどから繋ぐことが難しくなった鹿児島はロングボールを送る機会が徐々に多くなっていきます。
ロングボールの送り先は馬場や酒本、SHも絡んで収めようとしていましたが、全体的に見て分があったのは秋田。
秋田が狙うオープンな展開に移行していきます。
このことで、第1Qで徹底できていたスペースを埋めるポジショニングが難しくなってきます。
相手FW~DH間を埋めていたSHは相手SBと対峙しなければならない場面も見られてきた場面でもありました。
そんな秋田の強みに持ち込まれ、ピンチも多くなった第2Q。
しかし、やられてばかりではありません。
鹿児島が優位だったシーンを2つ取り上げたいと思います。
決めさせてくれない決定機
この試合、一番のチャンスだったのではないでしょうか。
41分の馬場のシュートが"12番目の選手"にブロックされたシーンです。
この場面のチャンスメイクは、秋田にとっては皮肉にも鹿児島がオープンな展開の恩恵を受けたものでした。
秋田のロングボールが流れたところをGKキャッチ→フォゲッチに送り、前進の後、シンプルに裏へ送ったパスから馬場がシュートに持ち込みました。
シュートはGKが弾き、ゴールポスト…改め"12番目の選手"にクリアされました。
DFは振り切れており、コースもあるように見えますが、ここで決めさせてくれないのが今の秋田とでも言いましょうか。
理屈では上手く説明できない運の要素も味方しているような、秋田の強さ・好調ぶりを表している場面だったように見ています。
フォゲッチの予防的ポジショニング
オープンな展開を無失点で耐えられた一因として、フォゲッチのポジショニングが光っていました。
以下のようなポジショニングで攻撃の芽を摘みました。
ゾーン2より後ろでは、4-4ブロックで構える秋田。
ブロック内は密なので、前方が開けているSHやDHから前線へ展開することも多かったです。
そこで大外から少し絞り、ピッチ上のハーフスペース付近(=DHとSH双方とも一定距離を保てる)で待ち構えるフォゲッチが速いプレスを敢行し、ロングボールを阻止できていました。
これまで攻撃面の強みがフォーカスされがちでしたが、良い守備から良い攻撃へ。彼のインテリジェンスが認知できた場面にもなりました。
そんなこんなで前半終了。
まずは鹿児島の策、それに対する秋田の対応と、非常にロジカルに試合が進んだと思います。
4.第3クォーター
テンポダウンする秋田
後半、秋田の入りは比較的穏やかでした。
ネガトラの判断はリトリート主体となり、後方で待ち構えることが多いクォーターでした。
しかし非保持では、序盤は前から行きたいFWと2nd-3rdラインの意図が合致していなかったのか、FWと後方のギャップが大きく空く現象が起きました。
それでも、60分頃には完全にリトリートを選択し、引きこもりました。
秋田もこの辺の意識は改善余地ありなんだなと思うと同時に、ミッドウィークの試合で疲労も溜まってきたのかと思っていましたが、その考えは第4Qで覆されます。ここは後述します。
理想の形、最大のピンチ。
54分、この日最大のピンチであっただろう場面が訪れます。
始まりはGK大西のキックがDHに回収されたところからです。
前線からGKまでプレスを掛けた秋田FW・それを追従するSHとDH間に大きなスペースが生まれていました。
秋田DHは既に相対する砂森を置き去りにした22番沖野に渡します。
藤原が出てこようとしますが、中央へダイアゴナルランしたFWに一瞬気を取られ、22番沖野に前進を許します。
そのまま放られたクロスは鹿児島DFが難なく対応しましたが、形としてはプレビューで言及した、秋田にとって最良の形となっていました。
本当に致命傷にならずに良かった場面でした。
テンポを落とした中で、このように一瞬で刺せる武器を持ち合わせているのは流石としか言いようがありません。
GK大西に見た希望
このように、第3Qは特に特徴的で、第4Qの布石となった秋田の変化について着目しましたが、秋田が撤退する中で鹿児島もポジショナルに前進や崩した場面もありました。
特に、秋田FWのみがハイプレスに来た場面で、GK大西が空いたSBまで中距離のパスを送った場面は素晴らしかったです。
J3とJ2、あるいはJ1を比べたとき、この中距離パスの精度がに大きな差があると感じています。
そこで、このようなパスを続けて供給できてくれば、安全なビルドアップや攻撃のバリエーションを増やすことにも繋がると思うので、今後もチャレンジして行けるとチームとしても一歩上のステージに行けると考えます。
5.第4クォーター
ハイプレス秋田、しかし。
第3Qの撤退は布石だったと気付いたのが69分頃。
秋田はSHに入っていた11番久富も前線に張り出し、数を合わせサイドに密集を作り、再びハイプレスを掛けてきました。
これに対して、またもやロングボールを余儀なくされた鹿児島。
しかし、この時間帯はカオスで先手を取ったり、単純にハイプレスを回避出来たりと、上手く前進出来ていました。
これは秋田も誤算だったかと思います。
しかし、根本の問題は規制が掛からないFWのプレスでもあり、帰陣の意識も低いように見えました。
こうなると、勝ち越したい鹿児島。
サイドチェンジからフォゲッチクロスなどお決まりのパターンで攻めます。
しかし、堅守を誇る秋田。簡単に得点はさせてくれませんでした。
秋田を褒めるべきでもありますが、金監督もコメントしていた通り、攻撃のバリエーションが少ないために事前のスカウティングで織り込める、想定内の攻撃に終始していました。
その解決法が兵站なのか、戦術なのかは議論の余地がありそうですが、後半戦の1つのテーマではあると思います。
というわけで、取れそうで取れない、奪われそうで奪われなかった試合はスコアレスドローで完結しました。
得点機会も十分にあったことも考えると、鹿児島としては手痛いドローとなりました。
6.あとがき
ドローに終わった秋田戦を振り返りました。
どちらの流れに持ってくるか、2手3手と戦術が行き交った試合になりました。
これで首位をキープした秋田との勝ち点差は13。秋田は1試合未消化でもあります。
残り試合の数が現実的に逆転しうる勝ち点差とはよく言いますが、それを基準とすると秋田が大失速しない限りは優勝は厳しくなったと言わざるを得ません。
2位熊本との勝ち点差11を考えても、今後の試合でかなり勝ち点を積み上げなければなりません。
今シーズンこれまでに積み上げて形になっている部分もありますが、もう1ステージ上に上がらなければ昇格圏に向けた重要な勝ち点を取りきれないことも示唆されました。
不幸なことに今年の過密日程では、毎試合十分に戦術を仕込むことは難しいと思います。
しかし、1年でJ2復帰するにはこなさなければいけない課題です。
現実的には補強がベターでしょうが、この環境下でどう戦略を企てるでしょうか。
もう少し見守っていく必要がありそうです。
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