J3 第23節 プレビュー【ヴァンラーレ八戸 vs 鹿児島ユナイテッドFC】賢者は強者に勝るか
2020.10.25 J3 第23節 プレビュー
ヴァンラーレ八戸 vs 鹿児島ユナイテッドFC
お久しぶりです。すっかり涼しい、どころか肌寒くなってきましたね。
私生活がひと段落し、ようやくまた文章を書けました。
秋田戦から始まった上位5連戦は1敗1分の後、3連勝。しかし、続くC大阪U-23戦ではスコアレスドローに終わる悔しい結果に終わりました。
とはいえ、昇格圏まで勝ち点差5の5位に付けており、今後の勝ち点積み重ねでJ2も見えてくる位置に居ます。
そんな次節の相手は八戸。
下位に落ち込むものの、ロジカルな構造を仕込んでいるチームです。
しっかり対策して、勝利を掴みたい相手を見ていきます。
ご笑覧ください。
1.ヴァンラーレ八戸 直近の状況
八戸は、直近5試合で1分4敗。
第16節G大阪U-23戦で勝利を挙げて以降、7戦勝ち無しの現状です。
苦しい現状ですが、さらに厳しいことに前節富山戦ではCBの6番河津が競り合いで頭部を強打し、途中交代。まだ八戸からリリースは無いようですが、ダメージを考えると、今節の出場も難しいかもしれません。
数字を見ても、各数値が下位に落ち込んでおり、苦しい道中であることが窺えます。一方で得点パターンとしては、ショートパスからの得点が4割ほど。繋いで崩すチームスタイルが現れています。
2.直近のスターティングメンバ―
最近のスタメンは以下の通り。
基本フォーメーションは1-3-4-2-1。
沼津戦からこのフォーメーションに変更しています。
現フォーメーションに移行後、CBは固定していましたが、前述の通り6番河津は出場が難しい可能性があるので、30番黒石が出てくると思われます。
一方で前3枚は様々試していますが、画像に示した組み合わせが最も効果的なスカッドかと思われます。理由は後ほど言及します。
それでは、次項から八戸の戦術を見ていきます!
3.八戸の戦術
3.(1)ボール非保持
ゾーンを2つに分けて述べます。
(1)-1 ゾーン3~2
① プレッシング
プレッシングは基本的にゾーン2から始めます。
ゴールキックを繋いでくるチームには時折ゾーン3まで追いますが、守備陣形が整っている中でゾーン3まで深追いすることはほとんど見られません。
前線からの守備では、連動が間に合わず簡単に剥がされる場面も散見されます。そこで前進を許すと、ゾーン1までリトリートを優先します。
このリトリートやプレスバックも、前線からのプレッシングで人数を掛けるので、相手のファストブレイクには広大なスペースを明け渡す場面も多く見られています。
② 組織的守備
具体的な組織的守備についてです。
フォーメーションとしては5-4-1~3-4-2-1でWBの上下動が多くなります。
4バック戦では、プレスのスイッチとしてボールサイドのシャドーがCBに対して外切り。もう片方のCBにパスを誘導したところで、FWがさらに逆サイドへ誘導。
逆サイドではシャドーとWB、DHがパスコースを塞いでいて袋小路になったところを回収、またはロングボールを蹴らせて最終ラインで回収していました。
ここでは5-4-1を作っても選手間の距離を詰めて位置するため、「5」脇の逆サイド大外の選手が空くこともあります。DHなどから逆サイドに展開できれば、一つの選択肢になりうるかと思います。
(1)-2 ゾーン1
①プレッシング
ゾーン1ではスペースを守ること、リトリートを優先し、中央に密集を作ってパスコースを作らせず、サイドに誘導します。
一方で、被シュート時は勿論、ペナルティエリアへの侵入や、ボールの雲行きが怪しい=ボールホルダーが後ろ向きなど組み立てが難しい状況では、猛然と人にプレスを掛け、危険なスペースへの侵入を阻止しようとします。
個人能力で後塵を拝せど、組織としては目的を持って守備を行っているように思います。
(1)-2 組織的守備
ゾーン1では完全に5-4-1で後方に人数を掛けています。
守備の目的は前述の通りですが、人海戦術的にペナ内の人数が多くなるので、ここまで撤退する時間を与えてしまうと崩し切るのは難しいように思います。
しかし、3-4-2-1移行当初や10番新井山がDHにいる時、9番上形がシャドーに入った時は中央から動きすぎたり、スペース管理の意識が甘いなどして2ndラインで中央がガラ空き、ということもありました。
恐らく、このスカッドは使われないとは思いますが、もし上記のようなスカッドになれば攻めどころかと思います。
3.(2)ポジティブトランジション
ポジトラです。
フォーメーション変形してから一か月ほどで、形が定まらないところも多いのではないかと見ていますが、基本的に相手の状況を見て判断を変えているように思います。
(2)-1 相手陣形がオープン
相手陣形がオープン=相手陣地に人数が少ない・陣形が整っていない、要するに攻め込まれた後や相手攻撃の芽を摘めた時の対応です。
この時は、シンプルに1トップへロングボールを送ります。
ゾーン2以降では、1トップにシャドー2人が関わり脅威的な攻撃になることもありますが、ゾーン1では5-4-1=重心が重い守備陣形となっているので、1トップ以外の選手が上がる時間を確保出来ず、単発な攻撃になることが多いです。
(2)-2 相手陣形がクローズ
相手陣形がクローズ=相手陣地に人数が多い・陣形が整っている、相手の守備準備が出来ている状況です。
この場合には、単純にロングボールを送っても基本的に回収されてしますので、簡単に蹴らず、最終ラインからのビルドアップに移行します。
そりゃそうだ!と言いたいところですが、今シーズンは秋田というクレイジーなチームがこの局面からカオスを起こそうぜ!とロングボールを多用する上に、首位を独走しているので、言及せざるを得ないなという気持ちでこの文章を書いています。改めてなんなんすか、あのチーム。
3.(3)ボール保持
さあ、秋田への嫉妬も出たところで八戸のボール保持について述べます。
(3)-1 ビルドアップ・遅攻
ビルドアップ~遅行です。ビルドアップには明確な意図があります。
CB3枚とDH、WBが主なビルドアップ関係者です。DHは中央に固定することで、中央に通されることを危惧した相手2トップはサイドへ行きにくくなります。また、相手SHは大外でWBがピン留めすることで、左右CB(以下、HVと表記)からシャドーへの楔が入ります。ここが、主なビルドアップの出口となっています。
その後、先手を取ったWBやDHにレイオフして展開、などが主なパターンとなります。
特にWBとシャドーの上下・内外関係が交差することも多く、守備側は誰に行くべきか錯乱させられると思いますので、注意が必要です。
一方で、ハイプレスを仕掛ける相手にはビルドアップで苦しみ、蹴らされることも多いという弱点も見られました。
ビルドアップに対しては、明確な意図を持ってプレッシングを構築したいです。
(3)-2 ファストブレイク
ファストブレイクについては、ゾーン2においてオープンな状態で奪われた状況を注意すれば良いかと思います。
前述の通り前線3枚が絡めると、中央の3レーンで内外の交差にて縦に速く攻め切ったり、後続のWBやDHに落としてミドルなどの選択が出来ています。
もっとも、相手側としては中途半端に攻撃が終わってしまった時のパターンですのでクリーンに攻撃を終わることや、予防的ポジションを外さないことを徹底したいです。
3.(4)ネガティブトランジション
最後にネガトラです。ゾーンを2つに分けます。
(4)-1 ゾーン3
最前線まで押し込んでボールを奪われたときは、前3枚とDH、WBも含めてハイプレスを敢行します。
プレスのスイッチは前3枚の中でボールに近い選手が入れますが、規制を掛けるというよりは奪いきる、タッチラインやゴールラインに逃げて守備陣形を整えるためにアプローチする印象です。
(4)-2 ゾーン2~1
ゾーン2より近い場所で奪われると、プレスバックで相手攻撃を遅らせながら自陣に戻ります。
しかし、WBはボール保持時の位置的にも走力的にも帰陣が遅く、横幅68mを3バックで守らなければならないことも多いので、速い攻撃が効果的なように感じました。
4.対策
これらを踏まえた上で、鹿児島は何が出来るか?を少し考えます。
大きく2点を挙げます。
①ハイプレス&ファストブレイク
技術的に完全ではないビルドアップに対するハイプレス、帰陣が遅くなったところにファストブレイク。
これはもう、確実にハマりそうだなと見ているので実行してほしいですし、これまでの戦い・金監督の嗜好を見てもやってくれると思います。
②SBと「4」の脇
主にゾーン2にて八戸が5-4-1に移行した時のお話です。
これは一般論ですが、5-4-1に対しては「4」脇でボールを受けて、外側の選手を引き寄せたり、アーリークロスを放ったりするのが正攻法の一つだと思います。
八戸も例に漏れず、ここからのアーリークロスで簡単に放られ、シュートまで持ち込まれる場面が多々ありました。
鹿児島は、DHにボールを付けるなどしてフォゲッチや砂森がフリーでこのスペースを占有出来たところでアーリークロス、のパターンは実現できそうなので叶うことを期待します。
5.あとがき
八戸の特徴を見てきました。
ロジカルなチームではありますが、正直このコンセプトを実現するには選手のクオリティであったり、戦術の落とし込みは不足しているように思います。
J2でもリカルド徳島やロティ―ナ時代の東京V、愛媛なども論理的なサッカーをしながらなかなか目的達成出来る結果が出ず、苦しい過去がありましたが、八戸はさらに厳しい現状に思います。
兵站は資金面の問題も生じるので仕方ありませんが、八戸の中口監督は今シーズン限りでの退任が決定。
今後中口監督がどう動いていくかは分かりませんが、来年の八戸はガラっとサッカーが変わるのだろうと思います。
「賢者は強者に勝る」はプリンストン大学でアメリカの大学バスケ界を揺るがしたピート・キャリルの名言ですが、今シーズンの八戸は賢者とは評価されず、戦績でも強者に苦汁を嘗める闘いが続いています。
中口体制での八戸と戦える最後のチャンスですので、「賢者」の面において論理で闘いたいと思う一方で、強者として、そしてもう一つも落とせない挑戦者として勝ち点3がどうしても欲しい試合です。
ジレンマも生まれそうな試合ですが、まずは勝利を挙げられることを切に願います。
笑ってレビューが書けるよう、日曜日へ願いを込めて。