J3 第2節 レビュー【ロアッソ熊本 vs 鹿児島ユナイテッドFC】吉兆と停滞と
2021.3.20 J3 第2節
ロアッソ熊本 vs 鹿児島ユナイテッドFC
こんにちは。
今回は熊本戦。バトルオブ九州なのか九州ダービーなのか呼称を確定させて欲しいと思うこの頃です。頑張れ、メディア各位。
前節、熊本はというと、今治相手にウノゼロで勝利。
僕曰く、ペヤングのトリュフパウダートッピングです。
何が言いたいのか意味が分かりません()
※注:3-4-2-1でなく、3-4-3が尤もらしい表記です。
いやしかし、選手の配置や動きには原理原則が感じられ、オーガナイズされたチームであります。そんな熊本相手に鹿児島は、出来たこと・出来なかったこと多々残りました。今週も振り返っていこうと思います。
ご笑覧ください。
0.スターティングメンバー
まずはスタメンからいきましょう。
鹿児島は前節から野嶽惇に代わって山谷がスタメン入り。待望の左サイド順足SHの起用です。実際には、大外でなかなか収められなかったのでトップ下や米澤に寄って、プレーに絡むシーンが多くなりました。後に何回か触れていきます。
しかし、順足でSHにいる意味は大外勝負!だと思うので、大外で我慢して創意工夫して欲しかったという印象があります。どうしても個人戦術に左右されるので仕方ありませんが、今節を機会に改善に取り組むはずなので今後に期待です。
一方の熊本は、前節から東出に代えて岡本、水野代えて岩下への変更。怪我人除けば、ほぼベストな布陣でしょうか。
基本形は3-4-3ですが、ボール保持では4-3-3、非保持では4-3-2-1に変形すると見れば理解しやすい立ち位置を取ります。
また、各々の陣形が5レーンに当てはまるので、中央のスクエアが自由に動く鹿児島より、原理原則に即した(見る側としては理解しやすい)動きになりやすいです。
また若干のメンバー変更があったといはいえ、熊本は3トップ+DH2人、WBまでもゾーン3までプレッシャーを掛け即時奪回、ポゼッションを高めたい思惑があるのは同じ。
鹿児島ビルドアップ陣にも焦りと迷いと、未完成ゆえの危うさが生じたことから上手く前進できない時間が続く中、効果的な立ち位置を取り続けたのは左SBの彼でした。
1.砂森の貢献
前節は基本的にインナーに入り、DHやトップ下とポジションを入れ替えながらビルドアップに絡んでいた砂森。
今節は熊本の守備が4-2-3-1を取り前プレ行う=中央にスペースが無くなることから、偽SBの立ち位置は必ずしも有効になり得ません。
そこで、効果的に熊本プレス隊を交わすためにポジションを取っていた1例が19:00のシーン。
ビルドアップにて田辺がボールホルダーの場面です。
最初は中原が田辺左に落ち、砂森がインナーに入っています。
そこから中原が中央レーンに位置を取り直し、18番杉山を引きつけます。それに準じて、定位置に戻る砂森。田辺→砂森へとパスが通りますが、18番杉山のプレスは追い付かず、五領に楔を入れました。
ここで重要だったのが、定位置に戻った後の砂森のポジショニングでした。18番杉山と8番上村の中間ポジションに立つことで、前節から相手SBへのプレスが義務になっていたWB上村の引き出しに成功しています。
そのことにより、山谷は右HVの2番黒木と対面する形が出来上がり、そこにパスが通れば熊本ゴール前中央を手薄にしながら大外で勝負出来ます。
この場面では、五領のところでカットされてしまいますが、相手を見た砂森の位置取り・6番河原を引きつけ、楔パスのルートを作った中原・中原と砂森の関係性、が上手く折り混ざり、熊本プレス隊を出し抜けた場面だと思います。
また、反対に陣形を見てインナーで受けることで効果的な前進を生み出すパターンは今節もありました。
17:20〜の場面です。
今度はウェズレイがボールホルダー。
話は逸れますが、今節のウェズレイは素晴らしい運ぶドリブルが2回ほどありました。チーム全体としてそれを活かす構築がまだなので、単発で終わりましたが、前節以上にボール保持で価値を発揮しています。
そのウェズレイの良さは、チームとして機能してきた時に再度言及するとして、シーンに戻ります。
田辺がウェズレイから離れることで18番杉山がウェズレイ→田辺のパスコースを切るべく前進しました。
つまり中央のスペースが広くなった瞬間です。
それを見るや否や、8番上村を引きつけながらインナーに侵入する砂森。ウェズレイからパスを受け、田辺に落とすことで、田辺はフリーでボールを持てました。
田辺から下がって受けようとした山谷へのパスは失敗に終わりますが、相手の少ない変化を見逃さずポジションを取り直した砂森の機微がハマったシーンでした。
しかし、「その後」の停滞も気になります。
冒頭にも書きましたが、今節の山谷は我慢しきれずにボールに寄りすぎる場面が多かったかと思います。
やはり3トップは相手DFラインを押し込んで、トップ下が時間とスペースの余裕を持って間受け出来るのが理想だと思うので、今後改善したいところです。
2.密集形成の危険
続いては、前節からの宿題です。
密集形成→2択を迫る→オープンなSHに。という形は再現性があるらしい、というのは前節のレビューでも述べました。
今回は、原理原則より、選手のアイデアベースで作る密集の危険性についてです。
前節も見られていたんですが、今節は失点に繋がってしまいました。1失点目のシーンです。
田辺→砂森へのパスがカットされたところから話は始まります。
田辺と両DHが左サイドで密集を作っていたため、4vs4の構図が出来上がったところでのロストでした。
DHが左に寄ったため、当然中央はガラ空きになります。そこでCFの浅川が中央にてフリーになり、パスを納めました。
この時、鹿児島の前3枚はDFラインピン留めの為ネガトラに参加出来ず、ウェズレイは距離的に、衛藤は13番北村にピン留めされていたため動けません。11番浅川は左の7番岩下に展開します。
岩下は大外に開いた13番北村へさらに展開。その後、岩下のチャンネルランが実質的なチェックメイトになりました。五領が付いていき、後方でブロックを組んでいた選手達も注意を払ったことで、再び11番浅川がフリーに。
慌てて野嶽寛がプレスに向かいますが、クロスを放られ山谷のハンド→PK献上に繋がります。
いわば即興的な要素が強い鹿児島のビルドアップ。ネガトラに備えた予防的ポジションが取れないことも多々あるのが現状かと思います。
その為に、原則が誰でも認知でき、汎用性が高い5レーンが常識化していますが、サイド密集を作るにあたっては反映が難しい。というわけで、密集を作るにせよ逆サイドSHのアイソレーションは確保しつつ他の選手で補完するなど、経験を積み上げていくしかないかなぁという部分です。
3.酒本とビルドアップと、社会情緒的優位性と
ビルドアップの焦りと酒本の投入
ビルドアップの話に戻りましょう。
砂森が活躍していたものの、前述のようにビルドアップでは熊本のアグレッシブなプレッシングに苦労しました。
正直、熊本はアグレッシブであれど規制する方向が曖昧だったり、ユニットとしての守備の相互作用はもう一つというところもあります。
そこが、僕曰くの「ペヤング」と形容した部分であります。
なので、もしかしたら剥がせるかもと思っていましたが、前節からの今節ではやはり難しかったです。
とはいえ、ビルドアップ時の選手の配置には、前節より幅と奥行きを広く取っていたと思うので、前から来る熊本プレス隊を分断させようという狙いは見えていました。ただ、各々の経験値不足が響き、上手く前進が出来なかったと見ています。
そこで、後半頭からは酒本が投入されます。
その酒本の個人戦術により、ビルドアップは改善しました。
酒本がピッチ上で見せた違いは、パスを貰う前の体の向き・コントロールオリエンタードの精度・ユニット外の選手までの認知・プレスに対して正対する体の向き・そもそものボールコントロールの技術、などでしょうか。
特に、パスの選択肢を削がないor無理筋にパスを送り込まないためのファーストトラップについては、他の選手とは一戦を画したと思っています。
個人の質のところなので、なかなか簡単には改善とは行きませんが、上に行くためには必須なので個々のスキルアップか選手獲得か、対策していく必要があります。
酒本と、ユニットの優位性と
また酒本が入ってから見られ始めた現象があります。55:30のシーンです。
ポイントは、米澤が熊本DH脇まで降り、大外を滑走する衛藤にスルーパスを送るまでの中継係を始めたことです。
恐らく、ここまで降りてくることは前節無かったと思います。この位置にはSBが入ってSHまでの中継地点になることが多かったためですね。
それが今節生じたのは、「酒本と近くでプレーすれば、後ろで生まれた時間とスペースを確保しながら前進出来るぜ!」という自信があったのが一因なのでは?と考えています。
ユニット内で「こいつならこうするはず!」が共有でき、互いにプレーを分かっている状態、いわゆる社会情緒的優位性が前進の一助になったという考え方です。
ここは仮説の中の仮説なので、次節以降も注視していかないといけませんが、単純に一緒にプレーした経験値はやっぱり大事だなと思わされた場面でした。
4.黒木がもたらす葛藤
今年もこの人に言及しなければなりません。
熊本の右HV、2番の黒木です。
ボール保持にて4バックに変形とは言いましたが、3バックを基本位置としているので、今年は黒木が急所をモロに突ける位置にいたと思います。
抽出するのは、49:45のシーン。
熊本最終ラインの左から右に展開していった場面です。
五領と薗田は、左HVとCBにアプローチしていたため、右の黒木に間に合っていません。さらに黒木は運ぶドリブルで前進します。
この時、3つの選択肢を迫られたのが山谷でした。
その3つが以下の通り。
①黒木の前進を阻止
②大外のWB上村へのパスを牽制
③インナーに入った18番杉山を背中で消す
パッと見で観測できただけでも、このような場面が試合を通して6〜7回あったと思います。不憫な山谷。ボール保持にて大外で受けられなかったのも、黒木との対面で後塵を拝したのが一因でもありました。
こういった黒木の個人戦術を元に、山谷の高さを超える+大外で張っていたWB上村・それに伴いHSに入ったWG杉山と、山谷に選択肢を与えられる立ち位置を取っていたのが熊本の素晴らしい部分でした。まさに5レーン理論の効果発揮です。
そして、これこそが僕曰くの「トリュフパウダー」要素であります。
これにて、僕曰くの「ペヤングのトリュフパウダートッピング」の意図説明が完了です。
本当に有難う御座いました。
5.あとがき
熊本戦、見てきました。
確かに多くの時間上手く行かなかった、停滞していたのは事実です。
しかし、あまり悲観的になる内容でも無かったという印象でした。
今日は得点に触れませんでしたが、ウェズレイが万全の体勢でヘッド出来る状況が出来ていたり、守備ブロックの前で米澤が1つ浮くことが出来たり、個の質だけでない脈略が出てきていると思います。
今シーズン後、あるいは数年後に何が待っているかは分かりません。ただ前進はしているし、必死に突き抜けようとしている様子は窺えます。
この文章が、その経過を追うお供になれたらと思います。
来週もよろしくお願いします。